年末から始まってあっという間にベスト4まで出揃った全国高校サッカー。
毎年、目まぐるしく勢力図が変わる、というのが、この大会の最近の傾向なのだが、今年はそんな空気にいっそう拍車がかかっているような気がする。
特に自分が衝撃を受けたのは、千葉県代表の八千代高校が、島根県代表の立正大淞南に7-1と圧倒され、初戦で砕け散った、という事実・・・。
相手がインターハイ3位と実績のあるチーム、しかも、前年に市船が優勝したおかげで「シード校」となり、既に一戦済ませて体をほぐした状態の相手と“初戦”を戦わなければいけなかった、といった事情はあったものの、これまでのこの大会での県代表の実績を考えると、ちょっと信じられない結果なわけで、これが“戦国時代”の現実なのか・・・と改めて感じさせられた。
思えば、この大会の潮目が変わったのは、野洲高校が初優勝を遂げた2005年あたりからだったような気がする。
それまでは、全国高校サッカーと言えば、直前まで黄金期を迎えていた国見高校や、鹿児島実業、東福岡、といった九州勢に、布監督率いる市立船橋が絡む・・・という、“強豪校寡占”的な大会だった。
1997年度の大会から2004年度の大会までの8回の大会でベスト4に入ったチームの出身県を集計してみると、
長崎5回 鹿児島4回 千葉・兵庫・福岡・群馬各3回、東京・富山各2回
滋賀、青森、岐阜、福井、静岡、神奈川、石川 各1回
と、僅か15県に過ぎない。
しかも、2回以上ベスト4に残った8県が、計25回、と、理論値(32回)の8割近くを占めており、かつ、いずれの県も、その実績の多くを特定の代表校に依拠している、という状況であった。
だが、2005年度以降、今年度までの8回の大会を見ると、様子がガラッと変わっている。
同じようにベスト4に入ったチームの出身県を集計してみると、
千葉4回、鹿児島3回、京都・三重・山口各2回
神奈川、宮崎、石川、大分、福島、兵庫、島根、山梨、青森、栃木、大阪、広島、茨城、群馬、静岡、岩手、岡山、滋賀、岩手各1回
と、実に全24県。
複数回ベスト4に残った県のベスト4入りの実績をかき集めても僅か13回で、上位県の寡占度合いは一気に下がったし、それまでの8大会で複数回ベスト4に代表校を送り込んでいた長崎県、福岡県、東京都、富山県の名が上記24県の中に登場しないことを考えると、それ以上に強烈な“地殻変動”が生じていたことがわかる。
しかも、この間、2005年度から2010年度までの6大会では、それまで準優勝すらなかったチームが続けて初優勝*1。
興味深いのは、千葉県や鹿児島県のように、この8大会でそれまでと同じくらいの存在感を示している県でも、実績を残した学校は、もはや一校ではなくなった、ということだろう。
千葉県は、八千代、流経大柏、市立船橋、と大会ごとに3強が交互に時代を作っている感があるし、鹿児島県も、鹿児島実業一強時代から、鹿児島城西、神村学園といった“新顔”が席巻する時代へと移り変わった。
ちなみに、より早い時期から、“戦国時代化”が指摘されていた高校野球の状況(夏の甲子園ベスト4の実績)を見てみると、
■1997年〜2004年
和歌山4回、愛媛・群馬各3回、京都・神奈川・高知・千葉・東京各2回(上位合計20回)
沖縄、愛知、岡山、鹿児島、青森、兵庫、滋賀、茨城、宮城、島根、北海道、山梨 各1回
<全20県>
■2005年〜2012年
大阪3回、北海道・静岡・神奈川・沖縄・青森・東京各2回(上位合計15回)
高知、山梨、岡山、栃木、兵庫、千葉、愛知、新潟、岩手、岐阜、佐賀、広島、長崎、鹿児島、和歌山、京都、山口 各1回
<全24県>
と、緩やかな広がりにとどまっており、逆に言えば、高校サッカーの世界でいかに急激に裾野が広がっていったか、ということが、この比較からもくっきりと浮かび上がってくる。
高校サッカーの世界で、なぜ、ここまで急ピッチな展開になっているのか、一つ、二つの理由で説明するのはなかなか難しい。
長年“常連校”を引っ張ってきた名監督たちが退任、異動し、その間隙を突いて若い世代の野心的な指導者たちが新興校を率いて躍進した、といったミクロな事情もあるだろうし、日本代表がW杯出場を何度か重ねる中で、サッカーというスポーツが全国的なものとして定着した、というマクロな事情もあるだろう。
Jリーグのチームが全国にでき、どの地域に生まれ育っても、その傘下のクラブチーム等で優秀な指導者の薫陶を受けられる機会が生まれた、あるいは、地域リーグでのJユースチームとの戦いを通じて、より多くのチームが一線級の相手との戦い方のノウハウを蓄積した、といった事情もあるのかもしれない*2。
ただ、いかなる理由にせよ、全国レベルで若年世代の“底上げ”が図られ、一発勝負のトーナメントでハイレベルの拮抗した戦いを見ることができるようになった、ということは、純粋な観戦者視点からも、日本代表の将来に夢を託す、という観点からも、歓迎されるべきことであるのは間違いない。
今年の大会は、曜日配列の関係で、この後しばらく試合間隔が空き、どのチームもいったんリフレッシュした状態で、「国立」の大舞台に臨めることになる。
最終的に、桐光学園や星稜のような“国立リベンジ組”が、時を経て悲願を叶えることになるのか、それとも、「初の国立」の勢いに乗って、鵬翔、京都橘といったチームがそのまま頂点まで駆け上がるのか・・・
楽しみは尽きない。