あっけなく終了した「自炊代行」訴訟・第1ラウンド

先日、東京地裁の民事第29部で、自炊代行事業者の敗訴判決(以下「9月判決」という)が出たときに、自分は失望を隠せなかったし、その通りのことをこのブログにも書いた*1のだが、あの時点では、まだ別の合議体における2本目の判決言渡しが後に控えている、ということで、まだ微かな期待は抱いていた。

だが、10月30日に民事第40部で言い渡された判決も、残念ながら何ら状況を変えるには至っていない。

ということで、あえてご紹介するまでもないのかもしれないが、一応、記録としてここにとどめておくことにする。

東京地判平成25年10月30日(平成24年(ワ)第33533号)*2

原告:X1〜X7(小説家、漫画家及び漫画原作者
被告:株式会社ユープランニング及びY1(代表取締役)(ブックコピー)
   株式会社タイムズ及びY2(代表取締役)(スキャンエージェント)
   株式会社ビー・トゥ・システムズ及びY3(代表取締役)(00paper.com)
   有限会社ジャカレ・アセット・マネジメント及びY4(取締役)(PDFBOOKS)

原告らと、その代理人は、おそらく9月に判決が出た事件と同じで、被告側も、会社こそ違うものの、事業形態(不特定多数の利用者からの注文に応じ、書籍や雑誌をスキャナーで読み取って有料で電子ファイル化し、利用者に納品する)は9月判決事件の当事者とほぼ同じ、という構図となったこの事件。

ただ、唯一異なるのは、この事件においては、被告側に代理人のお名前が挙がっていないことで(要するに「本人訴訟」ということ)、しかも、被告ユープランニングとY1は、公示送達による呼出しを受けたが本件口頭弁論期日に出頭せず、被告ジャカレ及びY4は、第1回口頭弁論期日に出頭して答弁書を陳述したものの、続行期日に出頭していない。

ということで、始まる前から、被告側の旗色はかなり悪かった、といえる。

それでも、被告ビー・トゥ・システムズは、以下のとおり、著作権法21条の「複製」該当性を争い*3

「被告ビー・トゥ・システムズが行っているのは書籍の加工であり,複製ではない。すなわち,原本は背表紙を切って裁断し,本としての体裁をなしていないし,ほとんどの原本は廃棄しており,1冊の書籍は一つの電子的な資料として返し,加工済みの書籍は廃棄又は返却を行っており,被告ビー・トゥ・システムズからこれを販売することはない。電子化後のデータは依頼者を特定して送り,販売はしていない。料金の設定は作業時間から算定しているためページ数で価格が異なり,書籍の価値で決定しているわけではない。これらのことによれば,書籍の複製を行っているとはいえない。」(12頁)


被告タイムズは、以下のとおり、著作権法30条1項該当性を主張している*4

「被告タイムズが運営しているいわゆる自炊代行サービス「スキャンエージェント」は,著作権法30条1項で認められる私的使用のための複製に該当する行為を代行しているものである。被告タイムズは,書籍を裁断し,裁断された書籍をスキャナー機器で読み取り,読み取った電子ファイルを納品するといった複製行為を担っているが,その行為は,利用者の「私的使用の複製」を代行するものであり,利用者が自ら所有する書籍を私的使用の範囲内において複製する意思,その行為を第三者に依頼する意思のもとに,本件事業は成立する。被告タイムズが利用者から預かった書籍をどのような形で複製するかについては,インターネット上において告知されており,利用者は,その内容をもとに,被告タイムズのサービスと他の同種サービスを比較選定する決定権のみならず,そのサービスを利用しないという決定権も有する。さらに,本件事業における複製行為は,専門的知識や技術を要するものではなく,利用者が自ら実施できる非常に容易なものである。利用者は,複製行為にかかる時間,労力を節約することを目的に,被告タイムズにその行為を指示し,その対価を支払う。被告タイムズは利用者の意思決定のもと,その私的使用の複製代行を行う著作権法30条1項において私的使用の複製が認められているのは,限られた範囲内で複製して使用することが,著作権者の不利益にはならないという趣旨であることからすると,私的使用の複製代行である被告タイムズのサービスはそれに沿うものである。被告タイムズの行う本件事業によって原告らには何ら不利益は生じていない。」
「被告タイムズは,この私的使用の複製代行が法に反するものであるかについて,サービスの検討段階から訴訟に至るまで各方面に問い合わせを実施し,いずれも違法ではない旨の回答を得ている。」(12〜13頁)

最後の一文は、(立証できるあてもないのにこれを主張したのだとすれば)少々余分だったかなぁ、と思うところだが*5、それ以外の主張については一応筋は通っており、代理人がいない状況においても、最低限の主張は行っていた、といえる。

だが、裁判所は、9月判決に引き続き、「複製」該当性に係る主張を、

著作権法にいう複製とは,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをい」う(著作権法2条1項15号)ところ,本件事業においては,書籍をスキャナーで読みとり,電子化されたファイルが作成されているものであるから,書籍についての有形的再製が行われていることが明らかであり,上記複製に当たる行為が行われているということができる。」
「これに対し,被告ビー・トゥ・システムズは,裁断済み後の本としての体裁をなしていない原本は廃棄ないし返却するなどして,1冊の本から一つの電子データが作成されていることや,電子データを販売するなどはしていないことなどから,同社の行為は複製には該当しない旨主張する。しかし,本件事業においては書籍を有形的に再製した物である電子ファイルが作成されており,これにより複製行為が行われていることは明らかであって,その複製の元となる書籍の原本自体の複製後の帰趨や,複製物である電子ファイルがその後販売されているか否かは複製権侵害の成否に影響しないというべきである。」(24〜25頁)

とあっさり退けた上で*6、再びロクラク2事件の「枢要な行為」論を持ち出し、以下のとおり、著作権法30条1項適用を求める主張を退けた。

複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であり,その複製の実現に当たり枢要な行為をしている者が複製の主体であるということができる(最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決・最高裁平成21年(受)第788号・民集65巻1号399頁参照。)。これを本件についてみると,本件における複製の対象は,利用者が提供する書籍であり,問題とされる複製行為は,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成することにあるところ,本件事業における一連の作業は,前記第2,1(8)記載のとおり,利用者においてインターネットのウェブサイトから書籍の電子化を申し込み,直接被告会社らの指定する場所にこれを郵送等するか,あるいは,書籍の販売業者等から直接被告会社らの指定する場所に郵送等し,これを受領した被告会社らにおいて,書籍を裁断するなどしてスキャナーで読み取り,書籍の電子ファイルを作成して,完成した電子ファイルを利用者がインターネットを通じてダウンロードするか,電子ファイルを格納したDVDないしUSB等の送付を受ける,というものである。これら一連の作業をみると,書籍を受領した後に始まる書籍のスキャナーでの読込み及び電子ファイルの作成という複製に関連する行為は,被告会社の支配下において全ての作業が行われ,その過程に利用者らが物理的に関与することは全くない。上記によれば,本件事業において,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成するという複製の実現に当たり枢要な行為を行っているのは被告会社らであるということができる。そうすると,本件事業における複製行為の主体は被告会社らであり,利用者ではないというべきである。」
「次に本件事案に著作権法30条1項が適用されるか否かにつき検討する。著作権法30条1項は,著作権の目的となっている著作物は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは,同項1号ないし3号に定める場合を除き,その使用する者が複製することができる旨規定している。そうすると,同条項にいう「その使用する者が複製する」というためには,使用者自身により複製行為がされるか,あるいは使用者の手足とみなしうる者によりこれがされる必要があるというべきところ,既に検討したとおり,被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズは,本件事業における複製の主体であって,使用者自身でも,使用者の手足とみなしうる者でもないのであるから,本件においては,著作権法30条1項にいう「その使用する者が複製する」の要件を満たすとはいえず,したがって,同条が適用されるものではないと認めるのが相当である。なお,被告タイムズは,同社のウェブサイトにおいて,同社は利用者の私的使用の範囲内での本件事業の利用を求めているとし,それに沿う証拠として,同社のウェブサイトの記事(乙B6)を提出する。乙B6によれば,同社のウェブサイトにおいて,「本サービスはお客様に代わって書籍を裁断及びスキャンする内容となりますので,対象書籍はお客様が自ら所有する書籍に限らせていただきます。また,書籍から変換された電子データは,私的使用の範囲内でのみ利用し,ネット上で公開したり,誰でも閲覧できる状態にしないようご注意ください。」と記載されている。しかし,前記(1)のとおり,あくまで複製行為の主体は被告タイムズであると認められるところであって,乙B6の上記記載は,その認定を左右するものではない。」(25〜27頁)

「枢要な行為」論により、自炊代行事業者を「複製主体」と認定し、著作権法30条1項該当性の検討を“おまけ”モードでしか行わなかった9月判決に比べると、本判決では、一応、30条1項の要件該当性を検討しているようにも思えるが、そこで述べられていることは、「被告が複製行為の主体である以上、30条1項適用の余地はない」というもので、つれなさは、9月判決と何ら変わらない*7

そして、差止請求を認容し、「損害」として「弁護士費用」相当額を各原告につき10万円ずつ認容する、というのも、9月判決と全く同じ帰結である*8

あくまで「正面から戦う」という姿勢を前面に出していた9月判決の被告(特にドライバレッジ(スキャポン))とは異なり*9、タイムズなどは、既にホームページ上のトップに「著作権者から申告があればサービス対象外書籍とする」意向を明確に表示しており*10、許諾されないのであればスキャンしない、というスタンスで乗り切ろうとする構えなのかもしれない。

実際、今回、差止認容判決が出た、とはいっても、それはあくまで「原告7名の著作物」に係るものに過ぎないから、「島耕作」等々、原告らの作品に係る書籍、雑誌等以外のものをスキャンする場合には、理屈の上では判決の効力は何ら及ばない、ということになる(それゆえ、9月判決の被告同様、本件で実質的に争った2社も、未だに事業自体は継続している)。

ただ、これまでに出された2件の判決のまま、判断が固まってしまうと、遅かれ早かれ、ほとんどの著作権者の著作物は取り扱えない、ということになってしまいそうだし、場合によっては、刑事事件の筋で攻められて潰される可能性も否定できないだろう。

それだけに、個人的には、今回敗れた2社に対しても、きちんと控訴して、しっかりとした代理人を立てて、もう少し将来につながる判決を裁判官に書かせるように頑張ってほしいなぁ、と思うのであるが・・・。

いずれ、あちこちで専門家の評釈等も目にすることができるだろうから、その辺の論調も見極めながら、今後の行方に微かな望みをかけてみることにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131001/1380654377

*2:第40部・東海林保裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20131108093445.pdf

*3:「複製」該当性を争ったのは、9月判決事件のドライバレッジも同様であったが、こちらの主張は、経済的利益等を踏まえた規範的評価に基づく主張、というよりは、「作業そのものが『加工』であって『複製』ではない」という、よりプリミティブな主張になっている。

*4:ついでにビー・トゥ・システムも「私的使用のための複製行為にあたる」という主張をしているのだが、自らの行為は「加工」であって「複製」ではない、という主張をしている以上、ここはちょっと違和感がある(善解すれば、これはあくまで予備的な主張、ということなのだろうが)。

*5:実際、判決においては、「被告タイムズは、本件事業の適法性について,本件各作品の出版元である出版社や,一般社団法人日本雑誌協会等,複数の出版関係事業者等に問い合わせをしたが,いずれも適法であるとの回答を得た旨主張する。しかし,被告タイムズは,それに沿う証拠を何ら提出しないばかりか,かえって,原告らからは,これと反する証拠(一般社団法人日本雑誌協会事務局長Bの陳述書。甲46)が提出されており,被告タイムズが,本件事業の適法性について,本件事業を的確に説明した上で,本件各作品の出版事業に関わる者等から適法である旨の回答を得ていたか等については,これを認めることができないというべきである。」(30〜31頁)とあっさり退けられており、裁判所の心証を悪くすることはあっても、有利な判決を得る方向には機能しない主張だった、というほかない。

*6:9月判決に対するエントリーでも言及した通り、自分もこの点については異論を唱えようがないと思っている。

*7:むしろ、一連のスキームについて「利用者が因果の流れを支配しているようにもみえる」と多少はリップサービスをした(その上でMYUTA的法理で被告の主張を退けた)9月判決以上に、冷淡な判決のようにも読める。立法の経緯等に鑑みても、30条1項の複製に際して他人が関与することが全く予定されていないわけではない、ということは明らかなのに、どこまでが「手足」で、どこからが独立した“別個”の複製行為となるのか、そして、「手足」に相当する者だけが切り取られて訴えを提起された時に、果たして30条1項により侵害責任を負わない、と構成する理屈があるのか(今の裁判所の法理によれば、二人羽織でもして、文字通り「使用する者の手足となる」のでなければ、免責される余地はないようにも読めてしまう)、といった点について、今後、掘り下げて考えていく上での示唆が何ら示されていないのは、非常に残念なことだと思う。

*8:この原告代理人の顔ぶれを見れば「10万円」で済むような話では本来ないはずだが(笑)、それはひとまず措いておく。

*9:もっとも、「スキャポン」のHP上にも、現在では「控訴する」というトーンの声明等は見当たらない。

*10:http://scan-agent.com/

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