公取委の困惑が透けて見えるような・・・

元々そんなに大きな問題になるとは思えない中身なのに、なぜか日経紙を中心に外野が盛り上がってしまった、ヤフー・グーグル提携問題。

これまでの経緯については、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100729/1280900592
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100816/1282146297
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101020/1287844763
などもご参照いただければ、と思うのだが、ここに来て、これまで表向きには沈黙を保ってきた公取委が遂に重い口を開いたようだ。

「米グーグルが日本のヤフーにインターネットの検索エンジンや広告システムを提供する提携について、公正取引委員会は2日、現時点で独占禁止法上の問題はないとの調査報告を発表した。」(日本経済新聞2010年12月3日付朝刊・第9面)

公取委のプレスリリースは↓
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/10.december/10120202.pdf

記事でも紹介されているが、公取委のスタンスは、

「本件技術提供は,ヤフー株式会社が、(米ヤフー社から検索エンジン技術の提供を受けられなくなったため)検索エンジン等のユーザーとして,米グーグル社の検索エンジン等を自社に最適なものとして選択するものであり,また,本件技術提供の実施後も,インターネット検索サービス及び検索連動型広告に係る相談者間の競争は引き続き行われるものであるので,直ちに独占禁止法上問題とはならない。」

というものであり、少なくとも今回当事者が公表している情報からすれば、これが至極妥当な判断であると思われる。

公取委としては、マイクロソフトやら楽天やら日経新聞やらがあまりにうるさく騒ぎたてるものだから、

「俺らもちゃんと調査してるんだぞ、ごらぁ!」

というのをアピールする必要に迫られたのだろうが、正直技術提供に関する契約書の内容にまで踏み込んだ「調査結果」を発表するのはそれなりに勇気がいっただろうし、関係者にとっては迷惑な話だっただろう。


当の日経新聞は、まだ納得がいっていないようで、記事の中で、

「国内の検索サービスではグーグルが約9割のシェアを握り、独走態勢が一段と強固になる。成長市場のネット分野で、技術革新による競争のダイナミズムを保てるか、今後の課題となりそうだ」
「注目すべきは、もう一段深いところにある。検索技術の革新の担い手としてグーグルが圧倒的な存在になるということだ」

などと、今回の「提携」があたかも業界の“脅威”となるかのような喧伝をしているのだが、そもそも

「検索サービスでグーグルが約9割のシェアを握る」

という表現自体が、明らかにおかしい*1

検索サービスにしても、検索連動型広告サービスにしても、サービス自体が各事業者のオリジナルで行われる、ということは最初から言われているわけで、日経紙の論調は、独禁法の議論をするうえでの大前提となる「市場画定」という作業を全く捨象してなされた、感情的に過ぎるものと言わざるを得ない。

用いている“部品”が共通していたとしても、最終的に提供される“製品”に至るまでの過程で、各社が協調行動を取ることなく、それぞれのオリジナリティを発揮した味付けを施しているのであれば、そこで十分な競争は成り立ちうる、と自分は思っているし、公取委もそう判断したゆえに、今回のような発表に至ったのだと思う*2


なお、公取委も外野の声に少し遠慮したのか、

「既存の相談・申告の窓口に加え,本件技術提供に関する情報を専門に受け付けるメールアドレス(kensakukoukoku@jftc.go.jp)を設け,今後とも,積極的に情報収集を行う。」

という興味深い対応を行っているが、筆者としては、公取委のせっかくの好意が、一部の論者たちの“青年の主張”のはけ口にならないことを願うのみである。

*1:公取委の発表を前提にするなら、「提携」という表現自体がミスリードとなる要素をはらんでいるのだが・・・。

*2:逆に、日経紙の理屈を推し進めるなら、米ヤフーからの技術提供を打ち切られた日本のヤフーは、自分で頑張ってオリジナルな検索技術を一から開発するか、それとも使い勝手の悪い検索技術をあえて選択するか、という決断を迫られることになるが、それが常識に照らしてまともな議論なのかどうか、ちょっと頭を冷やして考えてみる必要があるだろう。

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