組織を守り、育てるということ。

3月期決算で、今月株主総会を迎える会社では、取締役の改選に合わせて部門長クラスまで動く大規模な人事異動で”お祭り”状態になることも多い。
そして、中には「人」だけでなく、「組織」まで変わるケースもある。

新聞の人事欄を眺めている限り、こと「法務」と名の付く部署に関しては、中堅規模の会社で新たに独立した部・室として立ち上がったことがリリースされている事例を時々見かけるものの、役員レベルの分掌としては、規模の大きい会社でも、依然として「総務」「経営企画」部門のおまけにされている会社がほとんどだし、独立した法務部門が消滅してしまった残念な事例すら散見される。

どんな大企業でも、というか、歴史のある大企業であればあるほど、管理部門の規模縮小は避けられない時代だから、「法務」を、単なる「管理」部門の一機能としてしか定義できていない会社(あるいは、会社上層部にそういった定義以上の存在感を示せていない会社)であれば、そういう流れになってしまうのは避けられないのだが、「会社内の様々な機能を兼ね備えたオールラウンドさを発揮できるのが『法務』だ!」と信じて十数年邁進してきた者にとっては、忸怩たる思いもある。

そんな時、「日弁連新聞」という決してメジャーではない媒体*1の「続・ご異見拝聴」という連載コーナーに日弁連市民会議委員という肩書でコメントを寄せられていた中川英彦氏*2のコメントが目に入った。

「企業法務マンとして」という小見出しに続き、「法務部門に配属され、8年間アメリカに駐在する中で現地の弁護士と仕事をした経験が財産になった」という趣旨のことを述べられた後に来るくだり。少し長めになってしまうが、以下引用する。

「帰国後、数十人いた法務部員の大半が各事業部門の法務担当者として異動し、法務部が事実上解体している状態を目の当たりにし驚きました。『これでは戦略的な採用や教育を行えない、情報の集約も行えない。会社にとって大きなマイナスだ』と上層部に直談判し、法務部の再編に取り組みました。」
「『法務部は社内の法律事務所、企業の良心として存在すべきである』」
「私を突き動かしたのは駐在中に実感したこの思いでした。」
(日弁連新聞2019年6月1日・第545号・4面)

以前のエントリー*3でも書いたとおり、自分は、今の時代に法務職能を担う担当者を一か所に集約して”大きな法務部”を創ることが現実的だとは考えていないし、「法律事務所」として存在するだけでは、シュリンクする企業組織の中で生き残ることはもはやできないと思っている。その意味で、上記引用コメントは、「今」との時代の違いを織り込んで読む必要がある。

ただ同時に、「戦略的な採用・教育」や「情報の集約(+大局的な方針策定)」といった機能を発揮し、そして何よりも、「良心」を発揮する(厳密に言えば、「良心」を発揮して職分を果たそうとした者を、道に反した権力者から守る)、という観点から、小さくても独立した「法務部(門)」が必要、というのは、時代を超えて受け継がれるべき発想であり、価値観だ、と自分は思っている*4

もちろん、誰もが中川氏のような成功体験を味わえるわけではない。

どれだけ自分の仕事、職能に誇りを持ち、受け継がれてきた伝統に愛着を感じていたとしても、それだけで組織を守ることは難しいし、新たに入ってきた人に役割を引き継いで組織を育てていくことはもっと難しい。それでも、と孤軍奮闘した結果、かえって疎まれ、職を追われるリスクすらある。

だが、そういった難しさに直面して艱難辛苦を味わい、守れなかった悔しさを抱える者だからこそできることもあるわけで。

組織の改廃、人の動き、といった様々な無念をバネに、意欲のある人、企業の良心を担うにふさわしい人が、無駄な苦労をすることなく、会社の中で「法務機能」を当たり前のように果たせる時代を創ることこそが、職業人人生の折り返し地点にいる自分たちの世代に求められているミッション。

そして、どんな立場であれ、それを果たすまで「企業法務戦士」の看板は下ろせない、そんな思いで今はいる。

*1:弁護士会に登録していると、『自由と正義』とともに郵送されてくるのだが、隅々まで目を通そうとする奇特な人はそういないと思われる。自分は『委員会ニュース』とともに、目を通すようにはしているのだけど。

*2:住友商事の取締役から京都大学法科大学院教授に転じられ、今世紀初頭の司法制度改革にも関与されていた方である。

*3:「法務」はどこに居るべきなのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*4:「法務」職能の持ち主に会社の様々な部門で様々な機能を担わせるうえでも、軸となる「法務」のスキル(≠法律知識)と倫理観は不可欠であり、その意識を常に持ち続けるモチベーションを与える、という観点からも、依るべき”母船”としての独立した法務部門は絶対に必要である。

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