先週発売のNumberで、昨年引退した清原和博選手の特集が組まれているのだが、これがなかなか凄い。
金子達仁氏による本人への巻頭ロングインタビューに始まり、かつての指導者である、森祗晶監督、土井正博コーチ、“打撃の師”とされる落合博満監督の長いインタビューや、“清原キラー”で名を馳せた藪恵一投手をはじめとするかつての好敵手たちの日々を振り返るコメントなどを散りばめた上で、巨人FA移籍時のゴタゴタを語る当時の個人トレーナー・山尾伸一氏や、ケビン山崎氏、「FRIDAY」の担当編集者など、様々な角度から、「人間・清原」を描き出す。
そして、締めに桑田真澄投手の視点から描かれた石田雄太氏の記事と、伊集院静氏のショートエッセイ、をもって来る、なんとも豪華な構成である。
全85頁*1。
毎号何らかの特集を掲げているNumber誌でも、ここまで一つの特集に大きなウェイトをかけることはなかなかないのであって*2、それだけ、この国のプロスポーツを愛する人々にとって「清原和博選手の存在感」は大きかった、ということだろうと思う。
Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2009年 1/22号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/01/09
- メディア: 雑誌
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もちろん、引退の時に寄せられるコメントだから、いかに辛口な同誌の記事といえども、ある程度は割り引いて読まないといけないだろう。
「時代を彩った豪放磊落な野球人」(永谷脩氏のコラム)
という形容詞が褒め言葉になる、ということ自体、清原選手が既に“過去の人”になってしまった証に他ならないような気もする。
「ジャイアンツの野球に入った瞬間、衝撃を受けたんですよ。“こんなんでええんか”って。練習内容ひとつとってもそう。西武で11年間やってきた強い野球、勝つ野球とはまるで違ってたんで。でも、おかしいなとは思いつつも、自分も入ったばかりですから流されていってしまった部分があった。で、負けたとしても、長嶋さんに泥をかぶせるようなことを言う人はいない。」
「西武というチームは、それぞれが自分の役割をわかっていたんです。ジャイアンツはそこが違った。寄せ集めのチームですから、みんなそれぞれの個人競技ですよ。」
〜金子達仁の本人インタビュー「心に空いた穴。」17頁
という清原選手の率直なコメントには正直驚かされたが*3、この点については、
「清原さんは言葉に出せる立場じゃないから口に出さなかったと思うんですが、自分の中では、それまでやってきた野球とのギャップがあったはずです。そんなギャップがどんどん大きくなっていって、結局は孤独ですよ。」
〜山尾伸一氏のコメント(文・渡辺勘郎)50頁
という裏づけもあるし、森祗晶・元西武監督も
「巨人で苦悩している頃、監督と話せないのか?と聞いたんです。すると『チャンスがないんです。1年に一、二度しか言葉を交わしたことがない』と。長嶋監督相手に選手の方から相談を持ってくのは、よほどのことがないと難しいんですよ。」
「マスコミを通じて使い物にならないと騒ぎ立てて球界の功労者を紙屑のごとく扱うなんて・・・清原は、あんなことをされる選手じゃない。(略)巨人は球界を代表する選手のプライドをズタズタにしてしまったんですよ」
(28-29頁)
とコメントするくらいだから、「長嶋巨人」の体質はそれだけ酷かった、ということなのだろう*4。
もっとも、清原和博選手が、仮に西武ライオンズにい続けたとしても、2122安打、525本塁打といった生涯成績を上回る数字を残せた保証はないし*5、何より、引退興行で涙するような熱狂的なファンを、あれほどまでに引き付けることができただろうか?
人生には明と暗が裏表でついてくる。
そして、最良と思った選択が人生を狂わせることもあれば、最悪と思われたエピソードが、後の人生で役立つこともある。
PL学園時代から今に至るまで、ブラウン管の向こう側で、驚嘆され、称賛され、批判され、非難され、同情され、そして最後は涙で送られるところまで・・・
“ちょっと後ろの世代”に属する自分にとって、ずっと見てきた清原選手の姿は、まさに格好の“教材”というべきものであった*6。
「いまは日常生活にも支障が出ている」(膝の手術の影響)
という状態の清原選手の姿を我々が見ることができるのは、もう少し先のことになるのかもしれないが、これだけ注目されてきた選手のこと。近いうちに当然「次」の話も出てくるはずだ。
そして、この四半世紀の間に、最大級の成功と挫折を味わった元・選手のこれからの生き方の中にも、学ぶべきことはたくさんあるように思うのである。
*1:この号の総ページ数は118ページだから7割以上が“清原”一色に占められていることになる。
*2:中田英寿選手や野茂英雄選手のように、引退時に別冊が発行されるような超越的先駆者は別として。
*3:関西ローカル番組ではなく、「全国発売される雑誌」での発言だけに。
*4:それは他球団に移籍した別の選手もNumber誌のインタビューで証言していたような気がする。巷では、清原のガラの悪さが(巨人)ファン離れを招いた、という声もあるが、実態は逆で、球界一のスター選手をまともに使いこなすことすらできない指導力なき采配とその元凶にある理念なき編成、そして球団を私物化するオーナーと放送局に対して、ファンが愛想を付かした、というのが本当のところだろう。
*5:西武在籍時も、森監督が退任して以降の最後の2年ほどは、負傷もあって全盛期の姿からは遠かったように思う。堤オーナーが引責辞任した時点で、西武での彼の人生も暗転していた、という見方はうがちすぎだろうか。
*6:プロ野球選手のライフサイクルに合わせて考えるなら、自分なんかまだ一軍のベンチに常時入れるようになったばかりの3,4年目の選手、といった程度のポジションでしかないのだが。