人数増えても予備は予備。

論文試験の結果発表を見て、“予備試験戦線異状あり”的なエントリーを上げようかと思っている間にあっという間に1ヶ月経って、口述試験の結果まで出てしまった。

法務省は7日、法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる司法試験予備試験の今年の合格者が351人だったと発表した。前年より132人増え、合格率は3.8%。法科大学院と大学(学部)に在学中の現役学生は271人で、全体に占める割合は77%と前年(59%)より大幅に上昇した。予備試験は経済的事情などで法科大学院に通えない人向けに設けられたが、「バイバス」として受験した学生が合格者の大半を占めたことで、制度の形骸化が一段と鮮明になった。」(日本経済新聞2013年11月8日付け朝刊・第42面)

今のメディアは、一度ネガティブなレッテルを貼ってしまうと、どんなネタだろうが、ろくに中身も検証せずに叩く傾向が一段と強まっているようで、「法曹養成制度」などはまさにその典型。

確かに、制度本来の趣旨を考えると、法科大学院に通う、という選択をするのが難しい“社会人世代”の人々が多く合格するにこしたことはないのだろうが、「現役学生」だからといって「経済的事情で法科大学院に通えない」というカテゴリーにあてはまらないか、と言えば、そんなことはないはずで、「大学院にまで進学して親に負担をかけるのはちょっと・・・」という学部生はもちろん、法科大学院在学生だって、1年でも早く実務に就きたい、という人は多いはずである*1

また、予備試験の合格者数が増えると、必ずと言ってよいほど、「法科大学院制度の趣旨が・・・」という話も出てくるのだが、どんなに受験者が急増して、若手合格者の比率が高まっていると言っても、所詮は「司法試験の受験資格を得るための試験」に過ぎないわけで、合格した彼/彼女たちが、翌年以降に新司法試験を受けて合格する保証など何一つない。

受験回数が制限されていて、「一度失敗すると、残りの受験回数を意識してさらに焦る」というのが、新試の受験者心理、というものだろうから、法科大学院で2年、3年じっくり力を付けて満を持して受ければ1回で受かるものを、生半可、予備試験ルートを使ったばかりに、心理的に追い込まれた状況で複数回受験しなければならなくなる・・・という可能性だって十分考えられる。

昔、いくつかの有名大学の法学研究科には、“学士助手”という制度があって、院に行かなくても研究者になれる、という不思議なルートがあったのだが、だからといって、大学院に意味がない、という話にはなっていなかったはずだ*2

法科大学院に行くか行かないか、という選択も、結局は同じことなのではないか、と自分は思っている。


ちなみに、今年の数字*3を見ると、記事が指摘するように、今年の予備試験では、「20〜24歳」というカテゴリーの受験者が1000人以上増加し(1731人→2894人)、合格者ベースでも86名から207名へと3倍近く増加している。
全体の傾向と比較すると、受験者ベースでは増加数(7183人→9224人)の半分くらい、合格者ベースでは増加数(219名→351名)のほとんどをこの世代が占める、ということで、合格者の平均年齢も一気に3歳近く低下した(30.31歳→27.66歳)。

もちろん、これだけ全体のパイが大きくなると、合格者数ベースでは他の世代でもほとんどの区分で人数が増加しているのだが*4、「法科大学院生」のカテゴリーに属する受験者が526名から1456名、と1000名近い大幅な増加を見せたことの影響は、やはり大きい(合格者ベースでも61名から162名)。

また、今年も3929名受験、101名合格、と、気を吐いた「旧試験のみ受験したことがある」というカテゴリーの受験者が、頑張って存在感を示し続けることができればよいのだが、「(新試も含めて)受験したことがない」という受験者が既に200名近く(196名、前年は74名)に達している今となっては、“旧試only組”の看板も風前の灯だなぁ・・・と思わずにはいられないわけで、その辺に少しさびしさは残る。

ただ、いかに寂しさを感じるとしても、同時に、誰もが公平な立場でチャレンジできる、という旧試験時代以来からの精神は受け継がれて行かなければならないものだと思うだけに、予備試験の受験資格を制限すべき、といった論調には、俄かに賛同することができない。

来年以降、この「予備試験」というマイナー試験が、どういう結果となり、どういう形で世間に注目されることになるのかは分からないのだけれど、あくまで予備試験は“予備”に過ぎない、ということ、そして、人それぞれの選択肢は、多様であればあるほど業界の活力も増す、ということを念頭に置いていただいた上で、一面的な視点で、制度がさらにおかしな方向に歪められることがないように・・・ということを、ただただ願うのみである。

*1:単純に「経済的理由」ということで言えば、一定期間働いて蓄えがある(かつ、修了後の進路選択の幅も広い)現役社会人の方が遥かに余裕がある、という見方もできる。

*2:生半可、助手になったばっかりに・・・という人もいるとかいないとか・・・で、先を急ぐことだけが良いわけではない、という人生の構図を見事に表していた世界だったような気もする。

*3:平成25年度のデータについては、http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji07_00112.html参照。

*4:45〜49歳の世代が12名→3名、と残念な結果となったが、それ以外の世代では、ちょっとずつ増えてはいる。

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