まねき・ロクラク時代の終わり。

あの衝撃の最高裁判決から2年。
とうとう、時代の終わりを告げるニュースが、朝刊の片隅にひっそり掲載された。

「インターネット経由で日本のテレビ番組を海外などに転送するサービスは著作権侵害に当たるとして、NHKや在京の民放各社などが業者2社にサービス差し止めと損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は14日までに、2社の上告を退ける決定をした。サービス差し止めと賠償を命じた差し戻し控訴審判決が確定した。決定は13日付。」(日本経済新聞2013年2月15日付け朝刊・第38面)

当ブログの読者の皆様には、改めて説明するまでもないかもしれない、永野商店の「まねきTV」と、日本デジタル家電の「ロクラク2」。

平成18年8月4日、東京地裁で、高部眞規子裁判長が、「まねきTV」に対する放送局側の差し止め仮処分命令の申立てを却下する決定を下した時から、著作権法の世界のパラダイムを大きく揺るがすような、激しい論争が沸き起こり、それは、舞台が仮処分事件から本訴に移行し、地裁から高裁、そして、事実上の最終決着となった平成23年最高裁判決が出された後もしばらくは続いた。

当ブログのアーカイブをざっと追ってみる。

平成18年8月26日付/「まねきTV」事件決定
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060826/1156554700
平成18年12月22日付/ まねきTV事件高裁決定
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061222/1166810188
平成18年12月25日付 /続・まねきTV事件高裁決定
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061222/1166810188
平成19年4月7日付 /何が明暗を分けたのか。(ロクラク地裁決定)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070407/1176050387
平成20年5月29日付 /ロクラク事件・第2ラウンド決着
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080529/1212189581
平成20年6月21日付 /「まねきTV」三度目の勝利
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080621/1214068161
平成20年12月16日付 /「まねきTV」4連勝。
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20081216/1229446298
平成20年12月22日付 /“ロケーションフリー”サービスをめぐる判断のギャップ
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20081222/1230031960
平成21年1月28日付 / ついに潮目が変わったか?
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090128/1233165123
平成21年2月26日付 / 見方を変えれば結論も変わる
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090226/1240120292
平成22年10月27日付 /再び風向きは変わるのか?〜「まねきTV」事件最高裁弁論へ
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101027/1289228101
平成23年1月18日付 /まさかのちゃぶ台返し〜「まねきTV」最高裁判決(予告編?)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110118/1295458931
平成23年1月20日付 / 暗い影
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110120/1295563559
平成23年1月21日付 /「大局的判断」かそれとも素人的発想か?(前編)〜まねきTV事件最高裁判決〜
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110121/1295756295
平成23年1月24日付 /「大局的判断」かそれとも素人的発想か?(後編)〜ロクラク2事件最高裁判決〜
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110124/1295795815

これだけ見ても、この2つの事件が、季節の風物詩のように、毎年一度はデジタル・ネットワーク時代の著作権について考える機会を与えてくれるものであったことが良く分かるだろう。

「まねきTV」事件における、度重なるサービス事業者側の“勝利”は、「録画ネット」「選撮見録」と、ユーザーフレンドリーなテレビ番組視聴・録画サービスが、放送局&カラオケ法理の前に敗れ続けていた時代に一石を投じ、著作権著作隣接権の縛りがかかる中でも“知恵”を絞れば、新しいサービスを提供することが可能なんじゃないか? という希望を、自由を志向する多くの人々に与えた。

また、「ロクラク2」事件が知財高裁でまさかの大逆転を見せた時は(サービス事業者側勝訴)、司法の世界でも価値判断が変わったのでは・・・? と、思った人は、決して少なくなかったはず。

だが、結果としては、知財高裁(第1ラウンド)では勝利を収めた事業者たちも、最高裁で苦渋を舐め、差戻し審、差戻し上告審を経て、結果的に敗訴確定の憂き目にあった。

ロクラク知財高裁(第2ラウンド)で、飯村コートが、極めて評判の悪かった「枢要な行為」規範を用いない*1というささやかな抵抗を見せたものの、上告審判決、という“巨石”は何とも動かし難く・・・。

長い戦いの間に時は流れ、最高裁判決が出されたころには、既に「“グレーゾーン”を果敢に攻めることが称賛の対象となっていた時代」ではもはやなくなっていた。

汎用製品を使った純粋なプレイスシフトに過ぎない「まねきTV」のみならず、「複製」という過程を経る「ロクラク2」まで、事業者を勝たせてしまった知財高裁(第1ラウンド)判決のエキセントリックさが、エスタブリッシュな権利者の闘志に火を付け、伝統格式を重んじる最高裁の義侠心(?)を呼び覚ましてしまった、という一面も、もしかしたらあるのかもしれない。

いずれにせよ、残されたのは、「放送局がダメといったものはダメ」という結果だけだ。

でも、その結果だけを見て、約7年にわたるサービス事業者たち(とその代理人の先生方)の一連の戦いに全く意味がなかった、と思い込むのは早計だと思う。

法制問題小委の下で、長らく寝かしつけられている「間接侵害」規定は、未だ日の目を見る気配すら感じられないが、ユーザーの立場からこの規定の推進に動いている団体の発想の根底には、「まねき」&「ロクラク」の奇跡体験が深く残っている。

そして、決して全国に広く名前が知られていたとは言えない小さなベンチャー企業が、長い戦いの過程を通じて蒔いた種が、いつか次世代の挑戦的なビジネススキームに結び付き、時代を動かす時も、いつか来るのかもしれない・・・

そう考えると「まねき・ロクラク時代」が終焉を迎えたここから、が、著作権にとっての大事な時間となるはずで、まだまだ、こちらの世界からは目が離せないのではないかなぁ・・・

そう思った次第である。

*1:差戻し控訴審は、ロクラク2の運営事業者の複製主体性を認定するにあたり、「上記の複製への関与の内容,程度等の諸要素を総合するならば,(1)被告は,本件サービスを継続するに当たり,自ら,若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし,又はこれらと共同し,本件サービスに係る親機ロクラクを設置,管理しており,また,(2)被告は,その管理支配下において,テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて,本件サービスの利用者が,その録画の指示をすると,上記親機ロクラクにおいて,本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を継続的に作出しているということができる。したがって,本件対象サービスの提供者たる被告が,本件放送番組等の複製の主体であると解すべきである。」と、総合判断は行っているものの「枢要な行為」などというフレーズは一言も用いていない。知財高判平成24年1月31日(H23(ネ)第10011号)。