2016年8月25日のメモ

大王製紙内部告発者の解雇無効訴訟(控訴審

大王製紙の内紛に絡んで、降格、解雇処分を受けた元課長の男性に対する控訴審判決のニュースが出ている*1

記事によれば、「東京高裁(山田俊雄裁判長)は25日までに、解雇を無効とした一審・東京地裁判決を支持し、双方の控訴を棄却した。」とのこと。
インターネット版の記事*2では、「判決は正当に行われた人事異動を無効としており、承服できない」という会社側のコメントも掲載されており、一審判決中で「告発の内容が真実と認められない」という認定もなされていることもあって、ネットで検索すると結論に対するブーイングも一部では出されている。

だが、既に裁判所のHPに掲載されている一審判決(東京地判平成28年1月14日)*3を読んでもなお、「正当に行われた人事異動」などと言うセリフを肯定する人がいるとしたら、それはちょっとどうかな、と個人的には思うところ。

原告は元々大王製紙の創業2代目の現役時代に秘書を務め、問題となる配転行為を受けるまでは経営企画部の課長というポジションにあった人物。
にもかかわらず、会社は、創業家側に情報を流した、という理由で、原告を北海道赤平市にある子会社の営業所(業務は資材の保管、入出庫及び運送業務の受託と再委託、という原告が入社以来約25年間全く経験してこなかった内容で、しかも「所長」という肩書はあるものの実質的に一人で業務を行わなければならない)に出向させる、という絵にかいたような懲罰人事を行い、それに応じなかったことをもって懲戒解雇、という最終手段を行使している*4

「それが何だ。就業規則に違反した人間を飛ばして何が悪いんだ。」という価値観の方ももちろんいらっしゃるだろうけど、自分はそういう考え方に一切相容れる余地はないと思っているし、この事実関係で会社を勝たせなかった裁判所の判断は間違っていないと思っている。

いずれ高裁判決もアップされるだろうから、会社側の主張がどこまでエスカレートしているのか、といった点なども楽しみにしつつ、待つことにしたい。

嫡出否認の規律をめぐる違憲訴訟

嫡出否認の訴えを夫にだけ認める民法の規定は違憲である、として、神戸市の60代女性ら4人が国賠訴訟を提起したようである*5
関連する民法の規定は以下のとおり。

(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(嫡出の否認)
第774条 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

前の夫との親子関係成立を避けるために「無戸籍」となることを余儀なくされた子供たちがたくさんいる、という問題が社会的に注目を集めている中、再婚禁止期間については、(最高裁違憲判決を受けて)先の国会で民法733条等の改正がなされたものの、肝心の嫡出推定規定がそのままでは意味がない、という指摘はあちこちでなされていたところで、今回の訴訟も、憲法14条1項を根拠に774条の違憲性を問うことを通じて、772条に基づく嫡出推定の規律から子と母を解き放つ、ということに真の狙いがある、ということなのだろう。

個人的には、「身分関係の安定」=「子の福祉に適う」とは必ずしもいえなくなっている現代において*6、嫡出推定規定を維持すること自体の合理性が問われるべきだろう、と思っていて、出生時に届け出られた者を父親として記載する、ということで良いではないかと思ったりもするのだが*7、さすがにそこまで到達するのはいつの時代になることやら・・・。

*1:日本経済新聞2016年8月25日付夕刊・第15面。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24H79_U6A820C1CC1000/

*3:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/011/086011_hanrei.pdf

*4:これはあくまで地裁判決における事実認定に基づく記述であり、高裁判決でその認定がどうなったか、ということはまだ確認できていない。

*5:日本経済新聞2016年8月25日付夕刊・第15面。

*6:要するに、「誰でもいいから父親が定まりさえすれば子供の生活がより安定する」という仮定自体がもはや成り立たない時代になっている、ということ。

*7:その後、戸籍の編製にどう反映するかはいろいろ難しい面もあるだろうが、そもそも家族単位で戸籍を作ること自体をやめてしまえば、それを気にする必要もない(親子関係の連続性は、マイナンバーで紐付けすることで特定することもできるのだから)。

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