「5年」という歳月の重みがこの先の奇跡につながることを願って。

何も止まらない「緊急事態宣言」の下、昨年暮れくらいから押し寄せる仕事の波が、ささやかな週末の休息まで奪い去ってしまう今日この頃だが、そんな日曜日、ちょっとした気紛れでクリックした先で流れていたLIVE映像に思わず釘付けになってしまった。

全日本卓球選手権、女子シングルス決勝。

最近は、大会こそ予定通り行うものの観客は入れず、その代わりにこれまでになかった無料でのインターネット中継を提供する競技団体が多いのだが、この大会もその一つ。

本当に偶然だったのではあるが、いつもの年なら終了後にメディアで流れる結果だけ見て、ほうほう、と思っていたイベントを思わぬ形でライブ視聴することになった。

準決勝までの速報で、決勝戦のカードがここ数年世界の頂点に近いところで戦い続けている伊藤美誠選手 対 長年日本女子代表の看板を背負ってきた石川佳純選手、という新旧エース対決になった、ということは把握していたのだが、見始めた時には目下の勢いそのままに、ゲームカウント3-1、と伊藤選手が圧倒的にリードする展開。なんとか決着が付く前にギリギリ滑り込めた、という感じで、その第5ゲームも一進一退ながら、素人目には伊藤選手が繰り出す独特のサーブ&必死に食らいつく石川選手のリターンをはじき返す強打、の勢いが勝っているように見えた。

石川選手が9-7と引き離しかけたところですかさず連続強打で同点、さらに伊藤選手がふかしたことでようやく10-9とゲームポイントまでたどり着いても、すぐさま追いつかれ・・・という展開で次のサーブは伊藤選手、余裕すら感じさせる彼女の不敵な笑みと、険しさが際立つ石川選手の表情を見比べてしまうとなおさら、目に浮かんだのはこのゲームも伊藤選手が逆転で奪って優勝決定・・・、という単純な構図。

ところが・・・

粘り強いラリーの末、ここで先に1点をもぎ取ったのは石川選手。さらにサービスエースを奪って12-10・・・。

この時、潮目が大きく変わったのかもしれない。

続く第6ゲームは、序盤のスコアこそ拮抗していたものの、それまで面白いように決まっていた伊藤選手の強打が微妙に外れて首を傾げるシーンが目立つようになる。

そして、タイムアウト明け、伊藤選手が追い付いてこれから、というところで、石川選手が怒涛の6ポイント連取。

強打を返されての失点あり、サービスエースあり、さらに最後はラケットが空を切る、という信じられないような展開の中、このゲームも石川選手が奪ってゲームカウント3-3。

完全に流れが石川選手に行っていた第7ゲーム、しかも前のゲームの勢いそのままに石川選手が9-5でリードする展開までいったところで、一気に4ポイント返して9-9まで持ち込んだところはさすが、という感じだったが、そこで飛び出したのが石川選手のフォアハンドからの火を吹くようなストレート一閃。さらにもう一丁、とばかりに最後も相手のお株を奪う強烈なフォアストレートで11-9。

結果、3ゲーム連取で大逆転、3連覇を果たした2016年の大会以来、5年ぶり5度目の優勝を果たしたのである。

元々同じ左利き、加えて若い頃からパワーよりも巧さと粘りで一線に登り詰めた印象がある選手だったこともあって、国際大会の中継があるときは、どうしても石川選手に肩入れして見てしまっていたのだが、あの大事な場面で、あれほど強いショットで試合を決められるとは・・・というのは鮮烈な衝撃だった。

さらにグッと来たのが試合後のインタビュー。

「5年ぶりの優勝、若い選手も台頭してきた中でどう思うか」というインタビュアーの質問に、暫し言葉を詰まらせた末に出た、

「嬉しいです。たくさんの人に感謝したいです。」

という気持ちのこもった言葉。

そして、その後、メディアで報じられた彼女の言葉はよりセンセーショナルなものだった。

「もう無理なんじゃと思ったこともある。でもそうじゃないと自分が卓球を通して教えてもらった。(雑音も)今は気にならない。まだまだやれる、やりたい
日本経済新聞2021年1月18日付朝刊・第33面、強調筆者)

ベテランと言われてもまだ27歳、かつて小山ちれ選手が30代後半まで全日本女王の座に君臨していたことを考えると、まだまだ老け込むような年齢ではないのだが、リオ五輪の年だった5年前、押しも押されもせぬ日本女子の第一人者だった石川選手のポジションが、ここ数年の10代選手たちの台頭によって厳しいものになっていたのは確か。

彼女が全日本チャンピオンの座を追われていた過去4大会でその座に就いたのが、同じ2000年生まれの平野美宇伊藤美誠早田ひな、というトリオだったことも時代を象徴している。

だが、遡れば今から10年前の2010-2011年シーズン、福原愛選手より先に全日本女王の座に輝いたのがこの石川選手だったわけで、その後7大会連続の全日本決勝進出、二度の五輪出場&団体メダル、という偉業を経て昨年準優勝、今年優勝、という抜群の安定感は、今の日本選手たちの比較ではもちろん、歴史を遡っても比類なきもの。

もちろん、そんな5年、10年は、経験を過去のものとしない日々の鍛錬あってこそのものだ、というのも、改めて言うまでもないことだと思う。

歓喜に湧いたロンドン、失望と安堵をジェットコースターのように繰り返したリオを見てきた者としては*1何としても来る東京五輪で彼女に表彰台の真ん中に立ってほしい、という思いは強いし、何よりも選手自身がそれを支えにここまで頑張ってきたはず。

ここに来て急に「中止」風が吹き始めたように見える状況の中で、「開催」かつ、その場に参加するアスリートたちの「好成績」を願うのは、決して起きることはない奇跡に願掛けする所業に等しいのかもしれないが、それでも自分は、新年早々繰り広げられたこの全日本決勝の「頂上対決」が、これから始まっていく一年の吉兆になると信じて、精一杯の願いを込めたいと思っているところである。

*1:特に後者は、個人戦での初戦敗退も相まって、団体で意地のメダルこそ取ったものの、見ている側にしてみれば、不完全燃焼感の強い大会だった。2016年8月17日のメモ - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

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