近くになかったからこそ、の極上。

16日間のスケジュールを終えて、パリ夏季五輪が閉幕した。

名残惜しい、とか、”喪失感”を抱くほど耽溺していたわけではないが、日中仕事に追われる身としてはちょうど良い具合の時差がある国での開催だったことも相まって、この間、それなりに贅沢な時間を味わっていた。

なんといっても大きかったのは、今回もNHKのサイトから全競技のライブ映像にアクセスできたこと。
英語の簡潔な実況が付くだけで、マイナー競技になると無音のまま、映像だけが流れていくこともあったりしたが、長年オリンピックスポーツを見続けてきた者にとってはそれで充分。

むしろ、大人の事情で、NHKや民放地上波が中継している時間帯にLIVE映像がストップして、やむなくTVer等でやかましい応援実況付きの放送を聞かなければいけないときの方がフラストレーションがたまったし、そこで結果だけ見届けた上で後から静かに”見逃し”映像を見返すなんてこともよくやった*1

選手や関係者の声とリアクションだけで、競技の抑揚を感じていた東京2020とは異なり、今回はどの会場にも詰めかけた大観衆の”歓声”が状況とそれぞれの競技の潮目の変化を教えてくれたし、それでこそ味わえたライブ感もあった。視聴者が増えると重くなって肝心なところで映像が止まる・・・なんてことも何度か味わったが、それでも見たい競技を見たいときに存分に味わえる快感*2「もう五輪に『テレビ』はいらないな」と思ったのは、決して自分だけではなかったはず*3

もちろん、7時間の時差のある世界で行われているイベントは、どんなにリアルに感じたとしても、自分にとっては決して本当の意味でリアルなイベントにはなりえない。

遠く離れたところで奮闘する選手たちを眺めながら、こちらはあくまでコンテンツを消費するだけの民。

ただ多くの人々が待ち焦がれた「自国開催」でこれ以上もないくらいの後悔と虚しさを味わった日本人の一人として、このパリ五輪は、国際的なビッグイベントとの距離感はこれくらいがちょうどいいと改めて感じられる機会でもあった。

珠玉のエンタテインメントフィールドとして切り取られた競技会場の光景はもちろん、開会式、閉会式の演出でも、洗練された美しい「絵」が切り取られて視聴者の下に運ばれてくる。

一歩裏に踏み込めば、日本と同じように根強い反対運動もあっただろうし、会期中まで続いた抗議活動だって存在したはずだ。

そこまでいかなくても、世界中から集まる観客を除けばまぁまぁ皆冷めている、という当たり前の状況も、現地にいたらきっと目にすることになったことだろう。

だが、画面越しで眺めている限り、そんな大都市の”日常”は決して自分たちの目の前には現れず、完成された”作品”だけを堪能することができる

だからこそ味わえる極上の時間なのだ、ということも、痛みを知る前開催地の人間としては、これ以上ないくらいに分かる。


自分が初めて見たロス五輪からこれで40年。気が付けば夏だけで実に11回。この歳になってくると、「自分が生きている間にあと何回五輪を見ることができるのだろうか?」ということも、じわじわと考え始める。

4年後、8年後、先進国のこまっしゃくれた人々の中で開催される五輪は、今回と同じように「遠くから眺めている」だけの方が幸せだろうな、と思う一方で、映像からは見えないかの地の”混迷”や”困惑”をこの目で見てみたい、という矛盾する思いがどこかに残っていたりもする。

そして、さらにその先、五輪をまだ自国で開催したことがない人々の地に聖火が渡った時にもたらされるであろう強烈な化学反応も自分の目で見ずにはいられないわけで・・・。

ムンバイかヌサンタラか、はたまた、まだ自分の頭の片隅にも上ったことがないような国、土地で行われることになるのか・・・。

2036年、と言われるとずいぶん先のことのように感じるのだけれど、そこに至るまでの時間が「ロンドン五輪から今日までの時間」と言われると、「もう一瞬のことじゃねーか」ということになるわけで、その時までは元気に&その時こそはもっと優雅に時を過ごせるようになっていたい、と、今は心の底から願っている。

*1:陸上や競泳などはクライマックスの時間帯に起きていられないので、必然的に”見逃し”映像で結果を知ることがほとんどだった。

*2:特にテレビ中継だとトラック競技でたびたび中断されてフラストレーションがたまる陸上競技で特定のフィールド競技にだけフォーカスした中継が見られたのは嬉しいなんてものではなかった。

*3:いずれ、放送局自身が独自の番組制作をあきらめ、ネットストリーミングでのリセールだけで高額な放映料を取り返しに行く、という時代もそう遠くないうちに訪れるのではないかと自分は確信している。

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