心温まらない商標騒動

ほっかほっか亭」といえば、「ホカ弁」である。


リーズナブルな価格でボリュームたっぷりのあったか弁当。筆者自身も、かつては何度となく世話になった。


それだけではない。


学生時代、上級生の居るキャンパスに手伝いにいった新入りの最初の仕事は、竜○門の近くの「ほっかほっか亭」で弁当を買ってくること。ゆえに、「ホカ弁」と言えば、我々のコミュニティでは“春の季語”であった。


だが、そんなエピソードも、遠い昔話になってしまうのだろうか。


昨年以来騒がれていたフランチャイズ分裂騒動は、とうとう行き着くところまで来てしまい、つい先日、関東近県のフランチャイズショップを運営する株式会社プレナスが、加盟店2000店を引き連れて「ほっともっと」ブランドを立ち上げている。


この騒動の経緯については、以前にも少し触れたが*1、先週、核となっていた紛争の一つである商標権侵害損害賠償請求事件の判決が、東京地裁で言い渡されている。


結果は、予想通り、株式会社プレナス側の敗訴、という結果に終わったのだが、商標の取扱いをめぐる実務を考える上で、いろいろと興味深い争点を含んでいるこの事件。


少し紙幅を割いてご紹介することにしたい。

東京地判平成20年4月25日(H18(ワ)第28616号、H19(ワ)第32052号)*2


本訴原告、反訴被告 株式会社プレナス
本訴被告、反訴原告 株式会社ほっかほっか亭総本部


本件は、

「持ち帰り弁当のフランチャイズチェーンのサブフランチャイザーである原告が、マスターフランチャイザーである被告に対し、被告の使用する2つの標章について、原告の有する4つの商標権を侵害すると主張して、不法行為に基づき、使用料相当額の損害賠償金4億0718万7000円の一部請求として9519万円及び・・・遅延損害金の支払いを求める本訴請求」

及び、

「被告が原告に対し、上記の各商標権について、黙示の使用許諾合意に基づき、・・・被告が無償の独占的通常使用権を有することの確認を求める」*3

反訴請求がなされた事案なのだが、注目すべきは両当事者に付いた代理人の事務所の華やかさ。


本訴原告・プレナス側に付いたのは、ご存知、“四大”の一つである長島・大野・常松法律事務所。一方、本訴被告・ほっかほっか亭総本部側に付いたのは、新保克芳弁護士を筆頭とした仕事人集団である。


それゆえ、当事者の主張もなかなか充実したものになっている。


本件の主要な争点は、

(1)被告各標章の使用の意味
(2)本件各商標権の使用許諾合意
(3)使用許諾合意の終了

となっているのだが、被告側が、「ほっかほっか亭」創立以来の「黙示の許諾合意」を裏付ける諸事情を丁寧に説明すれば、原告側は、かつて吸収合併した訴外会社「株式会社ほっかほっか亭」の社内文書を持ち出して合意の成立ないし終了を争い、被告側が、商標法26条1項1号や、小僧寿し事件の最高裁判決を持ち出せば、原告側は26条の趣旨や信義則違反を掲げて争う、といった感じで、判決に要約された主張だけを見ても十分面白さが伝わってくるガチンコ対決だといえるだろう。


以前のエントリーでも触れたように、原告が権利行使の基礎としている商標のうち、「基本商標」とされた商標第1559683号(「ほっかほっか亭」第29類〜第32類)は、「ほっかほっか亭」の創業者である訴外A氏が出願した後にフランチャイズシステム構築の過程で訴外会社へと出願人名義が変更されたものであるし、商標第2645724号、第2706419号(「HokkaHokkaTei」)に至っては、“被告自身”による出願後、出願人としての地位が訴外会社に譲渡されたものである。


どのような法律構成をとるにせよ、同じ「ほっかほっか亭」ブランドの傘の下にいた同士である以上、一方が他方に対して商標権を振りかざす、というのは常識で考えればおかしい、ということはすぐにわかる話だろう。


しかも、被告は原告にとってみれば「親」である*4


歪んだ商標保有関係を放置し続けた被告側に落ち度がなかったとは言えないまでも、これで原告が勝ってしまうようだと、ちょっとそれはどうなの・・・?という声は当然上がってくるはずだ。


そのような中、ダイエーを中心としたグループ内商標管理のスキームや*5、15年近く前の部内業務資料等を援用して、事実レベルで“常識”を覆そうとした原告側には、敬意を表さざるを得ない。

裁判所の判断

さて、裁判所は、以下のような判示を行っている。


まず、第一の争点である「被告各標章の使用の意味」については、被告側が、

「弁当容器」を除いて、被告各標章を商品の標章等として使用しているものではない。

と主張していたのだが、裁判所は個々の品目ごとに検討し、以下のような判断を下した。


(1)「包装紙」「持ち帰り用袋」「各種ソース類」「箸(袋)」「お手ふき」「お茶(ペットボトル)」「即席カップスープ(みそ汁など)」「ゆずしょうゆ」

「弁当の販売に際し、弁当とともに配布されて弁当の商品と一体となるものであり、あるいは、指定商品の「弁当」に関連する指定商品の「茶」、「カレー・シチュー又はスープのもと」、「調味料」として弁当とともに販売される商品であるから、商標法2条3項1号、2号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」に該当するものと認められる。(20頁)


(2)「メニューパンフレット」「ホームページ」「CM」「ちらし」

「その具体的な態様に照らし、いずれも個々の弁当の商品の宣伝や紹介を伴っていることが認められ、本件フランチャイズシステム自体あるいはその運営主体等だけを商品とは無関係に宣伝しているものということはできない。したがって、これらは、いずれも、「商品に関する広告、価格表に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)に該当するものと認められる」(20頁)


(3)「看板」

「本件フランチャイズの加盟店の店舗は、持ち帰り弁当を商品として販売するための店舗であることが明らかであって、取り扱う商品がほぼ限定されるものであるから、この表示は、商品の出所を識別する機能を果たし得るものであって、弁当の商品に関連して使用されているということができる」(21頁)


このように、裁判所はいずれの使用態様についても、商標法2条1項1号、2号、8号に該当する、とした。


(1)、(2)は理解できるとしても、(3)「店舗の看板」については、小売商標制度が導入された今となっては、「飲食料品の小売」の役務での使用としての側面が強いものと考えられ、これをもって直ちに商品商標の使用、とすることには疑問も残るところである*6


・・・が、裁判所はこの点をあまり重視しなかったようで、続く争点に判断の力点を置くことになった。


裁判所は、「被告各商標権の使用許諾合意」の争点について、各商標の出願・登録・移転の経緯やフランチャイズ契約書の規定の存在、そして各商標の意義等を丁寧に認定した上で、以下のように述べている。

「この当時(注:商標登録時)、訴外会社も被告も、創業者であるA氏が支配株主となって代表取締役を兼ねており(略)、このような支配関係を前提とすれば、本件フランチャイズシステムを運営する被告においては、本件商標権1の権利者でなくとも、マスターフランチャイザーとして本件商標1を現実に使用することができれば構わなかったのであり、また、そのように使用させることについても何ら支障がなかったものというべきである。」
「その後の本件フランチャイズシステムの事業展開において、被告が現にマスターフランチャイザーの地位にあるものとして本件フランチャイズ契約(地域本部契約、地区本部契約)を重ねているから、被告が本件フランチャイズシステムのマスターフランチャイザーの役割を果たすようになった当初の時点で既に、被告と本件商標1の出願名義人たる訴外会社との間において、出願中あるいは登録後の本件商標1について、そのような役割を果たすことを可能とする使用権を設定する合意が黙示のうちに成立していたものと認めるのが相当である。」
「そうすると、遅くとも、本件フランチャイズシステムにおけるマスターフランチャイザーとしての地位が訴外会社から被告に移転した昭和56年10月に、被告と訴外会社との間で、少なくとも、本件フランチャイズシステムが存続することと被告がマスターフランチャイザーの役割を果たせることを前提に、本件フランチャイズの基本商標として、無償かつ再許諾権付きで独占的に使用させる内容をもって、本件商標権1の使用権を設定する黙示の合意(本件黙示合意1)があったものと認められる」
(以上26-27頁)

出願経緯等を考えれば、概ね妥当な判断といえるだろう。


裁判所は、続く商標2、3についても、

「本件商標2及び3については、基本的に本件商標1に従属する関係に立つから、出願人の地位の譲渡がされた昭和60年10月28日ころに、被告と訴外会社の間において、出願中あるいは登録後の本件商標2及び3について、本件黙示合意1と同様の内容の使用権の設定が黙示のうちに成立していたものと認めることが相当である(本件黙示合意2及び3の成立)」(28頁)

としている。


また、原告が訴外会社を吸収合併して紛争が顕在化し始めた平成16年7月27日に原告が出願し、平成17年3月11日に登録された「本件商標4」についても、

「原告は、本件黙示合意1の効力として、被告に対し、本件商標権4に基づく独自の禁止権を主張することができないと解するのが相当であるから、少なくとも、被告において、本件商標権4に基づき、本件商標4と同一の被告標章を含む被告各標章の使用を妨げられることはないものと認められる。」(29-30頁)

として穏当に処理している*7

おわりに

本判決では、被告が「独占的な通常使用権」を有しており、それが現在に至るまで継続している、と判断されたことで、本訴請求が全面的に退けられることになった。


しかし、既に「ほっかほっか亭」のブランドが分裂した現在においてもなお「黙示の使用許諾合意」の効力が存続している、というのは難しいように思われるから、本判決をもって問題の根源的な解決がなされた、とは言い難いものがある。


本件訴訟が控訴審に移行しているのであれば、いずれ和解協議手続き等の場において、一定の対価を伴う商標権譲渡等を行う、といった解決策が模索されることになるのだろう。


だが、本件でも証拠として提出されている10数年前の訴外会社の「社内文書」において、商標の保有関係が問題にされていたことを考えると、問題を先送りしたツケは高く付いたんじゃないのかなぁ・・・と思えてならない。


今後も、地盤の切り崩しやそれに伴う法廷闘争等、競争の負の部分が顕在化することは避けられないだろう。


各弁当フランチャイザーには、不毛な消耗戦に時間をかけるよりも、心温まるおいしい弁当をリーズナブルな価格で世の中に届ける方に労力を割いて欲しいものだ・・・、と老婆心ながら思う次第である。



注:あまりに読みづらかったので、一部表現等を修正しました。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080214/1202925462

*2:第47部・阿部正幸裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080509172946.pdf

*3:これは予備的請求であり、主位的請求では「無償の専用使用権」の存在確認を求めていたのだが、さすがにこれは退けられている。

*4:加盟店との関係でみれば、マスターフランチャイザーが被告、サブフランチャイザーが原告、という関係にある。

*5:そもそも、原告・被告を合わせた「ほっかほっか亭」ブランド全てを傘下に収めようか、という勢いだったダイエーの没落が、今の混乱をもたらしているのは間違いないところだろう・・・。

*6:もっとも、取扱商品に関する商品商標の禁止権が小売役務としての使用にも及ぶ、と考えれば結局は同じことなのだが・・・。

*7:ただし、商標権4自体について黙示合意による使用許諾の存在までは認めていない。