8日付の記事に、TBを付けてくれたsophia_flosさんの
↓のエントリーを読んで、
(「企業法務と私」/http://d.hatena.ne.jp/sophia_flos/20051208/1134072527)
“企業法務”の世界もまだまだ捨てたものではない、と率直に思う。
sophiaさんのブログは、以前から拝読させていただいているが、
独特な感性の鋭さと、法律(特に刑事法系)に対する真摯な思いには、
いつも感心させられる。
そして、それだけ“法”というものに真摯に向き合おうとしている方が、
前向きな気持ちで、企業法務という“業界”に飛び込もうとしていることは、
同業者としては、非常に嬉しいことでもある。
自分は、彼女のように、
法律が好きで今の道に進んだ、というわけではない。
学生時代はむしろ、数多いる法学部生の中でも、
法律からは一番縁遠いところを歩いていた人間である。
だから、明確な目標を持って、この業界に飛び込んでくる人々を見て、
羨ましさを感じる反面、
本来法律の最大の魅力であるはずの「理」や「バランス感覚」が必ずしも通用しない、
企業社会とのギャップを彼・彼女たちがどのように感じているのか、
これまで少なからず気にかけていた。
法に照らせば、“限りなく黒に近いグレー”な施策でも、
リスクが顕在化する可能性が低ければ、無造作に行われてしまう、という実態*1。
否、リスクが数年後に顕在化することが確実な状況でも、
目先のdealを成立させるために、“目をつぶって”押し切ってしまうという実態すらある*2。
「法務部門は営業のことを分かっていない」という苦言は、
特にメーカーの営業の方からよく聞かされるものであるが、
その会社を相手にする側からすれば、
営業にとって“物分りのいい”法務部門が存在する会社ほど、
御しやすい相手はいないし、
そういう“物分りの悪い”法務部門が存在するからこそ、
需要者と供給者の側のリスクとリターンが適切に配分されていくのだと思うが、
得てして、そのような“深慮”は、なかなかかえりみられることはない*3。
法律を専攻し、企業法務の世界に夢を抱いて飛び込んできても、
「社内の意思決定ラインから遠すぎる」
「スペシャリストとしての意見を十分に尊重してもらえない」
「出世したくてもポストがない」
等々の理由で、法務部署を離れていった者のエピソードには事欠かないのが、
自分の会社の実態である*4。
だから自分は、「法律が好き」という思いだけでは、
企業法務の仕事は務まらないのではないか、とさえ思うことがある。
だが、sophiaさんがブログの中で触れられているように、
「誰かの信頼にこたえたい」
「誰かのために恩返しをしたい」
という思いを持ちつづけることができるなら、
少々のことでは折れることなく、
仕事へのモチベーションを保ちつづけることができるだろう*5。*6
(当然ながら、これは企業法務という職種に限った話ではないけれど。)
そして単に「法律が好き」という思いを超えて、
「法律にさえ関われればそれでいい」という無欲さ+真摯さを
保ちつづけることができるなら、
きっと、そこに、企業法務担当者としての、
“成功”の道が開けるはずだ。
自分の率直な感想として言わせてもらえば、
会社の中で、上にあげたような思いを持ちつづけること、
特に「無欲」を貫き通すことは、
「社長になりたい」「世に自分の名前を残したい」といった
「野心」を持ちつづけることと、
同じくらい難しいことだと思う。
自分自身、日々“生きた法”に触れることができることに、
純粋に喜びを感じる時がある反面、
隣の青い芝生を見て、自問自答する機会も数知れずある。
だから、「無欲でい続ける」ことも、
クラーク博士がいうところの
“Be Ambitious”のひとつの解釈なのではないか、
と勝手に思ったりもしている。
だが、難しいことではあっても、
それが不可能、というわけでは決してない。
そして、「無欲」は時に最大の強みにもなる。
“Boys&Girls, Be Ambitious!”
こんなセリフを言われるには
程遠い世代になってしまった自分だが*7、
今でも、いい言葉だと思う・・・*8。
*1:極端な例ではあるが、社内結婚した女性社員に対する有形無形の“退職勧奨”などは、まさにその典型というべきだろう。企業社会が“人”によって構成されるものである以上、「理」のみならず、「感情」に配慮しなければ組織が回っていかない、というのはひとつの真実であるが、時に「感情」に名を借りた「因習」に支配されがちになるというのも、企業社会のひとつの側面であると思う。
*2:たとえば、委託開発して得られた成果物について、得られる収益にかかわらず極めて高額なロイヤリティを払いつづけなければならない、というオプション付きの契約など。少々のリスクを覚悟しなければ大きなリターンを得られない、というのもひとつの真実であるが、コントロール困難なリスクを背負い込むのは、単なる暴挙でしかない、と思う。
*3:もちろん、「物分りが悪い」と不評を買う原因が、純粋に、法務担当者のコミュニケーション能力不足に由来する場合があることも否定しないが。
*4:もっとも、これはそもそも法務部門がつい最近まで総務部門の一セクションに過ぎなかった会社ゆえの事態に過ぎないのであって、メーカーや商社のように、法務のポジションがキャリアとして確立しているところであれば、事情は多少なりとも異なるのだろうが。
*5:「誰か」の対象は微妙に異なるが(特に後者(笑))、自分の中にも、同じような思いはある。そして、だからこそ今の自分がある。
*6:蛇足だが、sophiaさんの会社の採用担当者がブログを見たら、泣いて喜ぶに違いない。
*7:かといって、若い人に向かって偉そうにこんな言葉を言えるほど、人生経験を積んでもいないわけだが・・・。
*8:以上、長くなってしまい、大変恐縮ですが、学校を出てから、無駄に多くの時を費やしてしまった(大学のタームに換算すると、1廻り、2廻り・・・)擦れっからしの自分に、新鮮な感動と戒めを与えてくれたコメントへの謝辞(のつもり)です。これからいろいろと迷うことがあるかもしれませんが、初心を忘れずに、息長く続けていただければ、と思います。