あのスルツカヤの顔が、緊張でこわばっていた・・・
ように見えた。
朝、目を覚ました瞬間に飛び込んできたのは、
荒川静香選手の驚異的なハイスコアと、
会場を揺るがす大歓声。
そしておそらくこれから数百回と繰り返される映像となるであろう
会心の笑みとガッツポーズ。
あと5分早起きしていたら、何てことは言わない。
その後滑った3人のぎこちない演技を見れば、
荒川選手の演技がいかに素晴しかったか、
十分に分かったからだ。
村主章枝選手。
心配していた出だしのジャンプは、
思いのほか良いできだった。
だが、少し固さがあったのか、
決して調子が良くなかったのか、
中盤に入って、転倒こそないものの着氷が乱れ、
コンビネーションのトリプルがダブルになる。
SPから、贅沢すぎるほどのレベルの高い戦いを見ていると、
解説者が言うとおり、ジャンプやスピンの難易度も
決して高くないことに気付く。
最後は、いつもの超高速スピンで会場を沸かせたが、
全日本の時のようなどよめきまでは起こらず、
やはり点数の方も伸び悩む*1。
この時点で、荒川1位、コーエン2位、村主3位。
その次に滑ったのは、全米2位のマイズナー選手、16歳。
SPではほぼ完璧な演技、
次の五輪では浅田真央選手の好敵手になるであろうこの選手も、
大舞台最終組の重圧か、全体的に冴えない。
個々の要素がバラバラに見えるのは、
やはりプログラム全体の未成熟さゆえか。
結果、この時点でも上位3名は不動。
そして、大トリを飾るはスルツカヤ選手。
冒頭のシーンに戻る。
自分は、日本勢がどんなに高い得点を出したとしても
最後に完璧な演技を見せるのは、真の女王・スルツカヤ選手だと思っていた。
これまで五輪で何度も味わった苦い経験が、
いかなる重圧にも彼女を打ち克たせると。
だが、フラメンコのリズムが始まっても、
明らかに演技が“おかしい”。
最初のコンビネーションを飛ばなかったのは計算どおりだったにしても、
その後、トリプルがダブルになったり、微妙な回転で着氷したり、
演技中見せる笑顔とは裏腹に、SPとは別人のような演技。
そして、前回五輪のクワン選手の悲劇を彷彿させるような
まさかの転倒。
この時点で、荒川選手の金メダルは決まった。
あとは村主選手がメダルを確保できるかどうかだったのだが、
三回転コンビネーションを一回決めたのと、
いつもと変わらぬレイバックスピンの美しさゆえ、
結局スルツカヤ選手が3位を確保*2。
いやぁ・・・
荒川静香選手、金メダルですよ・・・。
大会直前に変更したプログラムで
2日間完璧な“自分の滑り”。
全米王者と欧州王者を従え、
表彰台の真ん中に日本人が立つという快感。
一方、村主選手とスルツカヤ選手との
最終的なスコア差は約6ポイント。
見ている側には、
190点台を出した全日本の滑りを再現できていたら・・・、
という思いは当然よぎる。
だが、個々の技だけを見れば、
村主選手が完璧な滑りをしても、
上位との差を埋めるのは難しかったはず。
それでも、ここまで表彰台に迫り、
五輪自己ベストの4位という結果を残したのは立派というほかない。
終わった後のインタビューで、
「次につなげる」という言葉を残していたのが印象的だった*3。
これから、撮ったビデオを急いで見返して、
荒川選手の最高の演技を見届けてから、
家を出ることにしたいと思う。