溜飲は下がった、かもしれないが。

死刑判決確定から44年、静岡地裁・村山コートでの再審開始決定からも実に10年強。

ようやく袴田巌さんに再審無罪判決が出た。

この事態を引き起こした刑事司法のあり方等については、もう散々いろんなところで問題提起されているから、あえてここで書くことはしない。

ただ、今回の判決を伝える報道を見て気になったのは、静岡地裁が「証拠捏造」まで踏み込んで判決を書いた、とされている点だろうか。

(その制度としての是非はともかく)再審開始決定を行う上では無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」が必要、ということになっているから、弁護人側から提出された鑑定書等がいったん確定した判決で事実認定の基礎になっていた物的証拠の証拠価値を揺るがすものである、ということを強調するために弁護人側が描いたアナザーストーリーにまで言及して決定文を書こうとした裁判所の心情は分かる。

だが、ひとたび再審が始まれば通常の刑事訴訟と同じだから、あとは「合理的な疑い」をさしはさむ余地があるかどうか、ということさえ言えればよいはず

そして、5点の衣類を味噌タンクに漬け込んだのが誰であろうが、「犯行直後に漬け込まれた」という検察側の立証に疑いを入れる余地があることさえ指摘すれば、無罪判決は言い渡せたはずだから、さらに踏み込んで「捜査機関の捏造」とまで言う必要があったのかどうか・・・*1

もしかしたら、裁判所は、再審の段階になってもなお有罪立証の形を崩さなかった検察官を戒める、という観点からそこまで踏み込んだのかもしれないし、その背景に各裁判官の純粋な正義感があるのだとすればそれをとやかく言うことはできないのだが、「捏造」が認定されたまま矛を収められるほど今の日本の捜査・訴追機関は洗練されていないようにも思える中で「早期に無罪を確定させる」という観点からそれが必要な判示だったのか、なんとも言えないモヤモヤは残る。

既に「無罪確定」のムードも世の中に漂っている中、できることなら検察側がグッとこらえて控訴見送りの判断をしてくれる、と信じたいところではあるし、そうなれば、今回の判決も捜査手法を一刀両断して、刑事司法の新たな地平を切り開いた名判決、という評価を受けることになるのかもしれないが、現時点ではまだ予断を許さないな・・・と思うだけに、ここからの14日間、緊張感をもって見守りたいと思っている。

*1:現時点では実際に判決文を読んでいるわけでもないので、どの程度断定的なトーンでこのくだりに言及されているかも分からないのであるが。

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