珠玉のコラムが終わる時。

年末には様々な区切りが訪れるものだが、日経新聞のスポーツ面で異彩を放っていた豊田泰光氏のコラム「チェンジアップ」も、とうとう終わりを迎える、ということで、「最終回」として豊田氏へのインタビュー記事が紙面に掲載されている*1

自分もここまで・・・とは思っていなかったのだが、連載年数は1998年から2013年までの実に15年間。
元々、個人的には、産業面よりも読む価値がある、と思っている日経紙のスポーツ面の中でも、最高のキラーコンテンツと言えるような定番コラムだった。

連載を開始した時点で、評論家の中でも既に“長老”と呼ばれるようなポジションにあった豊田氏だけに、コラムの中では、三原脩監督や稲尾投手といった、オールドファンにしか分からない時代のエピソードが度々登場していたし、“今昔比較”的な、一歩間違えれば説教臭くなってしまうようなエッセンスを散りばめた記事も多かった。
だが、その一方で、某番組に出てくる某“ご意見番”のようなステレオタイプ固定観念とは無縁の柔軟な発想は随所に見られたこと、また、現役時代より遥かに長い間「評論家」というポジションに身を置かれていたにもかかわらず、“プレイヤー目線”、“グラウンド目線”を前面に出した記事が多かったこと*2が、このコラムを、“高いところから見下ろす”タイプの他の評論家のコラムとは一線を画した、読み応えのあるものにしていたのではないかと思う。

また、高卒入団1年目からショートのレギュラーに定着し、27本塁打*3を放って新人王を獲得。その後も、西鉄黄金期の主力メンバーとして名を残した、という華やかな球歴を持ちながらも、移籍後引退に至るまでの不遇の時期を経験されていたり、引退後のセカンドキャリアで苦労されていたり、と、“スター街道まっしぐら”の元選手とは一味異なる深みがあったことも、豊田氏の書かれた文章に重みを持たせていたのかもしれない。

いずれにしても、プロ野球の世界で何か印象的な出来事が起きるたびに、今度のコラムでどんなコメントが飛び出すのだろう・・・? と、わくわくするような気持ちで紙面上を探す、というのが、この10年以上の間の、自分にとっての「スポーツ面の読み方」だったわけで、その楽しみがなくなってしまうのは、何とも寂しいというほかない。

「私も来年2月で79歳。現場に出る機会も減り、ファンの方には申し訳ないけれど、人生2度目の引退がやってきた。」

というコメントで締めくくられる最終回のコラム。

「ベースボールマガジン」の連載が今年いっぱいで打ち止めになる、という話は、Number誌等を通じて自分も知っていたから、なるほどそうなのか・・・と言われてみれば思うのだが、豊田氏に代わり得るような“筆の立つ元選手の評論家”というのが、なかなか見当たらない現状*4を考えると、時々でもいいからコメントを寄せていただけないものか・・・、と切に願いたくなってしまうのである。

豊田泰光108の遺言

豊田泰光108の遺言

*1:日本経済新聞2013年12月26日付け朝刊・第37面。

*2:ジャンル的には「辛口」系の評論に入るのだろうが、こと選手の心理に関しては“優しい”コメントも多かったように思えてならない。

*3:この記録は、高卒新人の最多記録として長らく残り、清原選手が入団した年には、「豊田以来」というフレーズもたびたび飛び出していたものである。

*4:あえて挙げるとすれば野村克也氏なのだろうが、監督時代の印象が強すぎて、どうしても色眼鏡で見てしまうところもあるし、豊田氏のコラムニストとしての存在感が大きすぎたゆえに、なかなか“後釜”に収まるのは難しいのではないかと思う・・・。

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