開幕前からワクワクさせてくれる選手なのは、日本にいた時から何ら変わらない。
でも、今年の大谷翔平選手がこれまで以上に凄い、と感じたのはいつ頃からだっただろうか・・・?
開幕当初からド派手なアーチで沸かせ、勝ち星こそなかなか伸びないものの、投手としても開幕からローテーションを守る。
そして火が付いたのは6月の半ば。これまでの3シーズンのフラストレーションを晴らすかのように、連日のように本塁打を打ちまくり、気が付けば月間13本。
日本では「五輪やる、やらない」で殺伐としていた7月に入っても勢いは衰えず、オールスターでのホームランダービーを挟んで「37号」まで数字を伸ばし、投手としても自らのバットで援護してメジャーでの自己最多勝を更新。
「スポーツ」に関して堂々と語ることさえ肩身が狭かったこの島国で、唯一、誰もが明るい気持ちで眺めることができたのが、「今日も打った大谷。」「また勝った大谷。」のニュースだった。
オールスター前の本塁打数は歴代8位の33本。このペースなら50本、60本も・・・という欲深なファンの思いは膨らんだのだが、当然ながら世界最高峰のプロリーグはそうたやすく見せ場を作らせてはくれない。
登板日に自らホームランを打って白星で締めた8月半ばの出来事は、米野球史上も語り継がれるエピソードになるだろうが、そこで「40」の大台に乗せてからシーズン終幕の今日まで、実にもどかしい日々が続いた。
様々な「記録」を意識しすぎて調子を落としたところもあったのだろうが、それに加えての四球攻めは、いかに強打者とはいえ、早々にプレーオフ進出の可能性がなくなったチームの選手への対応としてはいかにも露骨で、積み重なった数字は96の四球にリーグ最多の20の敬遠。正面から勝負してもらえなければ、記録も伸びるはずがない。
最初のうちは、「あのいかついメジャーリーグの選手たちが、日本人バッターにおそれをなす時代が来るとは・・・」という感慨に浸ったりもしたのだが、途中からは、もしかするとこれって、かつて本邦で、バースやタフィ・ローズ、アレックス・カブレラといった球史に残る偉大なスラッガーたちが食らった「異邦人への仕打ち」なんじゃないかと不愉快になったりもした。
投げても9月頭に挙げた9勝目を最後に勝ち星に見放され、「あと1つ」の壁を超えられない日々が続く。
先月の初めに表紙を飾ったNumberで今シーズンの活躍を振り返りつつも、日に日に「記録」「大台」「タイトル」が厳しくなっていく状況を感じ、今月に入った頃には、「でもよくやったよ。お疲れー」と勝手に彼のシーズンを終わらせていた人も少なくなかったはずだ(かくいう筆者自身がそうだった)。
だからこそ、日本時間の今日、大谷選手が最終戦で打った1本のホームランには大きな意味がある、と自分は思う。
46本塁打という記録を残し、打点を「100」の大台に乗せた、ということもさることながら、誰もが己を「トップスター」と認める環境の中、内、外のありとあらゆる”包囲網”に一矢を報いた、という点において・・・。
思えば、ホームランをなかなか打てなくなったシーズン最終盤でも、二塁打、三塁打を打てばスタンドは沸くし、単打で塁に出ても盗塁を仕掛けて、「本塁打と盗塁と勝利数の組み合わせ」のような、いかにも米国人が好みそうなマニアックな記録を掘り起こし続けてていたのが大谷選手だった。
かつてイチロー選手が掘り起こしたのは、日本人はもちろん、米国でも決して有名な存在ではない、と言われていたジョージ・シスラーのような渋い選手だったのだが、今シーズン事あるごとに掘り返され比較されたのは、泣く子も黙るベーブ・ルース。
そんなことをやってのける日本人プレイヤーが現れるなんて、イチロー選手が大爆発していた20年前ですら、到底想像することはできなかった*1。
おそらく、今年、大谷選手がメジャーリーグのMVPに輝くのは確実な状況で、あらゆるメディアが「最高の1年」と評し、彼を持ち上げることだろう。
だが、後から振り返れば2021年シーズンも、”ただの序章”に過ぎなかった、ということになるんじゃないか・・・。
これが預言になるのか、それとも一日本人の戯言で終わってしまうのかは神のみぞ知る、だが、稀代の二刀流プレイヤーが最後の試合でライトスタンドに突き刺した一撃は、それくらい夢を膨らませてくれるものだった、ということをここで改めて強調しておくことにしたい。
*1:同じ年に新庄選手が「10本」のホームランを打っただけであの頃は大騒ぎだったのだ。