長らく場外で馬券すら買うことができなかった関東の競馬ファンにとって、待ちに待った“東京開催”が始まった。
本来の中山ではなく、府中に舞台を移して行われた皐月賞は*1、オルフェーヴルがゴール前でいい脚を使って豪快な勝ち方を見せ、父・ステイゴールド、兄・ドリームジャーニーのいずれも届かなかったクラシックを1冠目であっさり制覇する、というドラマチックな展開*2。
原発事故がこれ以上悪化しなければ(そして夏が来る前に電力不足で青息吐息にならなければ)、2冠目も同じ舞台で(しかもよりいい条件で)戦えるだけに、“春2冠”ムードの盛り上がりにも期待できるところだろう。
もっとも、インターネットで配信されたニュースを見ていて、ちょっと背筋が寒くなったのは、次のくだりである。
「昨年の皐月賞当日(2010年4月18日、第3回中山競馬第8日)と比較して、当レースの売得金こそ79.9%(全体で85.5%)と落ち込んだが、入場人員は119.0%・8万940名の大入りとなった。」
会場が、首都からは若干距離のある中山から府中に移れば(しかもそれが久々の関東圏開催となれば)入場者が増えるのは当たり前の話で、それにもかかわらず、約20%にも上る売り上げダウンが生じた、というのは由々しき問題だろう。
そして、この日が売上復活に向けた最後の切り札、ともいえる、「5重賞単勝式馬券」(WIN5)の発売開始日であったことは、売り上げダウンと全く無関係とは言えまい・・・。
「5重賞単勝式」は、確率は低いとはいえ、しっかり予想すれば決して手が届かない式別の馬券ではないし、現に「2億円」の鳴り物入りで導入されたにもかかわらず、第1回は的中が663票も出てしまっている(払い戻し金は約81万円)。
一口100円で、より高いリターンが期待できる馬券が入れば、玄人ファンが従来厚めに投下していた資金が薄くなる、というのは「3連単」でJRA自身も良く分かっていたはず。
しかも、どんなに難しい馬券でも“しっかり狙って取る”玄人ファンの存在は、これまで競馬に全く関心のなかった射幸心だけが強い人々が「2億円」の果実を得る上での「壁」となって立ちはだかるわけで、結果として「WIN5」自体が、失うものの大きさの割に新たな支持層開拓につながらない可能性は高い。
以前からこのことを指摘してきた識者は多かったにもかかわらず、結局導入を強行し、その結果、このような事態になってしまっている、というのは、何とも残念な気がする*3。
もちろん、個人的には、「競馬」と「宝くじ」は全く異なるものと思っているし、ランダムに数字だけコンピューターに並べさせた“馬券”を持って“天運のみ”に期待して待つような人々(そして、それが競馬だと思ってしまうような人々)が世の中の多数になっても困るので、今の売り方に異を唱えるつもりはないのだけれど、JRAにも、結果が伴わなければすぐに“新企画”を引っ込めるような柔軟さがないと、この先ちょっと苦労するかなぁ・・・というのが、率直な印象であった。