「フィクション」のずっと先まで。

大谷翔平選手が凄い!! 

なんて話をすると、何をいまさら・・・という話なのだけど、特にオールスター戦を挟んだシーズン佳境のこの7月は、「凄い」が「凄すぎる」になり、とうとう最後は知り得る言葉を全部ひっくり返してももはや形容する言葉がない・・・という状況だった。

日本でも米国でも野球がチームスポーツであることに変わりはないが、ドライな皮算用がより前面に出て、ビジネスのためならシーズン途中でも高額年俸の選手を放出して一旦チームを再構築することも厭わない、というのがメジャーリーグの世界。

そして、主力選手の負傷離脱が続出し、地区優勝はおろか、ワイルドカードでのポストシーズン進出も危うくなっていたエンゼルスのフロントが、オールスター明けから今月末までの数日間に課せられたミッションは、大谷選手のトレードをいかに成立させるか、ということ以外にはなかったはずだ。

だが、そんな空気の中で大谷選手はローテーションを守って投げ続け、留まることを知らない打棒でチームを連勝街道に乗せる。

最終的にトレードが成立しなかった背景には、経済条件に加えて「二刀流」選手を抱える難しさ*1もあったのだろうが、はたから見ていると、体を張って投打でチームのために奮闘する大谷選手の姿がエンゼルスのフロントの算盤勘定を狂わせたようにも見えた。

そして「残留」が発表された日のダブルヘッダーで、

第1試合完封
第2試合で2打席連続ホームラン

というニュースが報じられた瞬間、絶句。

いま日本は灼熱の太陽の下、あだち充氏の世界真っ盛りだが、彼が描くスター選手はここまで超越した活躍はしない。

これが水島新司氏の作品だったら、甲子園まではまぁありそう・・・だが、今出来事が起きているのは「プロ」野球、しかもメジャーリーグだ。

ついでに言えば、大谷選手は今年の開幕前に、WBCで日本代表を優勝に導き、米国相手の決勝で同僚・トラウト選手を三振で仕留めてゲームを締める、という漫画の主人公のようなことを既にしでかしているというのに・・・


今季の開幕直後、大谷選手がいつになく好調な滑り出しを見せた時は、WBCで例年より早く本格始動した影響もあるのかな、と思いつつ、眺めているファンとしては不安で仕方ないところもあった。

あのイチロー選手ですら、WBC後のシーズンは故障者リスト入りしたこともある。

長いシーズン、例年とは異なる調整方法に、プレッシャーのかかる大会をこなした後となれば、どんな屈強なアスリートでもどこかでガタが来て不思議ではない*2

だが、開幕してから数か月、そんな気配は微塵も感じさせないままここまで来た。
そのことだけでも十分素晴らしいのに、ここにきて一段と、投打ともにキャリアハイを狙えるペースでギアを上げてくるとは・・・。

伝説を作ったWヘッダーで微かに見せた違和感の兆し。それを払拭するように3打席連続ホームランを打った翌日の試合でも、最終回の大逆転チャンスを前に試合から退く、というアクシデント。

それでも次の日の試合には普通に出てくる。これはもう何なのか・・・。


そうはいってもまだ長いシーズン、この先数か月のどこかで「魔」が襲ってくる可能性は全く否定できないし、それによってここまでの輝かしいシーズンが一転悲劇に変わってしまうことがあっても全く不思議ではないのだけれど、それでも、このままシーズンを突っ走って歴史を塗り替える、という微かな可能性に期待してしまう自分がいる。そして、どうせフィクションの先の先まで行ってしまうのなら、とことん、

「チームをワールドシリーズにまで連れていっちゃいました」

というくらいの超越した世界を見たいな、と思ってしまう。

秋には、「なお」の後にではなく、真っ先にチームの勝ち負けが報じられ、そしてその中心には常にこの卓越した日本人がいる。見たいのはそんな世界である。

*1:通常、こういう時のトレードは優勝の可能性がなくなったチームから優勝争いをしているチームへ、ということになるが、大谷選手の場合、それまで通りに出番を得るためには、DHで1枠、先発ローテーションで1枠空いているチームでないと割が合わないわけで、低迷する弱小チームならともかく、優勝争いをしているチームだと、シーズン途中で行先を探すのもなかなか大変だな、という気はする。

*2:現に日本のプロ野球でもシーズンに入ってから苦しんでいるWBC組は何人もいる。

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