予備試験組が示した法科大学院の“成果”

今年もやってきた、新司法試験*1の合格発表。

新聞紙上では、相変わらず派手に取り上げられているものの、既に8回目、ということもあり、関係者が受験している人を除けば、結果を見て驚いたり、一喜一憂したり・・・ということも、ほとんどなかったのではなかろうか。

法務省は10日、2013年の司法試験に2049人が合格したと発表した。昨年より53人減。受験者が減った影響などで、合格率は26.8%と前年より1.7ポイント上昇した。法科大学院を修了しなくても受験資格が得られる「予備試験」経由では120人が合格。合格率は7割を超え、平均を大きく上回った。」(日本経済新聞2013年9月11日付け朝刊・第38面)

そもそも、去年に比べて全体の1割近い734人も受験者が減少していることに加え、法曹養成制度の見直し議論の中で、当局が「3000人」という数値目標からようやく解放された、ということもあって合格者数は減少したものの、合格率は、20%台後半という安定したラインをキープ。

合格率の上位校の顔ぶれは、例年とほとんど変わりなく、強いて言えば上位校の中の序列が多少動いたくらい*2

「35校では合格者が1桁で、神戸学院、東海、姫路独協の3校はゼロ」
「100人超が合格した上位5校と予備試験を合わせると、合格者全体のほぼ半数を占め、二極化が鮮明になっている」

というニュースも、特段驚くべきことではない。

既に、法科大学院が設立されてから10年近くが経過し、“どんなロースクールだろうが、地力で合格してやる”という根性と執念を発揮していた旧試組の人材も底をついた*3

そうなれば、おとなしく学部から進学した人々が、学部偏差値の序列どおりに「上位ロー」に振り分けられ、序列どおりの結果となる・・・ということは自明の理、である。

「司法試験の結果を受け、文部科学省は10日、合格率などが低迷した法科大学院18校に対する2014年度の補助金を削減する方針を決めた。国立は鹿児島大と島根大の2校。新たに入学定員の充足率なども削減条件にして基準を厳格化したため、13年度の4校から大幅に増加した。」(同上)

過去問も含めて、勉強するための材料は巷にいくらでもあふれているし、どんな教師にどんな教育を受けようが、勉強するのは自分、試験会場で勝負するのも自分。

ゆえに、法科大学院における教育内容の“質”と、“合格率”との間には、本来、大した因果関係などない、と自分は思っているし、“合格率の低迷”を理由に補助金を削減する、というのは、厳密な意味で理屈の立つ話ではないと思う。

ただ、「法科大学院」という業界のパイがこれだけ縮小してしまった以上、学校が乱立する現在の体制を維持し続けるのが難しいのも確かで、素質のある学生を集めるだけのブランド力がない学校に対し、「増員した教員の人件費を削減する」という兵糧攻めをすることで撤退を促す、というのは、今の現実を考えるとやむを得ないことなのだろう、と思う。

予備試験組の明暗

さて、今回の試験では「予備試験組」が120人合格、しかも合格率71.86%、という高い数字を叩きだしたことで、「法科大学院教育を前提とした司法制度改革の理念に逆行するとの懸念」が出ていることが報じられている。

確かに予備試験ルートの合格者の内訳*4をみると、昨年*5以上に、極端な結果になっていることが見て取れる。

20〜24歳 受験者66名 最終合格者64名
25〜29歳 受験者10名 最終合格者8名
30〜34歳 受験者25名 最終合格者20名
35〜39歳 受験者31名 最終合格者18名
40〜49歳 受験者26名 最終合格者10名
50〜 歳 受験者9名  最終合格者0名

大学生      受験者41名 最終合格者40名
法科大学院生   受験者37名 最終合格者34名
無職・その他   受験者40名 最終合格者21名
法律事務所事務員 受験者6名  最終合格者5名
公務員、会社員等 受験者43名 最終合格者20名

驚異的な20代、30代前半&大学生、法科大学院生属性の受験者の合格率の高さと、それと対照的な、35歳以上&一般社会人の苦戦ぶり。

昨年から既に同様の傾向がみられていたとはいえ*6、今年はより極端な結果となってしまった。

2年続けてピークを試験に合わせることの難しさ、ゆえなのか*7、それとも他の理由ゆえなのか、は分からないが、同じ合格率数パーセントの関門をパスしているにもかかわらず、この結果となってしまっていることについて、残念な思いはある。

ただ、その一方で、見方を変えれば、この事実は、法科大学院→新司法試験、というルートが依然として機能している、ということの裏返し、とみることもできるのではなかろうか。

特に、以下の「最終学歴別」の予備試験合格者のデータを見ると、その傾向はより鮮明になる。

大学卒業     受験者63名 最終合格者26名
大学在学中    受験者42名 最終合格者41名
大学中退     受験者1名  最終合格者1名
法科大学院修了  受験者14名 最終合格者11名
法科大学院在学中 受験者35名 最終合格者33名
法科大学院中退  受験者5名  最終合格者2名
その他大学院修了 受験者7名  最終合格者6名

「大学在学中」の41名、というのは、この際放っておこう(笑)。
どんな世界にも、様々な事情で先を急ぐ(急がねばならない)人間はいるし、そういうプレッシャーの下で輝く早熟な才能もある。

それよりも、法科大学院修了及び在学中のステータスの合格者が44名いて、しかもその合格率が90%近い(一方、法科大学院を経験していない大卒者の合格率は40%台前半に過ぎない)、という事実に、もう少し目を向けても良いのではないだろうか。

要は、法科大学院在学中の受験生の合格率の高さは、本来の受験時期よりも1年、2年早く合格ラインに辿り着けるような優秀な学生が、まだ法科大学院に行く、というルートを選択していることの証明だと言えるし、非修了者と比較しての法科大学院修了者の合格率の高さは(過去に受験した、というアドバンテージがあるとしても)、独学で積み上げてきた人間よりは、法科大学院ルートで教育を受けた方が、同レベルの人間同士の争いの中では優位に立てる、ということの現れ、とみることもできる*8、ということである。

意地悪な見方をすれば、今は単なる過渡期で、いずれは、今、法科大学院在学中に予備試験ルートで合格している層は、皆、「大学在学中」の合格者層に移行してしまう・・・という可能性も捨てきれないのだけれど*9、どんなに批判を浴びていても、今、法曹資格を得るための一番の近道が、「法科大学院に行くこと」だ、という現実は厳然と存在しているのであって、予備試験ルートにおいてさえも、それが証明されている、ということに、関係者はもっと誇りを持つべきなのではなかろうか。


もちろん、最後のは、今の予備試験のあり方に対する皮肉、のつもりではあるのだけれど・・・。

*1:既に「旧試験」は過去のものとなり、法務省の公式発表からもとっくに「新」の文字は消えているのだが、何となく感覚的に「新」を付けた方がしっくりくるので、今年もこの表記のままにしておく。

*2:合格者数で首位争いの常連(前年も首位)だった中大が4位に落ち、代わって慶大が首位浮上。しかも合格者数だけでなく、合格率でも東大を抑える、というある種の快挙を成し遂げた(優秀な東大学部生の法曹志望者の多くが予備試験に流れている、という事情が影響している面は大きいと思うけど)。さらに、法科大学院の理想を体現すべく“未修中心主義”をとっていたがゆえに長年伸び悩んでいた早稲田が、ようやくベスト3に食い込んできた、というのも関係者にとっては大きなニュースなのかもしれない。

*3:数少ない生き残り組は、予備試験ルートで捲土重来を狙っているものと思われる。

*4:http://www.moj.go.jp/content/000114387.pdf

*5:http://www.moj.go.jp/content/000101958.pdf

*6:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120924/1349023209

*7:そもそも、普通の社会人にとっては、11月の予備試験の最終合格発表から翌年の新司法試験までの間に、選択科目も含めた試験科目全てに目配りした勉強を完成させることは、時間的にかなり難しいのではないかと思う。

*8:もちろん、年齢や職業の属性と掛け合わせた上で分析しないと、なかなか本当の姿、というのは見えてこないのだけど・・・。

*9:とはいえ、かつて旧試験時代に、学部3年、4年で合格していた人間がどれだけいたか、ということを考えると、そんなに極端にこの部分のボリュームが増えることは、ちょっと考えにくいのかなぁ・・・と思うところ。司法試験バブル時代のように、5年生、6年生が当たり前、という時代になれば、ここがボリュームゾーンになることも考えられなくはないけど。

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