冷淡な“コメント”に思うこと、その他。

「過去最悪の合格率」という見出しが躍った今年の司法修習生の修了考試。


一例として、日経紙の記事を紹介すると、

最高裁は24日、司法修習を終える223人の修習生を対象に7月に実施された卒業試験(考試)で、28人が不合格となったと発表した。受験者数に対する不合格者の割合は12.6%で、過去最高となった。」(日本経済新聞2010年8月25日付朝刊・第38面)

といった感じである。


本来であれば、2008年の旧試験合格→研修所入所者が対象となる今回の修了考試だが、実際には、過去に不合格となった再受験組が75人もいて*1、初受験組は223人のうち148人に過ぎない。


そして、不合格者の内訳は、再受験組16人、初受験組12人、ということだから*2、「28名」「12.6%」という数字をひとくくりで捉えるのは、ちょっとミスリードだと思うのだが、初受験組に限っても不合格率8%、となれば、やはり決して穏やかな結果ではない。


そんな中、気になるのは、「最高裁」のものとして出されている以下のようなコメント。

「真に法曹に求められる資質や能力を測った結果」(前記・日経新聞
「特に基準を変えたわけではない。真に法曹として求められる資質や能力を有しているか確認した結果だ」(asahi.com)

「能力の低い修習生が増えたから不合格者が増えただけだ。バーカ。」と薄ら笑う声がバックから聞こえてきそうなコメントだが、本当にそんな風に言ってしまって良いのかどうか。


秘密主義で知られる最高裁が主宰する試験だけあって、この試験においては、司法試験のように問題や出題趣旨が一般に公表されることはない。もちろん、今回もだ。


そして、そのあたりが何ら公開されることがない以上、「合否判定基準」が変わっていないかどうかの客観的な検証をすることはできないし*3、その基準が「真に法曹に求められる資質や能力」を測るものとして妥当なものかどうか、ということになると、全くもって検証不可能である。


ゆえに、当局が、試験に関する一切の情報を秘匿したまま、「真に法曹に求められる資質や能力」というマジックワードに包んで、政策的・意図的に不合格率を上げている可能性も捨て去ることは全くできないわけで、にもかかわらず、上記のような、取りつく島のないコメントを冷淡に出してしまう当局担当者のセンスに、自分は重大な疑念を持っている*4




なお、上記のようなコメントは、勝ち抜いた者にとっては心地よいコメント、なのかもしれない*5


だが、だからといって、選別のプロセスに疑義を感じつつ、自分が生き残れたからいいや、という発想で口を閉ざすことは、法曹として生きていこうとする人間としては、決して許されない、と自分は思う*6


そして、固定観念に凝り固まった“古い”実務家ではなく、まさに揺れ動くプロセスをくぐり抜けてきた世代の人々が声を上げなければ、今後迎え入れる後輩たちのために、真により良いシステムを築いていくことなど不可能だろう。


内側から声を上げ、これまで“モデル”として無邪気に信奉されてきた、司法研修所中心の法曹養成システム全体の矛盾を世の中に向けてアピールしていく、そんな掟破りの奔放さこそが、混乱の中生み出されている、新しい世代の法曹たちに求められているものではないだろうか*7


まぁ、この話をしだすと長くなりそうだから、今日はこの辺で留めておくことにしようとは思うけど・・・

*1:新試験合格組対象の近年の修了考試の大虐殺ぶりを考えると、さもありなん・・・だろう。

*2:以上、http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010082401000946.html参照。したがって、このような事情を鑑みると、あたかも「旧63期」修習生が28名不合格になったかのように伝える朝日新聞の記事(http://www.asahi.com/national/update/0824/TKY201008240451.html)は、限りなく誤報に近いと言わざるを得ない。

*3:“犠牲者”の数も率も遥かに少なかった時代と、今とを比較したとき、受験者の「質」以前に「基準」が変わったのだろう、と考えるのが、至極常識的な発想だと思うのだが、そういう発想が出てこない(むしろ「質の低下」という方向に一方的に攻撃の刃が向いてしまう)ところに、この業界の本質的な問題が潜んでいるように思えてならない。

*4:もちろんこの点については、コメントを出す側だけではなく、コメントの裏も読まずに垂れ流すメディア側の責任も大きいのだが。

*5:だって、裏返して読めば、自分たちに「資質や能力が一応ある」ってことになるわけだから(苦笑)。

*6:これは二回試験の話に限ったことではなく、司法試験そのものにしても、司法修習システムそのものについても、同じことが言えるはずだ。

*7:もちろん、今のシステムが素晴らしい、と心から思うのであれば、それはそれで尊重されるべき考え方だとは思うのだが。

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