東電は“普通の会社”に戻れるのか?

年末も差し迫ったタイミングで、東電次期会長人事を巡るニュースが日経紙の1面に掲載された。

「政府は過半数の議決権を握り、実質国有化している東京電力下河辺和彦会長(66)の後任に、社外取締役の数土文夫JFEホールディングス相談役(72)をあてる人事を固めた。下河辺氏の任期が切れる来年6月を待たず、来春にも就任する可能性がある」(日本経済新聞2013年12月27日付け朝刊・第1面)

当時、原子力損害賠償支援機構の運営委員長だった下河辺和彦弁護士が会長に就任されたのは、2012年のこと。

「3・11」の衝撃が未だ癒えず、時の政権の基盤も極めて不安定、という状況の中、「東電」という会社の行く末にも不透明感が漂っていた中で、あえて“火中の栗”を拾う形になった下河辺会長だが、(ちょこちょことした顕在化した問題*1もあるとはいえ)、ここまで数次にわたる特別事業計画の提出、承認のプロセスをクリアし、決定的なダメージを会社に与えることなく切り抜けてきた手腕は、率直に評価されて然るべきだろうと思う。

だが、いつしか、原発事故発生直後のような“東電バッシング”の風は弱まり、薄れゆく世の人々の記憶を横目に、“前向きな”報道がなされる機会も多くなってきた。
そして、そんな時に、このタイミングで、「経験者としての豊富な経験」を持つ社外取締役の数土氏を後任の会長に据える、というニュースが出てきた、ということは、記事に書かれているような、

「弁護士出身の下河辺氏が指示してきた賠償などの事故対応に追われた局面から、経営に通じた数土氏の下で再建の速度を上げる段階に移行する」(同上)

という意図がどこかしらかにあるのでは? という観測が生じても決して不思議ではない状況だと言える。



確かに、東電が担っている安定した電力供給、という使命を果たすためには、事業者としての「再建」を遂げることが不可欠だし、そのためには、“過去の清算モード”を超えて、よりスピーディに次の戦略を推し進めていかないといけないのは間違いないところ。

ただ、原発事故により生活基盤を破壊された多くの人々、そして、経営基盤に大きなダメージを受けた多くの企業にとって、「3・11」は決して終わった話ではない。

そして、それを裏付けるように、先の臨時国会では、特定秘密保護法をめぐるドタバタの中で、以下のような法案まで可決、成立しているのだ(平成25年12月4日に参院本会議で可決、成立。その1週間後の平成25年12月11日に公布されている)。

東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」
(趣旨)
第一条 この法律は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故による災害が大規模で長期間にわたる未曽有のものであり、特定原子力損害(当該事故による損害であって原子力事業者(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第三項に規定する原子力事業者をいう。)が同法第三条第一項の規定により賠償の責めに任ずべきものをいう。以下同じ。)を被った者(以下「特定原子力損害の被害者」という。)のうちに今なお不自由な避難生活を余儀なくされその被った損害の額の算定の基礎となる証拠の収集に支障を来している者が多く存在すること、個々の特定原子力損害の被害者に性質及び程度の異なる特定原子力損害が同時に生じその賠償の請求に時間を要すること等により、特定原子力損害に係る賠償請求権の行使に困難を伴う場合があることに鑑み、特定原子力損害の被害者が早期かつ確実に賠償を受けることができるようにするための体制を国が構築するために必要な措置について定めるとともに、特定原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例を定めるものとする。
(早期かつ確実な賠償を実現するための措置)
第二条 国は、特定原子力損害の被害者が早期かつ確実に賠償を受けることができるよう、国の行政機関における特定原子力損害の賠償の円滑化のための体制の整備、紛争の迅速な解決のための原子力損害賠償紛争審査会及び裁判所の人的体制の充実、原子力損害賠償支援機構による相談体制及び情報提供体制の強化その他の措置を講ずるものとする。
消滅時効等の特例)
第三条 特定原子力損害に係る賠償請求権に関する民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百二十四条の規定の適用については、同条前段中「三年間」とあるのは「十年間」と、同条後段中「不法行為の時」とあるのは「損害が生じた時」とする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。

議員立法だけあって、第1条、第2条までは、プログラム規定的な香りが漂っているが、第3条の規定は、民法724条が定める不法行為除斥期間に関するルールを、「特定原子力損害に係る賠償請求権」に限ってドラスティックに修正する、というものであり、原発賠償実務に与える影響は、極めて大きい。

そして、この規定が存在する限り、東電が「賠償」の呪縛から逃れられる日は、ずっと先まで訪れることはない、ということになる。


自分としても、たかが会長人事一つで、東電が、賠償に対する態度をガラッと変える、なんてことは考えにくいし、考えたくもない。

ただ、そうでなくても世の明るい話題の陰で、「3・11」の悲劇が風化しつつあることが懸念されている今、経営体制を再び改めることで、誤ったメッセージを世の中に与えることがないように、東電が誠実な対応を継続し続けることを、今はただただ願うのみである。

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