打ち破れなかった“ドリームキラー”の壁。

数日前の日経紙のスポーツ面に、武智幸徳氏が「ドリームキラー」というタイトルのコラムを書かれていた*1

このコラムの中では、「選手やチームのレベルアップの大きな妨げ」になる「ドリームキラー」として、

「夢や高い目標を掲げる選手の耳元で「身の程を知れ」「現実は甘くないぞ」とささやく人たち」

が挙げられ、「パワー、スピードに差があり過ぎる。日本野球は通用しない」といった類の決め付けが、「不必要なコンプレックス」を生んできたことが指摘されるとともに、それを打ち破った「最初の突破者」がいかに重要な意味を持っていたか、ということ、そして、今もなお形を変えた「ドリームキラー」が存在すること*2が語られていた。

そして、自分は、これって、スポーツのみならず、人生の中で大きなものにチャレンジしようとする全ての人々に通じる話だなぁ・・・と印象深くこの記事を読んだ。

* * *

そんな中、行われた今年の大阪国際女子マラソン

4年前、北京への切符を賭けた同じ大会で、勢いよくスタートダッシュを決めながらも、最後惨めなまでの失速で完敗した福士加代子選手の“リベンジ”なるか、というのが大会前の最大の焦点で、福士選手自身は4年前とは異なり*3、普段なら全力投球する駅伝の優先順位を下げてまで五輪に賭けて長距離練習に打ち込んでいた、という情報が伝えられていた上に*4、かつての金メダリスト・野口みずき選手が直前に欠場を決めたこともあって、9割方、大会前の触れ込みは現実化するだろう・・・と思ったのは自分だけではなかったはずだ。

だが、30キロ手前で、重友梨佐選手にあっけなく置いていかれてしまった福士選手は、その後も全く見せ場なく後退し、五輪など夢もまた夢、の9着惨敗。

元々、トラックや駅伝の10キロくらいの距離で抜群のスピードを見せていた福士選手だけに、早々と脱落してしまった力不足のペースメーカー達が創りだすペースでは、かえってフラストレーションがたまるだけだったのかもしれないし、解説者の増田明美氏が指摘していたような、「調整の失敗」*5もあったのかもしれない。

でも、4年前のVTRのように、力なく後退していく彼女の姿を見た時、どうしても、

「スポーツの世界で記録更新を阻むのは、肉体より、自らの頭の中に設けてしまう“壁”の方が大きいらしい。」

という上記の武智氏のコラムの一節を思い浮かべずにはいられなかった。

「30キロの壁」という、スピード系のランナーには常に付きまとうフレーズ。

かつて、駅伝、トラックで花形選手として鳴らした早田俊幸選手や渡辺康幸選手も、五輪選考会のような大事な場面では、どうしてもこの壁を突き破れずに、マラソン界の名ランナーの座には手が届かなかった*6

“リベンジ”を強く意識して臨んだが故の失速・・・

もし、そうだったとすれば、凡人には想像もつかない、五輪という4年に一度の舞台に辿りつくまでの道程の過酷さ、熾烈さに想いを馳せずにはいられない。


なお、“リベンジ”のストーリーに微かなシンパシーを感じていたテレビ桟敷の凡人としては、福士選手のレース後の記者会見での表情が、(テレビカメラを意識してのことだろうとはいえ)思いのほか明るかった、というのが唯一の救いだったわけで、今は、4年前と同じように、今後トラック競技で再度五輪の切符を掴み取ってくれることを、ただただ願うほかない・・・と思うところである。

*1:日本経済新聞2011年1月27日付け朝刊・第33面。

*2:世界に通用する才能の持ち主を「特殊な例」として片付け、「怪物」扱い等々の「褒め殺し」でスポイルしてしまう傾向を武智氏は憂いており、あれだけ「メジャーに興味がない」と公言し続けていたダルビッシュ投手が海を渡ってしまったこととも結びつけて、一種の“メディアの責任”を語っている。

*3:4年前のエピソードについては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080127/1201415054参照。

*4:その過程では、昨年秋のシカゴマラソンで2時間24分台という記録も残している。

*5:直前の時期に体内に炭水化物を蓄え切れなかった等々・・・。

*6:とはいえ、早田選手は2時間8分台の自己記録も持っている選手で、常に壁に泣かされていたわけではない、ということも付記する必要がある。それは、シカゴでは24分台を記録した福士選手も同じ。

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