優勝旗は3たび白河の関を越えた。

節目の第100回、ということに加え、準決勝の段階になって新型コロナウィルス感染で涙を呑むチームが現れる、という想定外の出来事などもあって、いつになく"見たい”気分で、思わずテレビに目をやってしまった決勝戦

勝ちあがってきたのが、かたやすっかり新年国立の常連となった青森山田高校、かたや公立の星として話題こそ集めたものの実績で比べるとどうしても見劣りする大津高校*1、ということで勝負の行方は最初から薄々見えていたのだが、そこはどうしても判官贔屓

昨年の山梨学院のように先制して延長戦まで持ち込めば・・・とか、一昨年の静岡学園のように終盤隙を突いて大逆転・・・等々、青森山田だけが「準決勝から中一日」というハードスケジュールになっていることも考えると、何かが起きる可能性はあるだろう、と思いながら見ていたところはあった。

だが・・・

いざ笛が鳴って試合が動き出すと、そんな微かな希望も一瞬で打ち砕かれる展開に。

大津高校の選手たちのボール扱いも決して下手ではない(むしろ最上級のレベルに入る)し、決して消極的な戦術を取っているわけでもないのだが、気が付けば相手にボールを奪われ、度重なる波状攻撃とセットプレーの嵐で自陣に完全に釘付け状態。

それでも前半40分間近くDF陣もGKも体を張って、最後の最後でゴールを割らせなかったところに、自分はここまで勝ち上がってきたチームの意地を見ていたのだが、それも9本目のコーナーキックをセットプレーの鬼・丸山選手が豪快なヘッドで叩き込んだ瞬間までだった。

あとは、どこからでも点が取れる青森山田高校の独壇場。

3分後に名須川選手が追加点を挙げれば、後半開始早々に、真打ち・松木玖生選手までもがとどめのゴール。

気の毒になってチャンネルを変えた*2後にもさらに一点、ということで、結果は5年前の自校優勝時の決勝(前橋育英に5-0で勝利)以来の得点差。しかも浴びたシュートは0本、という圧倒的な差を見せつけて青森山田高校が「三冠」*3で締める、という実に華やかな記念大会のフィナーレとなった。

巧い選手を擁するチームは数多くあれど、「それだけでは勝てない」と言われ続け、実際、準々決勝、準決勝くらいで消えてしまっていたのだがこれまでの高校選手権だったし、国立競技場に進む準決勝、決勝くらいになると、体力があるチームが頭一つ競り勝って栄冠を奪い取る、という展開になることも多かった。

でも今年の青森山田高校は、皆、超絶巧い上に体も強い、そして勝負強い。

準々決勝こそ東山高校に先制されて前半の最後くらいまでは”分からない”展開に持ち込まれてしまったものの*4、休養を挟んだ最後の2試合は、準決勝6‐0、決勝4‐0、とそれだけで10得点無失点だから、ギアを上げた瞬間に別次元の世界に行ってしまったようなところはある。

勝利が”養分”になって成長していくのがこの世代の選手たちだから、準決勝を戦うことなく勝ち上がり、試合勘も失われたことが、大津高校にとっては余計に「格差」を広げてしまったところもあったのかもしれないが、それ以上に、試合を重ねるたびに力強い弾道になっていく松木選手の高校生離れしたシュートや、確実に相手をピンチに陥れるセットプレーの精度の高さを見れば、もし幻の準決勝が行われてどちらかが真の勝ち名乗りを挙げていたとしても、決勝戦は前半で事実上投了になってしまっていた気がする。


ということで、2016年度、2018年度に続き、もう三度目の「優勝旗・白河の関越え」である。それも白河からも遥か北へ遠く、青森まで・・・。

同じ球技でも関西方面で行われる棒球が未だに「白河」で止まっていることを考えると*5、サッカーという競技が実に全国津々浦々まで浸透しているのだなぁ、ということを実感するし、「世界への普及度」という面でサッカーと野球の間に埋めがたい差があることの背景も何となく分かってくる。

かつては野球と同じく「西高東低」の印象が強かったサッカーも*6、今や時代はシフトして「青森」と関東、北信越勢が軒並み上位を独占する時代に入っている*7

まだまだしばらく「東高西低」の時代が続いて、東北上信越方面にさらにムーブメントが広がっていくのか、それとも「西」側の新しい風が覇権を奪回するのか、はたまた青函トンネルを越えて、ベスト4にすら35年入っていない地へと優勝旗が運ばれるのか*8

まだまだ続く物語に思いを馳せつつ、これから始まる新しいシーズンに再び新鮮な目を向けてみたいと思っている。

*1:U-18のプレミアリーグWESTで、Jリーグの下部組織に混じって今季4位に健闘したチームだから決して弱小、ということではないのだが、あくまで相対的な力関係では・・・ということである。

*2:ちょうどメインレース発走の時間にかぶったこともあったのだが・・・。

*3:U-18プレミアリーグで本来行われるはずの東西優勝チームによるファイナルが今季は中止となったため、”変則”(タイトルとしてはEASTリーグの優勝のみ)ではあるのだが、それでも文句のつけようがない実績である。

*4:結局、松木選手の前半ロスタイムの同点PK弾を皮切りに2‐1で逆転勝ち。

*5:もっとも空路でさらに北に飛んでいくことはできたのだが。

*6:東側のエリアで健闘していたのは、中部地区の静岡を除けば、千葉、神奈川、東京くらいだった。

*7:今年の大津高校の決勝進出が九州勢としては実に6年ぶりだった、というのは、国見、鹿児島実、東福岡といった強豪校たちの全盛期を知る者としては驚くばかりである。

*8:チームレベルでこそ強豪校が出てきていないとはいえ、青森山田の黒田監督も松木選手も北海道が生んだ人々。J1所属のプロチームだってあることを考えれば、いつ大化けするチームが出てきても全く不思議ではない。

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