荒れない箱根の安心感

大荒れだった昨年とはうってかわって、今年の箱根駅伝(第90回大会)は、東洋大学が憎ったらしいくらいの安定したレース運びで圧勝する(2位に4分34秒差)、という結果となった。

1区こそ昨年の覇者日体大に意地の区間賞を奪われたものの、兄弟Wエース設楽悠太・啓太両選手を往路につぎ込み(2人とも区間賞)、復路を迎える時点で2位駒沢大に1分近い差を付ける。
さらに、復路も7区、8区、10区で区間賞、大きなブレーキとなる選手は皆無、と来れば、もはや他のチームにつけこむような隙はない・・・。

また、2位以下のチームを見ても、駒沢大、日体大という昨年の上位校が順当にベスト3、それに続くのは早大で、区間賞もほぼ全てこれらの大学から出る*1、という、エンタテインメント性を追求したいテレビ局としてはがっかりだが、多くの視聴者は安心してみていられる*2、実に波乱のない展開であった。

細かいことを言えば、往路では山梨学院がオムワンバ選手の疲労骨折で棄権する、という悲しい出来事があったし、青山学院が5位にまで順位を上げた一方で、ようやく復活の兆しを見せつつあった順天堂大学が再びシード落ちの憂き目を見る*3、等々のエピソードもあるのだが、それがせいぜい。NTVが苦労の末まとめたであろうダイジェスト版を見ても、昨年と比べて、盛り上がりの山を作るのに苦労している印象が強かった。


冷静に考えれば、去年が荒れ過ぎただけで、2年前もこんな感じだったと思うし、今年のレースが、昨年多くのチームを苦しめた低温・強風といった天候とも無縁の良いコンディションで行われたことを考えれば、設楽悠太・啓太の両選手(ベスト記録が10000m27分台)をはじめ、実際に走った10人中8選手までが10000m28分台以上の記録を持つ、という東洋大の地力が存分に発揮されただけ、と片づけることもできてしまうのだろう。

今季、出雲駅伝全日本大学駅伝を取り、三冠に王手を賭けていたにもかかわらず、またしても駒沢大が勝てなかった(毎年のように優勝候補に名前が挙がっていながら、2008年以降これで6シーズンも優勝から遠ざかっていることになる)、というのは意外な気もするが、走った選手の持ちタイムを見ると、「上位4選手までは東洋大と互角ないしそれ以上に速い」が、「5〜6番手以降の選手の持ちタイムは一気に悪くなる」というのが一目瞭然だけに、“区間数が増える箱根では他の駅伝のようにはいかない”という説明でカタが付いてしまう。

いくら“襷が特別な力を与えてくれる”と実況アナウンサーが連呼したところで、昨日まで10000mで30分を切れなかった選手が、急に28分台の選手と互角に走れるようになるわけではない以上、きちんとしたコンディションで走れば実力通りの結果が出る、というのは、スポーツ競技として当然の結末。

「タイムを削る」ための必死の努力をした選手たちが、完璧な結果を出し日頃の鍛錬が報われた、という今回の結果を、きちんと前向きに評価する(そして変な煽りを交えずに、その事実を正しく伝える)ということが、スポーツメディアに求められることだと思うし、メディアを通じてレースを見る我々にも求められる感覚になってくるのではないか(面白くない、と思うのではなく、素直に「スゴイ」と感じることが大事なのではないか)、と個人的には思う。

なお、今回は第90回の記念大会ということで、出場校の枠を増やす代わりに、学連選抜チームは休止、ということになったのだが、優勝したチームと、下位に低迷したチームとの間で、往路の段階からかなり大きなタイム差がついてしまっていた(そのため、今年は繰り上げスタートが頻発することになった)ことを考えると、やはり、ある程度出場校の数を絞ったうえで、多くの学校の選手に箱根を経験させる、という目的は、学連選抜チームで達成するしかないのではないかな、と思わずにはいられない。

もちろん、自分たちのチームだけで襷をつなぐことには大きな意味があるのだろうけど、選手たちも素に帰れば普通の人間ゆえ、あまりに大差を付けられた状況で走らされればモチベーションも落ちるだろうし、そんな状況で走ることを強いられるのは、何となく気の毒なようにも思えたので・・・*4

*1:例外は、6区山下りで区間賞をとった広瀬選手(明大)だけ。

*2:テレビにずっとかじりついていなくても、最初から最後まで大勢に大きな変化はない、という意味で。

*3:ちゃんと調べたわけではないが、上位校が安定している年は、シード権争いが激化する、という傾向はあるような気がする。

*4:一応、既に91回大会から学連選抜チームが復活することは決まっているようなので、来年からはまた、上位から下位まで、緊張感のあるレースが展開されることを期待しておきたい。

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