興味関心の移り変わり、というのは恐ろしいもので、今年は年末からずっと日本にいたのに、元旦にサッカーの天皇杯決勝があったことすら忘れていて、翌日の昼くらいにようやく「そういえば結果は・・・?」とスポーツニュースを見返すような事態となってしまった*1。
まだ未成年の頃、テレビ番組にしても、目白押しのスポーツイベントにしても、年末から年明けにかけての一つ一つのイベントにわくわくして、実際に現場に足を運んだこともたびたびあったことを思うと、歳を重ねるというのはこういうことなのかなぁ・・・とちょっとやるせない気分にもなったりして。
だが、さすがに2日、3日で10時間電波をジャックする一大イベントだけは、今年もちゃんと見た。
かつて(昭和の終わりくらい)は、2日のお昼過ぎにダイジェストが放映されるくらいだった関東陸連のローカル駅伝大会も、メジャーエンタテインメントになって久しいし、加えて、東京五輪を控えた今、「箱根駅伝⇒五輪」というルートが再び脚光を浴びていることもあって*2、今年は陸上専門誌だけでなく、Number誌まで昨年末に大特集を組み、さらに付録で顔写真付きの「選手名鑑」まで付ける、というフィーバーぶり。
Number(ナンバー)992「HAKONE EKIDEN 1990-2020 箱根駅伝最強の襷。」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
- 作者:
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2019/12/12
- メディア: 雑誌
うがった見方をすれば、どの大学もチームの実力が底上げされた結果、傑出したチームやスター選手が生まれづらい状況になっていて、それゆえ、大会自体のブランド効果を前面に出さないと人気を持続できない、という状況なのかもしれないが、結果的に、日々秒単位のパフォーマンス向上に汗を流している選手たち一人ひとりにまでスポットが当たることは決して悪いことではないと思うだけに、斜陽の時代にわずかながら陸上をかじったことのある者としては、「五輪後」もこの流れが続いてくれることを切に願っている。
で、2日間終わってみれば、青山学院が2年ぶり5度目の総合優勝を飾り、昨年優勝の東海大が2位、という結果。
昨年、名将両角速監督率いる東海大が青学の連覇を阻んで初優勝を遂げた時は、これでしばらく時代が続くな、と思ったし、当時のエントリーでは慎重にお茶を濁したものの*3、主力が抜ける青学と、主力がまだ3年生だった東海大とでは勢いの差は明らかで、原晋監督の時代もいよいよ終焉を迎えるのかな・・・と想像していた*4。
だが蓋を開けてみれば、青学は、スーパー1年生・岸本大紀選手、5区の2年生・飯田貴之選手が抜群の輝きを見せ、不安視された4年生も3区・鈴木塁人主将、4区・吉田祐也選手がきっちり仕事をして往路で貯金を作ったのに対し、これまでチームを支えてきた現・4年生世代のエース級をエントリーさせることさえできなかった東海大は、往路でのもたつきが仇となって、後塵を拝する結果となってしまった*5。
この辺は、「4年間」名を轟かせた青学のブランド力と、躍進を遂げてからまだ1,2年という東海大のそれとの差によるところも大きいと思われるだけに、後者に関しても、箱根での「成果」に触れて大学の門を叩いた高校生たちが主力に成長する来年、再来年になれば、より拮抗した戦いになるのだろうが、いずれにしても、チームマネジメントというのは、かくも難しいものなのだな、ということを傍観者ながら痛感させられる。
また、前評判どおり往路2位、総合でも3位に食い込んだ国学院大学*6は、元々往路優先シフトを組んでいただけに、復路でも粘り切り、最後の10区(2年生の殿地琢朗選手が集団4チームの争いに競り勝って区間4位で順位を押し上げた)で3位に順位を押し上げた、ということが、来年以降の大きな財産になるはず。
東京国際大、明治大、創価大といった面々がシード権を奪い、早稲田大学も予選会の不振が嘘のような激走を見せて返り咲いた一方で、名門・駒沢大は優勝争いに全く絡めず、さらに2年連続往路優勝を遂げていた東洋大がシード権ギリギリの10位、と、ちょっとした潮目の変化で結果に大きな差がついてしまうこの世界の怖さは今年も存分に発揮されていたのだが、それ以上に、上位2チームが大会新記録を更新するようなスピードレースだったにもかかわらず、途中区間での繰上スタートは1度だけ、最下位の筑波大学でも首位との差は30分程度(昨年なら17位くらいに食い込めるタイムで走っている。また10位~18位くらいまでのチームは12分弱くらいのタイム差の中に納まっている状況である)というところに今の学生駅伝の選手層の充実ぶりを見たような気がして、予選会敗退校も含めて、また来年はがらりと勢力図が変わる可能性もあるな、と思わせる結果だった*7。
なお、今大会で、往路・復路の7区間で区間新、しかも、区間によっては傑出した1人の選手だけでなく、複数の選手が一気にそれまでの記録を塗り替える結果になったこともあって、「靴」論争が湧き上がっている。
ただ、冷静に見ると、記録更新が相次いだ4区、5区は、3年前に距離が大幅に変更されて、元々記録の蓄積が薄かった区間。
5区などは今年、区間賞をとった東洋大の宮下隼人選手以下、3選手が区間新を記録し、さしづめ山の神八百万化、といった感じになっているが、先にご紹介したNumber誌(「山の神座談会」という企画があって、今井正人(初代)、柏原竜二(2代目)、神野大地(3代目)が仲良く学生時代の思い出を肴にクロストークをしている)での元青学・神野選手のコメント*8によれば、1分10秒台ではまだまだ「神」とはいえない。
また、復路の6区、7区、10区といった区間に関しては、10年前と比べて起用される選手のレベル層が格段に上がったことが背景要因といえるだろうし、3区に関しては純粋に東京国際大のヴィンセントという留学生の力が凄すぎたことに尽きるような気がする。
何よりも、大会の注目度が上がり、レベルの高い学生が大学に進んで競技を続け、高いレベルで競り合う中で、より良い記録が生み出される、という好循環があってこその話なのだから、あまり「靴」のことばかり言うなよ、というのは当事者でなくても思うし、NHKラジオのゲスト解説者として登場していた佐藤悠基選手が、同趣旨のコメントを、それもかなり強いトーンで言っているのを聞いたときは、彼が今大会も塗り替えられることのなかった現時点で最古の区間記録(1区)保持者であるがゆえに、なおさら説得力があった。
10キロ28分、29分の世界で日々切磋琢磨してしのぎを削り合っている選手たちだからこそ、「厚底」も「カーボンファイバー」も生きてくるわけで、10キロ50分くらいで走るのがやっとの者には、人より先に「靴」を称える気には到底なれない。
もちろん、ルールの中で道具を使いこなして競技力を向上させる(さらに選手への肉体的なダメージを減らせるならなおよい)、というのもスポーツの醍醐味の一つではあるし、それを起点にして一般向けのマーケティングにどう活用していくか、といったところも、見ているとなかなか面白いものなので、こういう形で火が付くと、自分も何だかんだ言って、各競技会のたびに「靴」には目が行くことになるのだろうと思うのだけれど、それはそれ。
そして、選手たちの努力がかすんでしまわないように、報道の節度は保っていてほしいな、と思った次第である。
*1:ここ数年はリアルタイムで中継を見る機会もなかったうえに、一昨年、変則日程で12月上旬に決勝が行われたことで、記憶の中のカレンダーもズレてしまっていたことも原因かもしれないが、つい5年くらい前までは考えられないことで、自分でも驚きである。
*2:一時は、箱根駅伝で活躍してもその後伸び悩んでいる選手がほとんどじゃないか、ということで、シニカルな目を向ける論調も多かったのだが、MGCで上位を争った選手たちが軒並み”箱根組”で、陸連自身も積極的に広報を展開していることで、また少し空気が変わった気はする。
*3:蹉跌を超えて辿り着いた頂点。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~の最後の段落あたり。
*4:自らアドバイザーを務め、教え子も多数送り込んできたGMOアスリーツ(Athletes/Staff[アスリーツ、スタッフ一覧] - GMOアスリーツ)が今季から実業団駅伝に本格参戦(ニューイヤー駅伝では初出場5位の大健闘)したこともあって、そろそろ・・・というのが自分の毎年の妄想である。もっとも、今年の4年生は誰もGMOに行かない、という報道を見て、いろいろと考えさせられるところもあったのだが・・・(箱根駅伝ランナーの進路は?2020年3月卒業選手の就職先実業団一覧)
*5:関選手は16人のメンバーにすら入れず。阪口選手も出番なし。鬼塚翔太選手は1区で10秒差の4位、ときっちり仕事をしたし、館澤亨次選手は6区で区間新の快走を見せて大会新記録での復路優勝に貢献する意地は見せたのだが、結果的に最後の年を集大成にできなかった無念さは残るだろうな、と。ちなみに、鬼塚、館澤両選手はDeNAに入社内定、ということで、駅伝で走る姿はしばらく見られないのかもしれない。
*6:監督が自分とも世代が近い、元市立船橋-駒沢大の前田康弘氏ということで以前から気になっていたのだが、監督就任10年超でようやくここまで来た、というのが感慨深い。
*7:個人的には、弘山勉駅伝監督率いる筑波大から金栗四三杯をとる選手が出てくると面白いのにな、と思ったりもする。
*8:「僕の記録を今の距離で換算してみたことがあって、1時間8分45秒くらいなんですよ。だからそれを超えたら「4代目」認定かな、と」(17頁)。