「予備試験」が示す法曹人気の底堅さ。

新司法試験まっただ中の土曜日、「制度開始3回目」となる予備試験のニュースが新聞紙面を飾った。

法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる『予備試験』に、法曹志望者が殺到している。制度開始3年目となる今年の受験者数は、7183人だった昨年から大幅に増加する見通しで、司法試験本体(速報値で7653人)を初めて上回る可能性が高い。試験が19日から始まる中、法曹志望者の法科大学院離れの傾向が顕著となった。」(日本経済新聞2013年5月18日付け朝刊・第39面)

記事をじっくり読むと、いろいろおかしな取り上げられ方になっているところがあって、上に引用した部分にしても、

「予備試験の受験者数と司法試験の受験者数」

という、比べてはいけないものを比べている、という点で、冒頭からいきなり突っ込みたくなる。

「予備試験」というのは、あくまで(新)司法試験を受験するための“予選会”に過ぎず、短答、論文、口述、という、かつての司法試験と同じノリの過酷な戦いをいくら乗り切っても、直ちに司法修習に入れるわけではない。
そして、予選会の出場者が本選の出場者より多い、というのは、ある意味当たり前の話に過ぎず、比べるのであれば、司法試験受験資格を得るための前段階である「法科大学院受験者数」と比べなければ意味がない*1

記事の本文に移っても、

「人気が過熱したのは、予備試験通過者の昨年の司法試験合格率が68%と、法科大学院平均の25%を大幅に上回ったことなどがきっかけだ。」

などと書かれているのだが、そりゃあ、3段階の関門を潜り抜け、競争率約8倍の法律試験の難関を突破してきた人々が、(一部の大学を除き)事実上“無試験入学”に近い状態になりつつある法科大学院出身の受験生とまともに戦えば、7割近い合格率になるのは、誰にでも分かること*2、というか、最初から分かっていたことで、受験者が増えた理由はそんなところにはないと思う。

法科大学院に行っても司法試験の合格率は長らく低迷していることに変わりはないから、それなら別ルートで腕試ししてみてあわよくば、という学部生や社会人が増えた、というのもあるだろうし、それ以上に決定的だったのは、「司法修習給費制」の廃止により、「法科大学院に行き、修了してから修習を終えるまでの4〜5年近くの間、収入を得られなくなってしまった」ことなのではないか、と自分は思うところ。

今は、かつてのように、修習に入った時点で、自分が食べていくには困らない程度の“給料”をいただけたような幸福な時代(しかも蓄積した頭の疲れをのんびり癒せたような時代)ではもはやないわけで、それなら法科大学院に行く期間を少しでも節約して、その先に備えよう、という発想は、誰しも理解できるところではなかろうか*3


記事にもあるとおり、この点については、

「本来の趣旨とは異なる状況が生じている」(政府法曹養成制度検討会議の中間提言)

といった批判が、法科大学院側の人々からパラパラと出てきているところで、「最短ルート」と煽る司法試験予備校の存在や、「大手事務所は、予備試験合格者を優先的に採用している」といった、“ほとんどの人には本当かどうか検証することが困難な噂”が学生たちの中に出回っている、といった事実が、かつての“(旧)司法試験バブル”と似たような病理現象を予感させるのも確かだ。

だが、“バブル時代”の受験生が皆、「少しでも早く合格して、バラ色の人生を!」という夢を見ていたのと同じで*4、たとえ、経済的には何ら不自由していない(法科大学院の学費くらいなら実家が優に負担できる)環境にある者であったとしても、

「少しでも早く、司法試験の壁を突破して、法曹としてのスタートラインに立ちたい」

という思いにどうしても駆り立てられてしまう、20代前半の若者の情熱を一体だれが止められようか。

そして、法科大学院の門を叩く者が年々減少の一途をたどり、最近では「廃校」といった暗いニュースしか出てこない & 修習に行ったら行ったで、やれ就職難だなんだ、という後ろ向きな話しか出てこない近年のこの業界において、「法曹」を目指す受験者が、これだけのペースで年々増えていっている、という事実は、この業界における数少ない、明るい話題ではないか、と個人的には思うところである。

たとえ、それが制度設計者が描いた「絵」と、多少異なっていたとしても・・・

*1:こちらの数字は、複数の学校を受験する人などもいて、なかなか正確なところが把握しづらいのだが、法科大学院受験に際しての必須プロセスである適性試験の受検者数を見れば、大体のところは分かる。その結果・・・ http://www.jlf.or.jp/jlsat/pdf/20130517_shigansha.pdf 既に公表されている第1回と第2回を合計しても、10,000人に満たない。実際には2回ともエントリーしている人が多いだろうから、後は推して知るべし・・・である。

*2:個人的には、むしろ30%以上も不合格になった人がいる、という方が不思議だ。

*3:そして、そう考えると、たとえ受験しているのが学部の若手であろうが、現役の法科大学院生であろうが、「法科大学院に行くのが困難な人を救済する」という予備試験の制度趣旨からは、そんなに外れていない、ということができるような気がする。個人的には、予備試験の枠は、日々仕事に追われていて、法科大学院なんて行ってられねえよ、っていう、社会人のために取っておいてあげてほしいなぁ、と思っているし、既に法科大学院に入学して、勉強に打ち込む環境が与えられている学生であれば、余計な“脇道”に目を取られずに、今いる環境を最大限生かすことを考えた方が有益なのになぁ・・・と思うのであるが。

*4:もちろん、「バラ色」の中身が、純粋な自己の経済的満足のみを指しているのか、あるいは、「自分が憧れていた仕事、世の中のためになる仕事をしたい」といった精神的満足を含むものか等々、個人差は大きかったが、「早く合格することこそが成功」という価値観は、ほとんどの人が共有していたんじゃないかと思う。ちなみに自分は受験生年齢的には、司法試験バブル後の世代だったので、その辺はイマイチ分からないところはある。

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