就任早々、なかなかやってくれる。
「サウジアラビアと3日(日本時間4日)にサッカーのアジアカップ予選を戦う日本代表は1日、当地に到着直後、アルアハリ競技場で早速練習を開始した。」*1
現地は30度を超える高温多湿のコンディション。
選手の体調よりも、
オシム監督のコンディションを心配したくもなるものだが、
このニュースを大きく取り上げたスポーツ紙も、
多くは肯定的な評価であった。
昨年までほとんど実績のなかった梅崎司選手(大分)と、
何で呼ばれないのか、がJの七不思議になっていた名パサー
二川孝広選手(G大阪)を同時招集したのも
ちょっとしたサプライズだったが、
選考や練習スタイルだけでなく、
遠征のスタイルまでがらっと変えてしまうオシム監督*2から、
相変わらず目が離せない。
先週発売されたNumber660号で、
早速『オシムの全貌。』なる特集が組まれるなど、
一躍時の人になったイビチャ・オシム前ジェフ千葉監督(強調(笑))だが、
あのジーコですら就任当初は、
“期待感”が満ちていたのであって、
贔屓目で見ると、どうしてもマイナスな情報が捨象されがちなので
過多な賛美的情報は警戒してかかる必要があるだろう。
準備期間が短い中で臨んだ2試合で
一応の結果は出していることもあって、
かつて“ジーコ与党”だった戸塚啓氏*3の筆なども
比較的優しいように映るが*4、
といった意見も此処では重要である。
自分は、イビチャ・オシムがジェフでやった仕事、残した足跡を見れば、
彼が代表監督にふさわしい人物なのは間違いない、
と確信しているのだが、
それを超えてユーゴスラビア代表監督時代のエピソードまで
遡って彼を神格化するような動きには
一応疑ってかかるべきものがあるような気もしている。
何と言っても致命的なのは、
現在のところのソースが事実上木村元彦氏*6に限られていること。
最近いろいろなところで語られているオシム監督のエピソードの
ほとんどが、木村氏の著作や記事に基づいている、
と言っても過言ではない*7。
ユーゴスラビアという日本人にはあまりなじみのない国で
起こった出来事を言葉の壁を越えて把握できる日本人が
そんなに多くはないであろうことは容易に理解できることであるが、
かといって、対立証拠によるテストを受けていない情報を
そのまま垂れ流すことが危険なのは、
これまでの多くの場面において既に証明されている*8。
まぁ、木村氏をソースとしてNumber誌に出てきている情報も、
よくよく見ると、
ギリシャの名門・パナシナイコスの監督を務めていた時の
エピソードがごっそり抜け落ちていたり、
元ユーゴ代表のサビチェビッチ選手が、
オシムとの確執の存在を自ら認めていたり*9、
ジュニアをジェフの監督に就任させた経緯が
どこにも触れられていなかったり(笑)するから、
突っ込もうと思えば突っ込めるのかもしれないけれど・・・。
セルビア語もボスニア語も理解できない筆者には、
余計な揚げ足取りをする能力もないし、
そんなことをする気もない。
今は、オシム監督の“何らかの理”に基づいた采配を堪能し、
ようやく日の目を見たジェフの勇者たちの活躍に目を細めることで
頭が一杯なのである(何たる幸せ・・・笑)。
だが、ある程度の世代より上のサッカーファンなら誰でも知っている、
“ジーコツバ吐き事件”が、W杯で惨敗した後になって出てきて、
“監督の資質”が論じられたりしたことと、同次元のくだらなさは
もはや味わいたくないのも事実。
ネガティブ情報も含めて洗いざらい出してきて、
それでも、それを打ち消すような実績で雑音を黙らせて初めて、
4年後、堂々とオシム選手とその選手たちを送り出せるのではないか、
と思えてならないのであるが、どんなものだろう・・・。
*2:このあたりのスタイルは前々任者・トルシエのスタイルに近いし、やはりちゃんと見ている人の目から見れば、そこに日本(というより日本人)の課題があるということなのだろう。
*3:これに対し、4年間一貫してアンチ・ジーコを貫き通したのが、“トルシエ与党”だったフランス通・田村修一氏。Numberのライターにもいろいろな方がいるが、旗幟を鮮明にして一貫した論評をされている方にはやはり好感が持てるし、読んでいて気持ちが良い(時に自分の意見に反しようが・・・)。
*5:北澤豪=武智幸徳=杉山茂樹「座談会・W杯後遺症につける薬。」の中の杉山氏発言(91頁)。
*7:上記Number誌にも、もちろん記事を載せられているし(「指揮官オシムの証明」同誌28頁、「智将を知るための5つのエピソード。」同誌42頁。)、つい先日まで日経の夕刊にも連載コラムを掲載されていた。
*8:どんなに真実に対して真摯に向き合うジャーナリストでも、長年密着して取材をしていれば、情が移るものだろうから・・・。
*9:あくまで「世界に誇るべき偉大な名監督だ。」という言葉に続けての発言であるが(32頁)。