全てが凝縮された2020年最後の週末。

この週末は、カレンダー上では2020年最後の週末。そして、今年は、中央競馬の番組編成上も、この2日間が「最後」の日となった。

当たり前のように聞こえるが、ここ数年の暦では、有馬記念がかなり早いタイミングで開催され、その後に1日、「今年最後のGⅠ」と銘打たれて2歳戦のホープフルSの開催日が組まれる、というパターンも多かったから、有馬記念で1年を締める」という、オールドファンにとっては当然のミッションもなぜか新鮮に感じる。

さらに今年に関しては、そんな番組編成の都合もあって、土曜日に中山大障害ホープフルSの2本立て、翌日曜日に有馬記念、と2日でGⅠ(J・GⅠ含む)レースが3本、という豪華な週末となった。

今年の中央競馬界といえば、新型コロナの影響による「無観客」競馬突入のインパクトがあまりに強すぎて、うっかりすると他に何が起きたかをついつい忘れそうになってしまうのだが、2頭の3歳無敗三冠馬誕生、という歴史的事象もあったし、古馬GⅠを牝馬が席捲し続けるというこれまた後々語り草になりそうな年でもあった。

細かいことを言えば、2歳戦では新種牡馬ドゥラメンテ、モーリスがまずまずの結果を残して種牡馬の勢力図を塗り替えつつあるし、生産者界でも大レースになればなるほど、「ノーザンファーム1強」が揺らぎ始めているのを感じさせる出来事が多かった。

騎手も調教師もリーディング上位の顔ぶれだけ見れば、一見大きな変化はないように思えるが、騎手の方は、松山弘平騎手の100勝超えに4年目の横山武史騎手の大躍進で東西の勢力図が塗り替わりつつあり、その一方で吉田隼人騎手が17年目にして自己ベスト更新の91勝を挙げる、という嬉しい出来事もあったりした。調教師の世界でも三冠馬を擁する杉山晴紀厩舎の躍進には目覚ましいものがあった。

ということで、本来ならそんなあれこれの余韻に浸りつつ、じっくり観戦したいところではあったのだが、依然として残る年末進行モードの前ではそれもまた夢。

気が付けば特別戦の時間になり、「ながら」見をしているうちにあっという間にメイン、そして一日が終わる、という目まぐるしさの中で感じたこととしては・・・。

中山大障害は、3年続けて天下無双のオジュウチョウサンがいない、という状況の中で、本命視されていたメイショウダッサイが鞍上の森一馬騎手とともに悲願のJ・GⅠ初勝利を飾ったのだが、個人的には平地時代の走りを想起させるようなタガノエスプレッソの猛烈な追い込み(3着)がもっとも印象に残った*1

2連勝中の馬が5頭も馬柱に名を連ねたホープフルSでは、同じ無敗馬のオーソクレース、ヨーホーレイクとの戦いを制したダノンザキッドが前評判通りの強さを見せ、唯一の「無敗馬」として年を越す権利を得た*2のだが、この馬の父親はジャスタウェイ、2着のオーソクレースも父・エピファネイアで、ここにも種牡馬の勢力図が塗り替わるサインはくっきりと出ている*3

そしてやはり最後は有馬記念

1か月くらい前までは、クロノジェネシスで決まりだろう、と思っていたのに、珍しくメンバーが揃った馬柱を見て揺らいだ心は、他の馬に重い印を付け、気迷いを象徴するような買い目の多いベット策を、自分の回らない頭に強いた。

その結果どうなったか、ということは、あえてご披露するまでもないが*4、これだけ骨のあるタレントが揃っていた中で、フィエールマンとの叩き合いを制し、伏兵サラキアの強襲も着差以上に余裕をもって退けたクロノジェネシスの強さを身に染みてしったことで、来年以降の戦略を誤る可能性はもはやなくなった気もする。

長年高速化が指摘されてきた東京、中山の馬場は、意図的にそうしたのかどうかは分からないが、今年の秋の開催以降、実に重くてタイムの出づらい馬場となっており、それは勝ちタイムが6年ぶりの遅さとなったこのレースも同じ。

でも稍重のタフな馬場を制した宝塚記念に続き、今の中山の馬場で行われた有馬記念も見事に制したことで、長らく日本馬にとっては鬼門となっている「凱旋門賞」で欧州馬と渡り合える可能性を十分に示してくれた、ということもできるようになった気がして*5、その意味で、今年の両グランプリの存在意義は大きかったのではないかと思う。

古馬のGⅠを並べてみたら、

フェブラリーステークス モズアスコット 牡6
高松宮記念 モズスーパーフレア 牝5
大阪杯 ラッキーライラック 牝5
天皇賞(春) フィエールマン 牡5
ヴィクトリアマイル アーモンドアイ 牝5 ※牝馬限定
安田記念 グランアレグリア 牝4
宝塚記念  クロノジェネシス 牝4
スプリンターズステークス グランアレグリア 牝4
天皇賞(秋)  アーモンドアイ 牝5
エリザベス女王杯 ラッキーライラック 牝5 ※牝馬限定
マイルCS グランアレグリア 牝4
ジャパンC アーモンドアイ 牝5
チャンピオンズC チュウワウィザード 牡5
有馬記念 クロノジェネシス 牝4

と、これまでの流れに輪をかけて「牝馬上位」がより鮮やかに証明されることになったし、2着にラッキーライラックでも、カレンブーケドールでもない牝馬(サラキア)が飛び込んだことで、ますます「強い牝馬」のインパクトは強まった。

今年合計5勝をかっさらっていった大物2頭の引退でさすがに来年はもう少し”男女均等”になるのではないかと思うが、今年だけの一瞬の出来事だったとしてもその”瞬間”を目撃できた幸運は長く味わっていたいと思うところである。


なお、レース後のJRAからの発表によると、

「2020年の中央競馬を締めくくる有馬記念が行われた27日、日本中央競馬会(JRA)は今年の業績(速報値)を発表し、開催288日の馬券の総売り上げは昨年比103.5%の2兆9834億5587万2000円で、9年連続の増収となった。」
東京新聞Web(JRA、コロナ禍も総売上アップ ネット会員増加:東京新聞 TOKYO Web)2020年12月27日19時04分配信

ということで、「電話・インターネット投票会員数が昨年同時期に比べ約50万人増えた。」(同上)という事実と合わせ読むと、「コロナ下での増収」もやろうと思えばできるのだ、ということを改めて感じさせてくれる。

そして、これまで度々このブログでも申し上げてきたとおり、一度も中止となる開催日を出さなかったJRAの「運営」の力はもちろん、「経営」の力についても、皆が心から敬意を表し、一つでも二つでも学びを得る必要があるはずだ。

今の状況を考えると、2021年が始まってしばらくの間は、競馬場への入場者数が大幅に制限された状況は続くだろうし、世界が元に戻るまでにはまだまだ時間が必要なのかもしれない。

それでも、輝く特殊法人JRAには、だからこそここで一気に戦略を磨き上げてさらなる売上増と構造転換につなげる、そんな工夫さえまだまだ見せてくれるのではないかと期待してしまうわけで、あと一週間とちょっとで始まる競馬暦上の「新しい年」に期待するところは極めて大きい。

コロナの嵐がどんなに吹き荒れようと、2021年が競馬を愛する人々にとって今年以上に盛り上がり、今年以上に活況を呈する年になることを、今は心から願うのみである。

*1:タガノエスプレッソはもう9歳になろうか、という馬だが、2歳時には芝で重賞勝ち、3歳の弥生賞でも3着に入り三冠レースを皆勤した実績がある。その後伸び悩んでいたが4年前の暮れの初ダート戦のOPで優勝。さらに時を経て昨年障害転向した後は、オジュウチョウサンに土を付けた前走をはじめ既に4勝。今年に入ってから重賞も2勝奪っているというつわものである。

*2:そして鞍上の川田騎手は、先週のグレナディアガーズとの比較でいずれを選択するか、という難しい選択をこれから強いられることになる。

*3:先週の朝日杯FSに続き、上位3頭いずれもノーザンファーム生産、というのを見ると、やはり早い時期に馬を仕上げる能力ではまだまだ他の牧場の追随を許さないな、と感じるところではあるが、裏返せば年明け以降のデビュー組から「大物」が登場する可能性もまだ残っている、といえそうである。

*4:大体、自分の場合、こんなふうに当日になってから迷ったようなケースでまともに的中馬券を当てたことなど一度もないに等しいのだ。

*5:クロノジェネシスの場合、何といっても父が3歳で凱旋門賞を制したフランス調教馬、バゴだから血統的な裏付けは十分。加えてこの馬場適性と簡単には抜かせない勝負根性があることも考えると、堂々渡り合える可能性はあるような気がする。

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