アンチ・サマータイム

7月から大口需要家への電力使用制限がかかる、ということで、会社の中でも様々な手立てが打たれている。

冷房の設定温度を上げる、だとか、室内を減灯する、エレベーターの稼働本数を減らす、といった取り組みであれば、それなりに目に見える効果も出るし、やる意味は一応ある、と言えるだろう。

元々、自分は寒がりなので、夏場のオフィスや電車内(特に地下鉄)の冷房が大の苦手だし、それゆえ、夏のクールビズ期間でも上着を手放せなかったくらいだから*1、今年のオフィス環境は、むしろ快適なくらいだ。

だが、こういう話題になると、必ずと言っていいほど年寄りが言いだす、

「7月から2時間早く会社に来い。サマータイムだ!!」

と言う類の話には、正直閉口させられる。

そもそも、フレックス勤務の人間に対して、一定時刻での勤務開始を半ば強制するような物言い自体がナンセンス、というべきだし、朝から十分暑い真夏の東京で、勤務時間を繰り上げたところで、削減できる消費電力量なんてたかが知れている*2、というのもあるのだが、それをさておくとしても、生活サイクルが変わることによる社会全体への悪影響に対する配慮が、この種の発言には著しく欠けていると思う。

仮に、勤務開始を繰り上げた分、勤務の終わり時間も繰り上がって、きっちり4時くらいに会社を追い出されたとすれば、日中の暑さがまだしっかり残っている時間帯に、家路に付かなければいけなくなる。

家に帰れば当然冷房は必須だろうし、空調が一括管理されている職場とは違って、設定温度は下げ放題。
どんなに自制心がある人だって、夕方から寝るまで家で何時間も過ごすはめになれば、「うち一軒くらい冷やしたって・・・」という心の隙も手伝って、過剰な電力消費に貢献してしまう羽目になることは大いに想像できるわけで・・・。

また、帰りがけにどこかに寄って一杯ひっかけていく、ということになれば、家庭への負荷は軽減されるかもしれないが、今度はそういう人々を受け入れるお店の方で、それまで以上に電力を使い続けることを余儀なくされることになる*3

要するに、「サマータイム」というのは、各企業のオフィスでのやみくもな電力消費削減策のつけ回しを、家庭や飲食店、公共スペース等に押しつける、という取り組みに他ならないのであって、堂々と胸を張ってできるような施策では到底ない。

長年にわたって、多くのメディアで、「サマータイム」があたかも前向きな施策であるかのように論じられてきたこと、節電の必要性が叫ばれ始めた頃に、「サマータイム」を導入する一部の会社が、電力消費に配慮した、あたかも優れた会社であるかのように取り上げられたこと、そして何よりも、これが朝早い時間にしか起きられなくなってしまった年寄りどもの生活リズムに実に良くマッチすること・・・(笑)。

そんなところから出てきている話なのだろうけど、自分としてはナンセンスな妥協をすることなく、むしろ出勤時刻を後ろ倒しにするくらいの精神で、この夏に臨むことにしたい。


なお、最近になって産業技術総合研究所が、「生活時間の前方シフトは、かえって社会の電力消費量を増加させることになる」というシミュレーション結果を公表してくれたので(http://www.aist-riss.jp/main/modules/product/setsuden.html)、「サマータイム」を導入することの愚かさ(反社会性)も比較的主張しやすくなってきてはいるのだけれど、中には、この資料を提示してもなお、

「オフィスの電力使用量が10%も減らせるんだから良いではないか。」

というところにだけ食い付いてくる“偉い人”がいるんじゃないかと思うと、どうにもこうにも・・・。
暗澹たる気分になる。

*1:さすがに日差しが照りつけるところを歩くと暑いが、建物内では来ていてちょうど良いくらい、というのが、ここ数年の夏だった。

*2:勤務開始が早くなった分、オフィスにいる時間が長時間化するリスクもあることを考えると、むしろマイナスになる可能性もある。

*3:客商売をやっている以上、ユーザーに安易に“忍耐”を強いるわけにもいかず、結果的に、多かれ少なかれオフィスに比べれば過剰な電力消費を強いられることになる。

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