メディア等で大々的に報じられた公正取引委員会によるGoogleへの「行政処分」。
米国でもEUでも巨大プラットフォームに強い「圧」がかけられているこの時代に、日本だけ取り残されるわけにはいかない、という思いは当局関係者も強く持っていただろうし、既に昨年秋には、まさにGoogleを対象に大々的な情報・意見募集を始めたところでもある*1。
だから、早い段階で何かしらかは動いてくるだろうな、ということは予測していたのであるが、ここで出してきたのが「検索連動型広告」に関する対ヤフーの話、しかも行政処分といっても「独占禁止法の規定に違反することを認定したものではない」という前提の「確約手続」とは・・・*2。
個人的には何とも拍子抜け感が否めない「処分」だったし、それゆえ、沸き立つメディアの有り様も空騒ぎのように思えてならなかった。
今回の公正取引委員会のリリースにも記されているように、そもそも、事の始まりは、元々「自社のウェブサイト等において用いる検索エンジン及び検索連動型広告の技術を有しておらず、米ヤフーから技術提供を受けていた」ヤフージャパン(旧ヤフー㈱)が、米ヤフーの開発停止によって技術提供が受けられなくなり、Googleの検索エンジンと検索連動型広告技術の提供を受けざるを得なくなったことに起因している。
その名のとおり、「検索連動型」広告というのは、「検索」サービスあってこそ成り立つものだから、本件で競争制限行為の存在が指摘された「モバイル・シンジケーション取引」*3にしても、本来なら「検索」サービスの根幹たる検索エンジンの技術や、検索連動型広告技術と切っても切り離せないものであるはずである。
もちろん、Google LLCとヤフーが検索エンジン及び検索連動型広告の技術の提供に係る契約を締結するに先立って行った公正取引委員会への事前相談で、
「当該技術の提供の実施後も、インターネット検索サービス及び検索連動型広告の運営をそれぞれ独自に行い、広告主、広告主の入札価格等の情報を完全に分離して保持することで、引き続き競争関係を維持する」
という説明をしていたにもかかわらず、実際にはそれと異なる対応をしていた、というのは決して褒められたことではないし、事実上顔を潰される形になった当局が一定の処分に踏み切る動機付けになったことも間違いない。
ただ、そもそも自前の検索エンジンも検索連動型広告技術も持てなくなった会社のために、その先の広告配信と収益分配の部分だけの「市場」を観念して「競争」を維持しようとすることにどれほどの意味があるというのだろうか・・・。
元々、この分野で「競争」が成り立っていたのは、ヤフーがGoogleと並ぶ有力な検索エンジンを持っていて、それに基づく検索連動型広告サービスを提供できていたからに他ならないわけで、開発投資を怠った結果、自らの武器を失った会社のために市場の席を残すことは、かえって不公正な状態を生み出す可能性すらある。
さらに言えば、デジタルプラットフォームの世界での「独占」は、イノベーションの停滞やユーザーにとってのサービス低下を必ずしも意味するものでもない。
むしろ、新しい技術を生み出し、自社のサービス、プロダクトに実装するために巨額の投資が必要となる今のデジタル&ネットワーク社会では、独占による利益の集中こそが新たなイノベーションを生み出している、という状況すらあるわけで、そこであえて当局が「官製競争」を強要することは、かえってその分野における進化を遅らせることにもなりかねない・・・*4。
「競争政策」というのは、本来それぞれの国の置かれている状況をストレートに反映しなければならないものであるはずだし、実際、この国の社会が置かれている状況は、米国とも欧州とも全く異なる。それにもかかわらず、何かと米欧のやり方を真似して追従しようとしている(ようにも見えてしまう)この国のあり方に対しては、常日頃から首を傾げたくなることが多いのだが、今回の「処分」も、勇ましく語られるようなものでもなければ、これによってこの国の社会を良い方向に導くものとも言い難い、ということは、ここにしっかり書き残しておくことにしたい。
*1:(令和5年10月23日)Google LLCらによる独占禁止法違反被疑行為に関する審査の開始及び第三者からの情報・意見の募集について | 公正取引委員会
*2:(令和6年4月22日)Google LLCから申請があった確約計画の認定について | 公正取引委員会
*3:公取委のリリースでは、「検索連動型広告の配信を行う事業者が、ウェブサイト運営者等から広告枠の提供を受け、検索連動型広告を配信するとともに、当該広告枠に配信した検索連動型広告により生じた収益の一部を当該事業者に分配する取引をいう。」と定義されている。
*4:あくまで独占しているのは日本企業ではなく米国の企業なのだから、日本の政策の影響なんて受けないのではないか?という見方もあるだろうが、自社の突出した技術を生かせず無益な競争を強いられる国の市場には力を入れない、という経営判断もあり得るのだから、やはりこの国におけるイノベーションに全く影響しない、とは言い切れないと思っている。