“美学”の最終型

サッカーの神とタコを味方につけ、結局はスペインが1-0でオランダを下したW杯決勝。


延長後半11分、勝負を決めたイニエスタの一撃と、そこに至るまでの自陣からの美しいつなぎ(特にセスク・ファブレガス!)は、スペインを「W杯王者」とするにふさわしいものだった。


攻撃の切り札的存在だったフェルナンド・トーレスが大会丸々通じて機能しない状態でも*1、ビジャが1枚で凌ぎ切り、さらに今大会サブに回っていたセスクやヘスス・ナバスが一番大事な試合で驚異的な冴えを見せる・・・*2


高い技術と統一されたコンセプトを持った攻撃陣の選手たちをこれだけ分厚く抱えて、しかもカシージャスとCFプジョル、ピケを中心とした盤石な守備(決勝トーナメントに入って以降の失点は「0」!)を擁していれば他のチームがつけいる余地はほとんどないわけで、攻めあぐねてサポーターを冷や冷やさせても「最後は1-0」という結果で終えることができたのは、ある意味必然だったのかもしれない。


もっとも、いろいろな批判はあろうが、個人的には、オランダの戦いぶりもファイナリストの名に恥じないものだったと思う。


組織的な守備能力、カウンター能力ではドイツに劣り、DF陣のテクニックや嫌らしさではパラグアイポルトガルといったあたりにすら及ばない。・・・にもかかわらず、体を張った執念の守備で、スペインに自分たちのサッカーをさせず、116分間、あの決勝ゴールの瞬間までとことん苦しめた。


「攻撃こそ最大の防御」とばかりに6割近いボール保持率を保ち続けるスペインに対し、「攻める(削る)防御」とロッベンの超個人技で何度となくチャンスを演出したオランダの凄みは長く記憶にとどめられるべきだろう*3


目立たずに相手の攻撃の芽を摘み取ることに専念するスナイデル、というのも、今年のCL決勝のインテルを彷彿させるものがあってかなり不気味ではあった。


途中出場したエリア選手がもう少し無謀な突撃を自重していれば*4、そして、ロッベンが2度の決定的な1対1のシーンのどちらか一つでも決めていれば(というか、スペインのゴールを守っていたのが冷静沈着なカシージャス主将でなければ)、もしかしたら自分の予想通りの結果に収まっていた可能性もないとは言えなかったのではないか・・・と今さらながらに思っている*5



最終的には“華麗なパスサッカー”を貫いたスペインが、プライドをかなぐり捨てて相手の良さを消そうとかかってきたオランダを下して勝利を掴む、という結果となった。


だが、これは「美学を(愚直に)貫いた者が勝った」という単純な話ではないように思う。


美しいパスサッカーというコンセプトを引き継ぎながらも、最後の最後で微妙な修正を施し*6、それによって勝利を掴んだのがスペイン。そして、そんな完成型を引き出したのがオランダ。


勝った方にも、負けた方にもそれぞれの美学があり、それがぶつかり合う中で、僅かに融通性に勝ったチームが勝った。


そんなふうに自分は受け止めている。


そしてこの試合は、間違いなく、今大会一の名勝負であった*7

*1:勝戦でもゴールシーン直前の長いパス以外に、ゴールに絡むようなシーンは皆無だった。

*2:延長戦に入ってからのセスクは、試合を完全に支配していたし、ヘスス・ナバスのサイドを切り裂くドリブルは、マンネリ化しがちなスペインの攻撃にとっては最高のアクセントだった。

*3:残念なことに、イエローカード10枚、1人退場という状態になってしまったがゆえに、“ラフプレーのオランダ”と記憶される可能性もあるが、正直この日のファイルの取り方やカードの出し方には、なぜ・・・?というところが多分にあったように思う(出だしからちょっと厳しめにカードを出し始めたが故に、終盤では収拾が付かなくなっていたような気が・・・)。

*4:かなりチャンスを潰した上に、最後はボールを奪われたことが致命的な失点に直結することになってしまった。

*5:まぁ、これは、いわゆる“負け惜しみ”の類の感想に過ぎないのだが・・・。

*6:それが端的に現れていたのが後半15分のペドロに代わるヘスス・ナバス選手の投入だったと思う。

*7:なお、スナイデルもビジャもノーゴールに終わったことで、結局得点王争いに決着が付くことはなかったが、今大会の象徴的な選手が得点王に4人並んで、しかもMVPがその中で一番報われなかった(戦績的には)フォルラン選手になった、というのは、個人的には良い決着だったのではないかと思っているところである。

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