2016年9月1日のメモ

一年、12カ月のうちでも、もっとも月の初めが憂鬱になるのがこの9月、ということで、朝から気分的にはどんより。
それでもまだ暑さが残っているうちは、頑張れる気がする。

アップル1.4兆円課税問題

8月31日の朝刊1面に、「欧州委員会 アップルに1.4兆円追徴課税」という記事が載ったのを見た時、これはいろいろ物議を醸すだろうなぁ、と思ったら、1日も経たないうちから、案の定、当事者のみならずアメリカ政府からも反発の火の手が上がった。

大手企業の租税回避スキームに対して世界的に風当りが強くなっているのは間違いないところだし、欧州委員会が「特定企業優遇税制」と指摘して有名企業に追徴課税を仕掛けてきたのも、今回が初めてというわけではない。

だが、それでも今回の件が目立ってしまうのは、金額の莫大さ+米国のイノベーションの象徴とも言える企業がターゲットになったから、ということなのだろう。

アイルランド政府が徹底抗戦する限り、アップルが直ちに追徴課税を食らって経営上のリスク要因となる、という可能性までは考えなくてよいと思うのだけど、いろんな意味でターニングポイントになりそうな状況なのは間違いない。

化粧品特許訴訟の第1ラウンド

富士フィルムがDHCを相手取って起こしていた特許侵害訴訟で、東京地裁民事第46部が富士フィルムの請求棄却判決を出した、というニュースが報じられている。

「判決は『特許の出願前にインターネットで公開された化粧品の成分リストから容易に発明できた』と述べ、富士フィルムの特許が無効と判断した。」(日本経済新聞2016年8月31日付朝刊・第38面)

ということで、おそらく特許法104条の3のカウンターパンチがきれいに決まった、ということなのだろう。

元々この争いは、富士フィルムが2014年9月に仮処分申立をプレスしたところから注目を集めており*1、2015年8月の提訴プレス*2と合わせて、それなりの報道がなされていたから、訴えた富士フィルムの側としては相当力こぶが入っていたと思われるところだが、なぜ当初の見立てから離れる結果になってしまったのか。

地裁判決も、特許庁で行われていた無効審判の審決もまだ確認することができないので、詳細な分析はできないのだが、争いの対象となっている特許(第5046756号)のシンプルな請求項と、富士フィルム側がプレスで再三胸を張って強調している「抗酸化成分アスタキサンチンは、自然界に広く分布している天然由来の成分で、カロテノイドの一種です。強い抗酸化力を持ちますが、不安定で扱いづらく、従来の技術では安定的に化粧品に配合することが難しいという課題がありました。当社は、同課題に対して研究開発に取り組み、先進・独自の技術によって、同成分の化粧品への安定配合に成功しました。」というフレーズがあまりマッチしていない、というところに、根本的な問題があるように思えてならない*3

【請求項1】
(a)アスタキサンチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びリン脂質又はその誘導体を含むエマルジョン粒子;
(b)リン酸アスコルビルマグネシウム、及びリン酸アスコルビルナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体;並びに
(c)pH調整剤
を含有する、pHが5.0〜7.5のスキンケア用化粧料。
【請求項2】
前記リン脂質又はその誘導体がレシチンである、請求項1に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項3】
更にトコフェロールを含む、請求項1又は請求項2に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項4】
更にグリセリンを含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項5】
前記グリセリンの含有量が、スキンケア用化粧料の全質量に対して10質量%〜60質量%である請求項4に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項6】s
前記エマルジョン粒子の平均粒子径が200nm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料の製造方法であって、
アスタキサンチンを含有するカロテノイド含有油溶性成分、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリン脂質又はその誘導体と、水相とを混合して、エマルジョン粒子を有する水分散物を得ること、
前記水分散物と、リン酸アスコルビルナトリウム及びリン酸アスコルビルマグネシウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体を含む水性組成物とを混合して、平均粒子径200nm以下のエマルジョン粒子を有する分散組成物を得ること、
分散組成物のpHを5〜7.5に調整すること、
を含むスキンケア用化粧料の製造方法。
【請求項8】
前記リン脂質又はその誘導体の含有量が、前記水分散物全体の質量に対して0.001質量%以上20質量%以下である、請求項7記載のスキンケア用化粧料の製造方法。

消費者事故調によるエレベーター事故報告書

消費者安全調査委員会(いわゆる消費者事故調)が、2006年のシンドラーエレベーターの死亡事故に関する調査報告書を出した、というニュース。
既にHPでも公開されている150ページ以上に上る報告書は確かに圧巻なのだが*4、なぜ、10年前の、しかも、既に国土交通省が調査報告書を出している事故を取りあげるのか、ということへの疑問はあるし、その疑問は報告書中に記載された以下のくだりを読んでも解消しない*5

2.2 自ら調査に至った経緯
「本件事故については、国土交通省社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会昇降機等事故対策委員会(以下「国土交通省事故対策委員会」という。)による調査が行われており、平成21年9月8日に「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査報告書」(以下「国土交通省調査報告書」という。)として公表されている。そのため、調査委員会は消費者安全法第24条第1項の規定に基づき、国土交通省事故対策委員会の調査結果について評価を行った(平成25年8月9日に「消費者安全法第24条第1項に基づく評価 平成18年6月3日に東京都内で発生したエレベーター事故−国土交通省が行った調査結果についての消費者安全の視点からの評価−」(以下「評価書」という。)を公表。)。評価書では、平成24年10月31日に石川県で発生した同種事故に関する内容等、新たに入手した情報も参考にし、エレベーターに関する消費者安全の確保の見地から、同種事故の未然防止に向けて、評価当時の再発防止策の有効性も視野に入れつつ、重篤化防止に関する点を含めた幅広い観点から検討を行った。その結果、国土交通省事故対策委員会が本件事故の原因として推定している、ブレーキの保持力が失われたことについて、更なる原因究明及び再発防止策の検討を行うため、検証すべき問題点を「エレベーター本体に関する問題」、「エレベーターの保守管理に関する問題」、「情報共有と管理体制に関する問題」、「重篤化防止に関する問題」の4つの観点から整理した。調査委員会はこの4つの問題を中心に、消費者安全法第24条第3項の規定に基づき、平成25年8月に自ら調査を開始した。」(10〜11ページ)

また、消費者安全法上の「消費者事故等」の定義(法2条5項)は、

5  この法律において「消費者事故等」とは、次に掲げる事故又は事態をいう。
一  事業者がその事業として供給する商品若しくは製品、事業者がその事業のために提供し若しくは利用に供する物品、施設若しくは工作物又は事業者がその事業として若しくはその事業のために提供する役務の消費者による使用等に伴い生じた事故であって、消費者の生命又は身体について政令で定める程度の被害が発生したもの(その事故に係る商品等又は役務が消費安全性を欠くことにより生じたものでないことが明らかであるものを除く。)
二  消費安全性を欠く商品等又は役務の消費者による使用等が行われた事態であって、前号に掲げる事故が発生するおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するもの
三  前二号に掲げるもののほか、虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態

と施設事故等も含む定義になっているから、エレベーター事故を対象とすること自体は間違いではないものの、もう少し身近な製品等にターゲットを絞った方が・・・という気もする。

これまでの報告書等のラインナップ*6を見ても、やや方向性が見えにくいところはあるだけに、世の中の専門家のリソースをどう有効活用するか、という観点からも、効果的な戦略が練られるべきではないかと思うところである。

石井監督一転続投

これはもう、良かった〜、という言葉しか出てこないニュースである。

「J1鹿島は30日、臨時の役員会を開き、休養していた石井正忠監督(49)の続投を決めた。」(日本経済新聞2016年8月31日付朝刊・第37面、強調筆者)

個人的には、

「孤独な存在である監督が抱えるストレスの重さは計り知れない。その重圧と闘うのが監督の仕事という解釈が一般的だが、監督も一人の人間であることを忘れてはならない。」(同上)

という吉田誠一記者のコラムでの一文がちょっと沁みた。

*1:http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0916.html参照

*2:http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_1003.html

*3:特許のクレーム自体は化粧品の成分の配合とを淡々と記述したものに過ぎず、製法特許部分の請求項と合わせて読んでも、特許権者が「どうやって安定配合したか」は分からない。おそらく、“画期的な製法”そのものを特許化することがリスキーなのでこういう形になっているのだろうが、“出来上がり”のシンプルな成分配合の一致のみで、特許権という強力な権利の行使を認めるには、特許自体(成分配合自体)に相応の新規性・進歩性が必要となる。その辺が特許権者にとってはうまくかみ合わなかったのではないか、と推察するところである。

*4:公表されている報告書全文は、http://www.caa.go.jp/csic/action/pdf/4_houkoku_honbun.pdf

*5:自前で一から調査を行うだけのリソースに乏しい状況を考慮して、先行調査の評価から切り込んで実績を積み重ねる、というアプローチを取った、ということなのかもしれないが、重複した調査にどれだけ意味があるのかということは、しっかり考えておく必要があるように思う。

*6:http://www.caa.go.jp/csic/action/index5.html