2016年9月2日のメモ

週の初めに、みんな台風に脅えていたことが嘘のような晴れ空の下で一週間を終えたが、天気図を見るとまた西の方に台風が・・・。
こんなサイクルを繰り返しながら、いつの間にか秋、そして冬に近づいていく、という年後半のサイクルがまた始まった。

W杯最終予選初戦での歴史的敗北

2018年ロシアW杯アジア最終予選、地元・埼玉スタジアム、という絶好の舞台で迎えた開幕戦でUAE相手に1-2、と日本代表は歴史的な敗北を喫した。

記事にもあるとおり、「W杯の最終予選の初戦を落として本大会まで行けた国」というのは、現行の予選方式となった最近の大会では皆無。
当然ながら日本代表も、フランス大会予選の頃から初戦はきっちり勝つか手堅く引き分けるか、という形を貫いてきたし、セントラル方式で行われたドーハの予選でも、所詮のサウジアラビア戦は引き分けで乗り切っている。

自分は試合の映像をほとんど見ていないので、“疑惑のカタール人主審”の笛がひどかった云々、という話にはコメントできないのだが、仮に主審の判定に問題があったとしても、25本のシュートを放って1点、2点しか取れなかった、という事実に変わりはないし、これまで散々課題として指摘されていた“球際の弱さ”“個の弱さ”が改善されていない、という事実にも変わりはないわけで、これからより笛が厳しくなりそうなアウェーでの戦いも続く中で、そんな些末な話で思考停止していたら、今年のうちにW杯への道が閉ざされてしまう・・・

五輪明け、“いつの間にか始まった”感覚で初戦を見ていたのはメディアとライトな視聴者の方だけで、フィールド上の代表選手も現場のスタッフも、一戦必勝の覚悟で試合には臨んでいたと思うのだけれど、同じ地元での初戦でも、97年ウズベキスタン戦のような高揚感とは程遠い今の状況を鑑みると、そろそろ落とし穴に嵌ってしまうかもしれないなぁ、と思わずにはいられない。

NTTドコモ対タタ・グループの戦い

6月にロンドンの国際仲裁廷でタタ側の義務違反と約1,172百万米ドルの損害賠償を命じる決定を勝ち取り*1、日本側にとってはハッピーエンドな結末となったかと思われたインド合弁問題だが、引き続き泥沼から抜け出せていない、ということが日経紙上で報じられている。

NTTドコモとインド財閥大手タタ・グループのインドでの合弁解消を巡る交渉が泥沼化している。(中略)6月には国際仲裁裁判所がタタに約1200億円の賠償金支払いを命じたが、タタは『当局の許可が無いと払えない』と及び腰だ。規制に翻弄される日印企業の迷走劇の行方は、印当局と外資との今後の関係を占うリトマス試験紙にもなりそうだ。」(日本経済新聞2016年9月1日付朝刊・第11面)

一般論としては、「新興国リスク」の一事例ということになるのだろうが、実務サイドの人間の視点で見ると、「撤退時に取得価格の50%(定額)で株式を売却できる」などというオプションを、合弁契約時に、そうでなくてもうるさいインド企業相手に良く押し込めたなぁ、というのが率直な感想になってくる*2

撤退時のリスクまで想定した合弁契約条項が見事にはまり、仲裁地を英国に設定したことも効を奏した結果となっている*3本件が「悪い例」として紹介されてしまうようだと、ドコモ関係者の方々にとっては気の毒な面もあるわけで、物事の切り口、というか、取り上げ方をもう少し考えた方が良いのではないかな、と思わせてくれるニュースでもある*4

東芝うつ病解雇事件・差戻し控訴審判決

うつ病による休職期間満了後に解雇されてから12年、長い長い戦いが続いてた東芝うつ病解雇事件が、最高裁での差戻し判決(最二小判平成26年3月24日)を経て、東京高裁で実質的な決着を見ることになった。

これだけ長期間になってくると、当事者の請求の内訳を整理するだけでもかなり大変になってくるのだが、原告ご本人のブログに掲載された判決主文と、前回の高裁判決(東京高判平成23年2月23日)を比較すると、月額賃金相当の賠償額が「26万9683円」から「47万3831円」に引き上げられるなど、最高裁判決の趣旨*5を踏まえた増額(というか、原告の請求に合わせた修正)がなされていることが分かるし、それ以外にも、年5分の遅延損害金が5年以上分加算される、といった効果はあるから、原告にとって圧勝に近い状況になっていることは間違いないように思われる。

あの平成26年最高裁判決が出たにもかかわらず、差戻し控訴審でなお争って、より自分たちの首を絞める判決をもらってしまった会社の姿勢には個人的には首を傾げたくなるところも多いし、ましてや、いろいろあって内情が晒されてしまった今、「そういう会社だから・・・」と後ろ指を差されるリスクもより増すような気がしてならないのだが、どこでどうボタンを掛け違えてしまったのか。

法の理屈以前の話として、いろいろと考えさせられるところは多い。

*1:https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2016/06/24_00.html

*2:おそらく2009年の出資当時は、皆、右肩上がりの成長曲線の絵しか頭の中になく、まさか企業価値が50%以下に減少するなんてことは誰もが夢にも思わなかった、ということなのかもしれないが。

*3:もしインド国内の裁判所や仲裁廷が管轄として指定されていたら、わずか1年半という期間でドコモ有利な決定が得られたとは考えにくい。

*4:ちなみに、2014年の提携解消後もインド国内のスターバックスのフリーWi-Fiの画面には、「タタドコモ」というブランドが表示されていた。契約がどうなっているかは知る由もないが。

*5:「被上告人が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として上告人に対し賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできない」という考え方。

2016年9月1日のメモ

一年、12カ月のうちでも、もっとも月の初めが憂鬱になるのがこの9月、ということで、朝から気分的にはどんより。
それでもまだ暑さが残っているうちは、頑張れる気がする。

アップル1.4兆円課税問題

8月31日の朝刊1面に、「欧州委員会 アップルに1.4兆円追徴課税」という記事が載ったのを見た時、これはいろいろ物議を醸すだろうなぁ、と思ったら、1日も経たないうちから、案の定、当事者のみならずアメリカ政府からも反発の火の手が上がった。

大手企業の租税回避スキームに対して世界的に風当りが強くなっているのは間違いないところだし、欧州委員会が「特定企業優遇税制」と指摘して有名企業に追徴課税を仕掛けてきたのも、今回が初めてというわけではない。

だが、それでも今回の件が目立ってしまうのは、金額の莫大さ+米国のイノベーションの象徴とも言える企業がターゲットになったから、ということなのだろう。

アイルランド政府が徹底抗戦する限り、アップルが直ちに追徴課税を食らって経営上のリスク要因となる、という可能性までは考えなくてよいと思うのだけど、いろんな意味でターニングポイントになりそうな状況なのは間違いない。

化粧品特許訴訟の第1ラウンド

富士フィルムがDHCを相手取って起こしていた特許侵害訴訟で、東京地裁民事第46部が富士フィルムの請求棄却判決を出した、というニュースが報じられている。

「判決は『特許の出願前にインターネットで公開された化粧品の成分リストから容易に発明できた』と述べ、富士フィルムの特許が無効と判断した。」(日本経済新聞2016年8月31日付朝刊・第38面)

ということで、おそらく特許法104条の3のカウンターパンチがきれいに決まった、ということなのだろう。

元々この争いは、富士フィルムが2014年9月に仮処分申立をプレスしたところから注目を集めており*1、2015年8月の提訴プレス*2と合わせて、それなりの報道がなされていたから、訴えた富士フィルムの側としては相当力こぶが入っていたと思われるところだが、なぜ当初の見立てから離れる結果になってしまったのか。

地裁判決も、特許庁で行われていた無効審判の審決もまだ確認することができないので、詳細な分析はできないのだが、争いの対象となっている特許(第5046756号)のシンプルな請求項と、富士フィルム側がプレスで再三胸を張って強調している「抗酸化成分アスタキサンチンは、自然界に広く分布している天然由来の成分で、カロテノイドの一種です。強い抗酸化力を持ちますが、不安定で扱いづらく、従来の技術では安定的に化粧品に配合することが難しいという課題がありました。当社は、同課題に対して研究開発に取り組み、先進・独自の技術によって、同成分の化粧品への安定配合に成功しました。」というフレーズがあまりマッチしていない、というところに、根本的な問題があるように思えてならない*3

【請求項1】
(a)アスタキサンチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びリン脂質又はその誘導体を含むエマルジョン粒子;
(b)リン酸アスコルビルマグネシウム、及びリン酸アスコルビルナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体;並びに
(c)pH調整剤
を含有する、pHが5.0〜7.5のスキンケア用化粧料。
【請求項2】
前記リン脂質又はその誘導体がレシチンである、請求項1に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項3】
更にトコフェロールを含む、請求項1又は請求項2に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項4】
更にグリセリンを含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項5】
前記グリセリンの含有量が、スキンケア用化粧料の全質量に対して10質量%〜60質量%である請求項4に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項6】s
前記エマルジョン粒子の平均粒子径が200nm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料の製造方法であって、
アスタキサンチンを含有するカロテノイド含有油溶性成分、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリン脂質又はその誘導体と、水相とを混合して、エマルジョン粒子を有する水分散物を得ること、
前記水分散物と、リン酸アスコルビルナトリウム及びリン酸アスコルビルマグネシウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体を含む水性組成物とを混合して、平均粒子径200nm以下のエマルジョン粒子を有する分散組成物を得ること、
分散組成物のpHを5〜7.5に調整すること、
を含むスキンケア用化粧料の製造方法。
【請求項8】
前記リン脂質又はその誘導体の含有量が、前記水分散物全体の質量に対して0.001質量%以上20質量%以下である、請求項7記載のスキンケア用化粧料の製造方法。

消費者事故調によるエレベーター事故報告書

消費者安全調査委員会(いわゆる消費者事故調)が、2006年のシンドラーエレベーターの死亡事故に関する調査報告書を出した、というニュース。
既にHPでも公開されている150ページ以上に上る報告書は確かに圧巻なのだが*4、なぜ、10年前の、しかも、既に国土交通省が調査報告書を出している事故を取りあげるのか、ということへの疑問はあるし、その疑問は報告書中に記載された以下のくだりを読んでも解消しない*5

2.2 自ら調査に至った経緯
「本件事故については、国土交通省社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会昇降機等事故対策委員会(以下「国土交通省事故対策委員会」という。)による調査が行われており、平成21年9月8日に「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査報告書」(以下「国土交通省調査報告書」という。)として公表されている。そのため、調査委員会は消費者安全法第24条第1項の規定に基づき、国土交通省事故対策委員会の調査結果について評価を行った(平成25年8月9日に「消費者安全法第24条第1項に基づく評価 平成18年6月3日に東京都内で発生したエレベーター事故−国土交通省が行った調査結果についての消費者安全の視点からの評価−」(以下「評価書」という。)を公表。)。評価書では、平成24年10月31日に石川県で発生した同種事故に関する内容等、新たに入手した情報も参考にし、エレベーターに関する消費者安全の確保の見地から、同種事故の未然防止に向けて、評価当時の再発防止策の有効性も視野に入れつつ、重篤化防止に関する点を含めた幅広い観点から検討を行った。その結果、国土交通省事故対策委員会が本件事故の原因として推定している、ブレーキの保持力が失われたことについて、更なる原因究明及び再発防止策の検討を行うため、検証すべき問題点を「エレベーター本体に関する問題」、「エレベーターの保守管理に関する問題」、「情報共有と管理体制に関する問題」、「重篤化防止に関する問題」の4つの観点から整理した。調査委員会はこの4つの問題を中心に、消費者安全法第24条第3項の規定に基づき、平成25年8月に自ら調査を開始した。」(10〜11ページ)

また、消費者安全法上の「消費者事故等」の定義(法2条5項)は、

5  この法律において「消費者事故等」とは、次に掲げる事故又は事態をいう。
一  事業者がその事業として供給する商品若しくは製品、事業者がその事業のために提供し若しくは利用に供する物品、施設若しくは工作物又は事業者がその事業として若しくはその事業のために提供する役務の消費者による使用等に伴い生じた事故であって、消費者の生命又は身体について政令で定める程度の被害が発生したもの(その事故に係る商品等又は役務が消費安全性を欠くことにより生じたものでないことが明らかであるものを除く。)
二  消費安全性を欠く商品等又は役務の消費者による使用等が行われた事態であって、前号に掲げる事故が発生するおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するもの
三  前二号に掲げるもののほか、虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態

と施設事故等も含む定義になっているから、エレベーター事故を対象とすること自体は間違いではないものの、もう少し身近な製品等にターゲットを絞った方が・・・という気もする。

これまでの報告書等のラインナップ*6を見ても、やや方向性が見えにくいところはあるだけに、世の中の専門家のリソースをどう有効活用するか、という観点からも、効果的な戦略が練られるべきではないかと思うところである。

石井監督一転続投

これはもう、良かった〜、という言葉しか出てこないニュースである。

「J1鹿島は30日、臨時の役員会を開き、休養していた石井正忠監督(49)の続投を決めた。」(日本経済新聞2016年8月31日付朝刊・第37面、強調筆者)

個人的には、

「孤独な存在である監督が抱えるストレスの重さは計り知れない。その重圧と闘うのが監督の仕事という解釈が一般的だが、監督も一人の人間であることを忘れてはならない。」(同上)

という吉田誠一記者のコラムでの一文がちょっと沁みた。

*1:http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0916.html参照

*2:http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_1003.html

*3:特許のクレーム自体は化粧品の成分の配合とを淡々と記述したものに過ぎず、製法特許部分の請求項と合わせて読んでも、特許権者が「どうやって安定配合したか」は分からない。おそらく、“画期的な製法”そのものを特許化することがリスキーなのでこういう形になっているのだろうが、“出来上がり”のシンプルな成分配合の一致のみで、特許権という強力な権利の行使を認めるには、特許自体(成分配合自体)に相応の新規性・進歩性が必要となる。その辺が特許権者にとってはうまくかみ合わなかったのではないか、と推察するところである。

*4:公表されている報告書全文は、http://www.caa.go.jp/csic/action/pdf/4_houkoku_honbun.pdf

*5:自前で一から調査を行うだけのリソースに乏しい状況を考慮して、先行調査の評価から切り込んで実績を積み重ねる、というアプローチを取った、ということなのかもしれないが、重複した調査にどれだけ意味があるのかということは、しっかり考えておく必要があるように思う。

*6:http://www.caa.go.jp/csic/action/index5.html

2016年8月29日のメモ

迷走気味の台風。夕方くらいに晴れ間の見える空を見た時は、「こりゃまた予報外したな」と思ったものだが、深夜に差し掛かり家路に付く頃になって、ようやく雨も降ってきた。
それでも、朝起きたら、あの嫌らしい渦が遥か東の海上に遠ざかっていたりすることを、まだちょっと期待している。

「下請法違反 監視強まる」

月曜恒例の日経紙の法務面、今日のテーマは、上記見出しのとおり「下請法」であった*1
記事でも指摘されているとおり、最近、下請法違反で指導、勧告される事例は増えているようで、著名な小売店等が対象になった事例が記事になることも多い。

元々要件が形式的、硬直的で、運用も融通が利かないこの法律に対する評判は芳しくないのだが、時代は“中小企業の味方”である自民党の天下、ということもあり、消費税特措法ブームが去った後も、執行強化は続いているようである。

あまり活字にはなっていないものの、下請法違反の場合“認めたら負け”のようなところはあって、書面の明確な不備や明らかに下請企業を痛めつける目的で一方的減額等を行った場合でなければ、調査に対して毅然と反論した方が指導、勧告を受ける可能性は低くなる、という噂は、実務の世界では根強く囁かれているところなので*2、記事を見て過度に腰の引けた対応に舵を切る必要はないと思うのだが、とかく“コスト削減”が最優先されてしまう世知辛い世の中だけに、親事業者としても“ともに栄える”という発想は持っておきたいところである。

「顔は個人情報」という当たり前の事実をなぜ今?

法務面のもう一つの大きめの記事が、改正個人情報保護法に関するコラムで、「顔は個人情報」という点にフォーカスして防犯カメラの話などが書かれている。

もっとも、読んでみると、「顔データが個人情報に当たる」という法改正以前から実務では当然の認識となっていたポイントに触れているだけで、法改正はあまり関係ないなぁ、という印象のことしか書かれていない。

そして、弁護士のコメントとして紹介されている「防犯カメラで収拾したデータの利用目的を店頭で告知するなどの対応が求められる」というくだりは、あくまで「防犯以外の目的」で顔画像データを使用する場合のことなのだ、ということをもう少しはっきり書いてくれないと、誤解する人も出てきてしまうのではなかろうか。

通常の防犯目的で使用する場合は、個人情報の利用目的が取得の状況からみて明らかであり、「当該利用目的の公表を必要としない場合」(法18条4項4号)に該当する、という解釈は変わらない、ということにも触れてほしいところではあった。

24時間テレビ

ネット上では今年もいろいろと批判されているようだが、この番組企画の薄っぺらさと虚構性は今に始まった話ではないので、何を今さらという気がしないでもない。
そして、今年も自分は、チャンネルを切り替える際に一瞬だけ映ったのを見たくらいで、この企画には縁遠いまま24時間を過ごした*3

それでも、昔地方都市で仕事をしていた時は、それまで縁遠く感じていた地元のテレビ局の前に、例の黄色いTシャツを着たスタッフがぞろぞろいてイベントを行っているのを見て、何となくホッとした気持ちになったこともあった、というのは、ここだけの話にしておこう*4

*1:日本経済新聞2016年8月29日付・第17面。

*2:特にコラムで取り上げられている“買いたたき”などは、私企業間の契約プロセスに当局が土足で踏み込むような話だけに、合理的な協議を経て対価を決めた、と言える自信があるなら、調査対象となる親事業者としても徹底的に反論したいところである。

*3:そもそも自分は“アンチ巨人”派なので、日本テレビ系にチャンネルを合わせることも年に数回(サッカーの日本代表戦が放映される時くらい)しかない。

*4:それは、おそらくイベント主催側も認識していない“副次的効果”だったのだと思う。

2016年8月28日のメモ

ブログエントリーの執筆スタイルを変えたのを機に、今月に入ってからは連日投稿していたのだが、さすがにこのまま続くとも思えないので一日空けてみた。
ネタの溜まり具合を考えると隔日ペースくらいが理想かな、とは思うが、夏休みモードも終わりつつある中で、この先どうなるかは神のみぞ知る、という感じである。

鹿児島県知事が九電に川内原発停止要請

当選直後から注目されていた鹿児島県の三反園知事が、九州電力の瓜生道明社長に対し、「川内原子力発電所を直ちに停止し、再点検・再検証をするように申し入れた」との記事が、各紙の土曜日の1面で報じられている。

日経紙などは、早速日曜日の社説で、「原発停止を求めた鹿児島県知事への疑問」という論陣を張っているし*1、朝日や毎日といった原発懐疑派のメディアも、法的な権限なく原発停止申入れというセンシティブな行動に出た知事のやり方を全面的に支持しているわけではない*2

原子力規制委員会の審査をクリアしたからと言って「絶対的に安全」と断言することができない、ということは、原発に限らず過去に起きた様々な技術分野での事故が証明してしまっているから、知事が変わったタイミングで改めて再点検・再検証を求めること自体は悪いことではないと思う。
ただ、その手段として「既に再稼働している原発を止める」というのは、あまりにパフォーマンスに走り過ぎていて相当性を欠くのではないかなぁ、というのが自分の個人的な意見で、というのも、これまでの経験則上、「(普通に動いているものを)止めたり、動かしたりを繰り返す」というのが機器にかける負荷が一番大きく、そのまま動かし続けるよりリスクを拡大することも多い、ということを何となく感じているから・・・*3

しかも、原発の場合、稼働していようがいまいが、そこに放射性物質がある限りリスクは変わらない*4

選挙の際に、反原発派を取り込むために政策協定に入れて公約までしてしまった以上、新知事としてはこの停止要請をすることは避けて通れなかったのだろうけど、これからの原発政策で一番大事なのは、“現役”の原発を止めることよりも、「新たに作らせない」ことや、「老朽原発を迅速に廃炉に持っていく(当然ながら「放射性廃棄物」の処理まで含めて対処する)」ことであって、今の川内原発をめぐって時間を止めることは、必ずしも得策ではないように思えてならない。

共謀罪」新法案で復活か?

くじけてはまた出るしぶとい「共謀罪」が、「国際テロ対策」とか「東京五輪」という口当たりの良い立法事実(?)とともに再び湧きあがってきた。
今度は適用要件をさらに絞る、ということだから、出てくる法案を見たら、なんだこんなものか、というものになるのかもしれないが、条約に乗っかって(わが国において厳格であるべきはずの)刑法の構成要件をわざわざ緩めなくても、立法事実を達成するための方法は他にいくらでもあるはずで、今のトーンでそのまま立法まで押し切ることには、素直に賛成しかねる、ということはコメントしておきたい。

東洋ゴム免震偽装めぐり株主代表訴訟に補助参加せず

株主の提訴請求を会社(監査役会)が蹴とばしたことで株主代表訴訟が勃発している東洋ゴムにおいて、会社が「原告と被告のいずれにも補助参加しない」という決定を行ったということである*5

普通、提訴請求を蹴飛ばす=「会社としては取締役に法的責任を問うべきではないと考えているため、代表訴訟が提起された後は被告(取締役)側に補助参加する」というパターンが多いと思うのだが、ここであえて取締役をサポートする側に入らなかった、ということが何を意味するのか。今後の審理の行方と合わせて注目したい。

NHK受信料 ワンセグ契約義務なし

ワンセグ付きの携帯電話を所有する者」が受信料契約を締結し、受信料を支払う義務を負うか、という問題について、さいたま地裁が契約義務を否定する判決を出した。
これまで、NHKの現場は「ワンセグでも受信料が必要」というスタンスで集金活動にいそしんでいたように思うし、それでいて、携帯電話保有者のうち「ワンセグで受信料を払った」という者はほとんどいない、というおかしな状況が続いていたから、今回、朝霞市議が提起した訴訟の結果白黒がはっきりするのであれば、個人的にはこれで良いと思っている。

あくまで放送法64条の「設置」という文言の解釈をめぐる判断のように思われるだけに、上訴された場合、異なる解釈が示される可能性も相当程度残っている、ということは肝に銘じた方が良いと思うが、判決の結論がどうあれ、ワンセグで受信料を払う人が増えることはない、ということだけははっきりしている。

「新国立競技場」問題は“円満解決”?

設計が白紙撤回され、その後に露呈した五輪関係の様々なトラブルの引き金ともなった感のある「新国立競技場」問題で、日本スポーツ振興機構(JSC)が一定の総括を行ったようである。

日経紙に掲載された記事*6では、白紙撤回した計画に支出した費用が約68億6000万円であったことなどが公表された旨報じられているが、中でも興味深かったのは、旧計画でデザインを担当したザハ・ハディド氏事務所側からの「新計画のデザインが旧計画に類似している」という指摘*7「円満に解決した」というJSCのコメントが紹介されているくだりである。

何をどうしたから「円満」ということになったのか。新計画の設計に際しても一定の報酬を支払う、という整理をしたのか、それとも他の方法で話を丸めたのか。

本当にこれで解決したのだとすれば、ザハ・ハディド氏本人が本年3月に急逝したことも背景にあったりするのかな、と推察したりもするところであるが、今後のこともあるだけに、できることなら何らかの形でことが明らかにしてほしいなぁ、と。

名将・石井正忠監督の悲劇

選手時代は、草創期のJリーグ鹿島アントラーズの主力選手として、攻撃から守備までフィールドを縦横無尽に駆け巡る活躍で名を馳せ*8、引退後は長く古巣でコーチ経験を積み、昨シーズン途中に監督に抜擢されるや否や、昨年のナビスコ杯優勝、今年の第1ステージ優勝という素晴らしい結果を残してきた石井正忠監督。

この1年で「古豪を復活させた名将」としての地位を一気に固め、日の当たる舞台に出てきた感があったのだが、ここに来て「心労による体調不良」で辞任、という衝撃的なニュースが入ってきた。

直前に選手交代をめぐって金崎選手にキレられる、という騒動はあったものの、その試合も終了間際の決勝ゴールで湘南ベルマーレを見事に葬り去っており、選手交代も含めて采配自体は高く評価されている。また、1stステージに比べると2ndステージは出だしからもたついているものの、年間トータルでJ王者になれる可能性はまだまだ残っていた。
同じ監督交代でも、刀折れ矢尽きた感のあったグランパスの小倉監督とは状況が全く異なる。

なのになぜ・・・。

最近存在感を失いつつあったチームに“ジーコイズム”を注入し、アントラーズを再び戦う集団に作り上げる、という手腕を発揮していた裏で、神経を激しくすり減らしていたのだろうか。

「フル代表にも日本人監督を!」という声が強まっている中、世代やキャリアの差こそあれ、石井正忠小倉隆史といったJリーグ草創期にレギュラーを張っていた世代の監督が、志半ばで現場を去っていくのは何とも寂しいわけで、特に石井監督には、ここでの一頓挫をまた糧にして、再度現場で指揮を執る姿をもう一度見せて欲しいと思うのだが、その願いはかなうのだろうか。

*1:日本経済新聞2016年8月28日付朝刊・第2面。

*2:「知事の本気度」を問う毎日新聞の記事などは、もっとやれ、と煽っているように読めなくもないが、いずれにしても知事に全面的な信頼を置いた記事ではない(http://mainichi.jp/articles/20160827/k00/00m/040/127000c参照)。

*3:あくまで機械に関する一般論だが、先の震災直後に当時の首相が浜岡原発を停止させたときも同じことを考えていた。

*4:むしろ、稼働を止めて守備につくスタッフが手薄になったところで災害に直面する方が、対応が厳しくなることだって考えられる。

*5:日本経済新聞2016年8月27日付朝刊・第12面。

*6:日本経済新聞2016年8月27日付朝刊・第39面。

*7:詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20160115/1453051031参照。

*8:当時ヴェルディ勢が固めていた攻撃寄りのMFということもあって日本代表には縁がなかったが、“いてほしくないところに顔を出す”典型的な選手で、相手チームのサポーターにとっては実に憎たらしいタイプの選手だった。

2016年8月25日のメモ

大王製紙内部告発者の解雇無効訴訟(控訴審

大王製紙の内紛に絡んで、降格、解雇処分を受けた元課長の男性に対する控訴審判決のニュースが出ている*1

記事によれば、「東京高裁(山田俊雄裁判長)は25日までに、解雇を無効とした一審・東京地裁判決を支持し、双方の控訴を棄却した。」とのこと。
インターネット版の記事*2では、「判決は正当に行われた人事異動を無効としており、承服できない」という会社側のコメントも掲載されており、一審判決中で「告発の内容が真実と認められない」という認定もなされていることもあって、ネットで検索すると結論に対するブーイングも一部では出されている。

だが、既に裁判所のHPに掲載されている一審判決(東京地判平成28年1月14日)*3を読んでもなお、「正当に行われた人事異動」などと言うセリフを肯定する人がいるとしたら、それはちょっとどうかな、と個人的には思うところ。

原告は元々大王製紙の創業2代目の現役時代に秘書を務め、問題となる配転行為を受けるまでは経営企画部の課長というポジションにあった人物。
にもかかわらず、会社は、創業家側に情報を流した、という理由で、原告を北海道赤平市にある子会社の営業所(業務は資材の保管、入出庫及び運送業務の受託と再委託、という原告が入社以来約25年間全く経験してこなかった内容で、しかも「所長」という肩書はあるものの実質的に一人で業務を行わなければならない)に出向させる、という絵にかいたような懲罰人事を行い、それに応じなかったことをもって懲戒解雇、という最終手段を行使している*4

「それが何だ。就業規則に違反した人間を飛ばして何が悪いんだ。」という価値観の方ももちろんいらっしゃるだろうけど、自分はそういう考え方に一切相容れる余地はないと思っているし、この事実関係で会社を勝たせなかった裁判所の判断は間違っていないと思っている。

いずれ高裁判決もアップされるだろうから、会社側の主張がどこまでエスカレートしているのか、といった点なども楽しみにしつつ、待つことにしたい。

嫡出否認の規律をめぐる違憲訴訟

嫡出否認の訴えを夫にだけ認める民法の規定は違憲である、として、神戸市の60代女性ら4人が国賠訴訟を提起したようである*5
関連する民法の規定は以下のとおり。

(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(嫡出の否認)
第774条 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

前の夫との親子関係成立を避けるために「無戸籍」となることを余儀なくされた子供たちがたくさんいる、という問題が社会的に注目を集めている中、再婚禁止期間については、(最高裁違憲判決を受けて)先の国会で民法733条等の改正がなされたものの、肝心の嫡出推定規定がそのままでは意味がない、という指摘はあちこちでなされていたところで、今回の訴訟も、憲法14条1項を根拠に774条の違憲性を問うことを通じて、772条に基づく嫡出推定の規律から子と母を解き放つ、ということに真の狙いがある、ということなのだろう。

個人的には、「身分関係の安定」=「子の福祉に適う」とは必ずしもいえなくなっている現代において*6、嫡出推定規定を維持すること自体の合理性が問われるべきだろう、と思っていて、出生時に届け出られた者を父親として記載する、ということで良いではないかと思ったりもするのだが*7、さすがにそこまで到達するのはいつの時代になることやら・・・。

*1:日本経済新聞2016年8月25日付夕刊・第15面。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24H79_U6A820C1CC1000/

*3:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/011/086011_hanrei.pdf

*4:これはあくまで地裁判決における事実認定に基づく記述であり、高裁判決でその認定がどうなったか、ということはまだ確認できていない。

*5:日本経済新聞2016年8月25日付夕刊・第15面。

*6:要するに、「誰でもいいから父親が定まりさえすれば子供の生活がより安定する」という仮定自体がもはや成り立たない時代になっている、ということ。

*7:その後、戸籍の編製にどう反映するかはいろいろ難しい面もあるだろうが、そもそも家族単位で戸籍を作ること自体をやめてしまえば、それを気にする必要もない(親子関係の連続性は、マイナンバーで紐付けすることで特定することもできるのだから)。

2016年8月24日のメモ

執行役員」の是非

日経紙が2日にわたって「曲がり角の執行役員制度」というコラムを掲載していた*1
「上」で散々っぱら落として「下」でちょっと引き上げる、というありがちなコラムの構成パターンだが、結論としては、“よほど上手に使わないと意味がない”といった雰囲気(どちらかと言えば落とし気味)になっている。

確かに、会社に雇用されている単なる使用人が「役員」を名乗るのはどうなの?といった点については自分も同意するのだが、今、大企業で採用されている「執行役員」制度の多くは、「取締役会のコンパクト化の過程で、本来であれば「会社法上の役員」になるにふさわしい能力と権限を持っているにもかかわらず取締役に選任されない幹部社員が大量発生した」ことに起因して出来上がっている、という側面もあり*2、いかに優れた人物でも相応の“箔”がないと表舞台に出にくい、という今の産業界の現実を鑑みると*3、そう簡単に「無意味」ともいえないように思うところ。

いずれ日本企業の人材希薄化が進んでいけば、“役員”を名乗るにふさわしい人材も減っていくだろうから、そんなに心配しなくても自ずから消えていく役職のような気もするのだが、この辺はもう少し様子を見ていく必要があるのかもしれない。

期待され過ぎた“レフティモンスター”の悲劇とカリスマの復帰

開幕当初こそ好調だったものの、その後ズルズルと黒星を積み重ね、Jリーグ開幕当初から守ってきた「1部」の地位の維持がかなり危うくなってきている今年の名古屋グランパス
就任1年目、しかもGMを兼任する“全権監督”だった小倉隆史監督への風当たりは当然強く、一度は球団社長が交代を強く否定したこともあったものの*4、とうとうここに来て事実上の解任、という事態に相成ってしまった。

「J1名古屋の小倉隆史ゼネラルマネジャーGM)兼監督(43)が成績不振によりシーズン途中で休養することが23日、チーム関係者への取材で分かった。クラブ側から休養するように伝えられ、事実上の解任といえる。」(日本経済新聞2016年8月23日付夕刊・第13面)

残留ラインに大きく水を開けられた状況を考えると、後任がかつてストイコビッチ監督の下で副官を務めたジュロブスキー氏だからといって、とても明るい未来が開けているとは言えない。そして、このままJ2に降格するようなことになれば、経験の浅い小倉氏にチームの命運を委ねてしまったフロントの引責も避けられないだろう*5

“監督交代”の直後に発表された「田中マルクス闘莉王選手復帰」のニュースがグランパスサポーターにとっての唯一の光明だろうが*6、かつて愛するチームの“J2落ち”を味わった身として言わせてもらえば、窮地に立たされた時のこの手の“補強”がうまく行くケース、というのは実はほとんどないわけで、加えて闘莉王選手がその名の通り闘志を前面に出す選手だけにこういう場面では空回りしてしまう姿の方が目に浮かんでしまう。

J1の結果よりもJ2の結果の方が気になる生活に突入してはや何年・・・という自分にしてみれば、“ようこそ!”と両手を挙げて歓迎したい気満々なのだが、J草創期にアーセン・ベンゲルが率いて躍進し、その後も、メチャクチャ強いわけではないが降格のリスクも感じない“超安定”チーム*7として長くJ1の歴史に名を刻んできたチームが、むざむざと降格するのを見るのはやはり忍びないので、叶いそうもない奇跡を半分くらい期待しつつ、高みの見物を決め込むことにしたい。

*1:日本経済新聞2016年8月23日付朝刊・第12面。2016年8月24日付朝刊・第12面。

*2:したがって、取締役同様、就任時に会社を退職して使用人としての地位を返上した上で委任契約を締結している、というパターンはかなり多いのではないかと思う(日経紙のコラムでは、一部の企業しか「委任型」を採用していないような書かれ方になっているが・・・)。

*3:この点については、「相談役」等の話と同じなのだが、「執行役員」の場合、まさに現役バリバリの世代の方が多いだけに、より“箔”がないと気の毒、という面はあるように思う。

*4:http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=17665参照。

*5:経験豊富な西野朗監督の後任に“新人”を据えて一気に転落した2012年シーズンのガンバ大阪、という分かりやすい前例があったはずなのに、同じ落とし穴に嵌ってしまうのだから、まぁ何と言うか・・・。“レフティモンスター”として鳴らした全盛期から五輪予選直前の悲劇を経て甲府の星になるまで、自分は同世代のスターとして小倉選手に声援を送ってきたし、特に2000年シーズンはどん底だった我が贔屓チームの残留に貢献してくれた功労者の一人でもあったので、個人的には全く悪印象を持っていないのだが、「指揮官になるためのステップを踏まずに監督」というのはやはりサッカーの世界では厳しい。

*6:リオ五輪の際に、現地でのゲストコメンテーターか何かで出ているのを見て全然普通にプレーに復帰できそうな雰囲気だな、と感じたのだが、おそらくその頃にはすでに復帰に向けた準備を始めていたのだろう。そして、GM兼監督の就任直後に電撃退団した選手が、その“解任”と共に復帰してくる、というところが、様々な憶測を呼ぶところである。

*7:とはいえ、改めて過去のチーム成績を見ると、何度か降格の危機に直面したこともあったようだが、親会社の強さゆえか、あまりそういうイメージを抱かせるチームではなかったように思う。

2016年8月23日のメモ

五輪の終わりとともに、一気に日本列島に台風が押し寄せ、そのまま夏まで吹き飛ばしてしまいそうな勢い。
よく「暑さ厳しい8月に東京でオリンピックをやるのはアスリート達に酷ではないか?」という声を良く聞くし、実際、競技者の立場になればその通りだと思うのだが、“2週間以上にわたって繰り広げられる娯楽イベント”を一年のうちどの時期にやるのが良いか、と聞かれれば、学校は休み、仕事も何となく夏休みモードのこの時期が一番良いのは間違いないのであって、結局はこの時期で収まるんだろうな、という気がしている。
何らかの形でかかわる人たちにしてみれば、終わった後の喪失感は半端ないだろうけど・・・*1

「税理士に開示義務」の衝撃

財務省国税庁は企業や富裕層に租税回避策を指南する税理士に仕組みの開示を義務付ける方針だ。」(日本経済新聞2016年8月23日付朝刊・第1面)

で始まる記事が日経紙の1面に載っているのを見てぶったまげた。

最近、“租税回避”というフレーズに対して国際的に風当たりが強まっていることは承知しているし、自分自身、“節税”の名の下に税金をけちるようなちまい発想が大嫌いなので、租税回避否認規定の対象を拡大したり、企業により詳細な情報開示を求めたり、といった方向性には別に反対しないのだが、この記事に書かれている内容は、本来守秘義務を負っているはずの「税理士」に、クライアントの納税スキームに関する情報開示を強制するもののように読めてしまう。

あくまで、スキームを開示させて実態を把握し“抜け道”を潰すための立法材料とするための方策に過ぎない、現在の法律の下で課税できないスキームなのであれば将来はともかく今はスキームを開示したことでクライアントが不利益な課税処分を受けることにはならないのだからクライアントに対する忠実義務違反となることもない、という説明は一応成り立つのかもしれない。

だが、租税法律主義の原則を徹底するならば、法定の課税要件を充たさないがゆえに採用される“租税回避”策は、“グレー”でも何でもない、“シロ”そのものの行為なのであって、道義的にとやかく言う余地はあっても、法的に当局が介入する余地は本来ないはずである。

にもかかわらず、上記のような“特別扱い”を行うための根拠は一体どこに見出されるのだろうか?

書きぶりがやや怪しい記事だし、仮にここに書かれているような内容を当局筋が本当に呟いていたのだとしても、それは、いつものように“もっとも高めのボールを投げただけ”なのだろう、とは思うが、「税逃れに厳しい世論」だけを背景に無理を押し通すようなことになれば、当局と納税者のバランスを著しく失する恐れもある、ということに、もっと厳しい目が向けられて然るべきではないだろうか*2

リスクは分かった。聞きたいのはその後だ。

月曜日の日経紙の法務面にメインで取り上げられていたのは「汚職防止に関する法規制」の話*3

日経紙に限らず、あちこちの専門メディア媒体でここ数年定期的に取り上げられているネタだし、巷ではセミナー等もひっきりなしに行われているから、いわゆる“コテコテコンプラネタ”が基本的に好きではない自分でも、もはや一通りの知識は頭の中には入っている。

もっとも、具体的な事例に直面すればするほどどう対応すればよいか分からなくなる、というのがこのテーマの一番難しいところで、しかも、肝心なその答えはどこを見ても書いていない。

「営業上の不正の利益を得る目的」で行われた贈答、接待が違法となる、というのは良いとしても、どのような場面で何をすることが「営業上の不正の利益を得る目的」と推認され、あるいはされないのか(正当な営業活動の範囲に留まるのか)ということが分からなければ、実務者は頭を抱えるだけ。
それが分かっていても、“○○に詳しい”人々が、答えを示さない、又は示せない、というのが現状になってしまっているのが、何とも残念なことだと思う*4

記事の中で取り上げられている「反贈賄ポリシー」の類の指針を社内で策定するのは確かに重要なことではあるが、それはほんの一歩に過ぎないわけで、そこから踏み込んだ何かを示せて初めて価値のある情報になる、ということがもう少し自覚されるべきではないかな、と思った次第である。

「居座る旧トップ」批判

ガバナンス系の話題で新聞記者が書く記事の中には、組織の内側にいる者としてあまり共感できないものが多いのだが、日経新聞の渋谷高弘編集委員が「経営の視点」というコラムで書かれていた「居座る旧トップの存在/統治阻害、活躍は社外で」という記事には、まぁ一応納得できるかな、というところ*5

役員に支払われる報酬の相場を考えれば、「終身雇用を前提として現役時の報酬を抑える代わりに退任後に補う慣行があるから」と言われてもしらけるだけだし、今は「一生一つの会社で骨を埋める」という価値観が美徳とされる時代でもない。

何より、現役のマネージャー、経営幹部時代に光り輝いていた方々が、一仕事終えたような風で、何を相談されるわけでもない相談役だとか、さして重要視もされていない子会社の役員とかで居残っているのを見るのは、下々の者としてはやるせないわけで。

産業界の場合、団体の役職一つやるにしても、完全にOBになった人より、何らかの肩書きが残っている人の方が重宝される傾向があって、そのために会社で役職を残す、というパターンもあるので、一概に現状を全否定することはできないのだけれど、これからの世代を会社という組織に繋ぎ止めようと思うのであれば、組織の中である程度のところまで成し遂げた人間が、事業起こして一旗揚げるなり、趣味を徹底的に極めて名を挙げるなり、といった成功事例を意識的に作っていかないといけないんじゃないか*6、と思う今日この頃である。

*1:もちろん、まだまだ先にパラリンピックも続くので、運営サイドにしてみれば、ここで超えるのは“一山”に過ぎない、とはいえ。

*2:なお“租税回避”を是正するような法制化を進めること自体に異論はないが、この手の手法が流行り始めた頃に言われていた「税金をもっと減らせるのにそれをせずに税金を払ってしまうような経営者は、株主に対する善管注意義務違反に問われかねない」的な話との関係にはどう落とし前を付けることになるのか、個人的には気になるところである。

*3:日本経済新聞2016年8月22日付朝刊・第15面。

*4:誰でも読めるような媒体に明確な見解を書かない、というのは営業戦略の一つとして一応理解できなくはないが、チャージを払って相談しても明確な回答をもらえない、ということは決して少なくない。

*5:日本経済新聞2016年8月22日付朝刊・第5面。

*6:社外取締役」なんてつまらないことは言わずに・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html