つい数日前に「帰省ラッシュ」というニュースをやっていたと思ったら、早くも「Uターンラッシュのピーク」というニュースに接し、日本人のこのせわしなさと、「なぜ他人が移動するタイミングで皆わざわざ同じように動くのか」という問題について、いろいろ頭を巡らせてみる。
それでも昔に比べれば、高速道路の渋滞の距離も、だいぶ短くなったような気はするのだけれど。
我田引水的な社説で過ちを繰り返すな。
今日の日経紙の社説で、「競争力向上を狙う仏労働改革」という見出しをみて嫌な予感がしたのだが*1、中身を見ても案の定というかなんというか、要約すると、「フランスが解雇規制を緩和したり、週間労働時間規制を緩和して、国内企業の競争力強化を図っている。日本も早く労働基準法改正案を成立させるべきだ。」というひどい論調になっている*2。
彼らが、主要読者である“産業界(の一部の人間)”の意を酌んで、労働基準法改正促進キャンペーンをすること自体を否定するつもりはないのだが、いわゆる“ホワイトカラー・エグゼンプション”的な制度を含む労働基準法改正を行うにあたって、「企業の競争力強化」を目的に掲げている限り、法改正が実現する時は永遠に来ないような気がするし、仮に無理やり法改正を行ったとしても、“競争力は強化されませんでした。残念。”という結果になるのは目に見えているわけで、これまでの迷走劇から学んでいる痕跡がない、というのは、大変残念なことだといわざるを得ない。
「勝ち組」の日本柔道に突き付けられた宿題。
前日のエントリーで、一味変わったなぁという感想を書いた今回の五輪の柔道日本勢について、日経紙も総括記事の中で、「2012年に就任して以来、井上康生監督が行った様々な手」を紹介しながら、「いかに変わったか」ということを丁寧に紹介している*3。
これだけ称賛の言葉を並べている日経記者の記事ですら、最後は「銅を一つでも多く金に変える“錬金術”が求められよう」と、4年後に向けてさらに一段高いハードルを掲げているし、コラムを書かれている山口香氏に至っては、「ほかの階級を制した外国勢は技能より勝負どころの見極めにたけていた。自分の強みと弱みを見つめた跡があり、そこから選びとった戦術の徹底があった。日本選手はそこまで一徹になれていただろうか。」*4と、素人目に見れば4年前から格段に進歩したと思われる点についても注文を付けられている*5。
大会を通じて世界のレベルが拮抗し、“紙一重”の差で順位づけが変わってくる、という現実がより明白になっただけに、今大会は取り尽くしたメダルも一瞬先にはどうなるか分からない、という危機感が良い方向に働けば、4年後はもっと輝かしい戦績を挙げられる可能性もあるだけに、ここはじっくりと見守るべきところなのだと思う*6。
競泳陣は「勝ち組」だったのか。
柔道と並んで、リオ五輪の前半を盛り上げたのが競泳陣。
前評判の高かった選手たちが軒並み順調にメダルを積み重ね、ロンドンでは届かなかった金メダルも2つ奪取。
さらにはリレー競技等でも栄光の歴史を掘り起こした選手たちの功績が大きかったことは間違いない。
ただ、トップレベルの成績を残した選手の陰で、力を発揮できずに去った選手たちが多かったのも今大会の競泳陣の特徴といえ、特に注目された2000年前後生まれの選手たちは、最初の種目(100mバタフライ)で記録を塗り替えた池江選手を除いて、ほとんど見せ場を作れなかった*7。
若さに任せて練習でも本番でも泳ぎ込み過ぎた結果、中盤から終盤にかけて余力を残せなかった、というところもあったのかもしれないが、これまで結果を出し続けてきた400mメドレーリレーの結果を見ても、全体の選手層がこれまでに比べて薄くなっているのでは?という疑念が、どうしても出てきてしまう。
若い選手が結果を残せずにプールサイドから去るたびに、“4年後を見据えて”的なコメントも飛び交っていたが、早くから活躍していた選手が必ずしも長きにわたって実力をキープできるとは限らないのがこの世界なわけで、今大会に出場した若手選手たちに「4年後」があるのかどうかは、何とも言い難いところはある。
個人的には、10代半ばの若い選手たちだけでなく、今大会アナウンサーに“集大成”と連呼された20代後半、30代の選手たちにも、4年後、再び五輪の舞台に立つチャンスはあると思うだけに*8、“世代交代”という安直なフレーズで、まだ輝ける才能が埋もれることがないことを願うのみである。
不愉快だったテロップ
五輪、男子テニスの準決勝、錦織圭選手が、A・マリー選手と紙一重の好勝負を展開していた最中、テレビの速報テロップで「SMAP解散」というのが流れて思わず脱力した。
もしかしたら、民放で五輪のコメンテーターをしていた同じ事務所の後輩に注目を集めるために、巧妙にタイミングを調整して仕掛けられたリリースだったのかもしれないが*9、はっきり言って、これが「ニュース速報」に値するほどの話なのか。
未だにただただ腹立たしい思いだけが残っている。
*2:そもそも、フランスと日本とではベースになっている法制度の“硬直性”のレベルが違いすぎる、とか、“規制緩和”の方向性自体、そもそもフランスの改正と日本の改正とでは大きく異なるとか、突っ込み出すとキリがない。
*3:日本経済新聞2016年8月14日付朝刊・第27面、本池英人記者。記事にもあるとおり「当たり前のことを当たり前に」しただけと思われるような内容も多いとはいえ、それができていなかった組織、集団の中で断行できたのは、彼が世界を代表する柔道家であり、かつ、栄光と挫折の両方を知り尽くした人間だから、という面が大きかったのではないかと思う。
*5:もっとも、山口氏は、期待を込めた時の方がコメントが厳しくなる傾向があり、4年前のコメントなどは実に優しかった(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120805/1344356379参照)。そう考えると、今回の五輪でようやく“平時”に戻った、とお考えなのかもしれない。なお、4年前のエントリーを改めて見返してみると、今大会で金メダルに輝いた田知本選手の戦略が、当時、阿刀田記者が指摘したことをまさに地で行くものだったのだなぁ、ということが分かる。
*6:なお、男子100キロ超級決勝でのリネール選手の「逃げ」に対しては、山口香氏などもかなり手厳しいコメントを寄せられているが、同時に、今大会、彼が勝つまでフランスの柔道での金メダルがゼロだった、という記事に接し、あそこまでしても守りたいものがあったのだなぁ・・・と、ちょっとだけ同情した。個人的には、100キロ超級の絶対王者も既に“紙一重”の波に飲まれかけていると思っているし、今大会の原沢選手が準決勝まで“風格”で圧倒していた姿を見ると、そう遠くないうちに彼がリネール選手のポジションを奪い取る可能性も決して低くはないように思う。
*7:安定した成績で結果を残すベテラン選手がいなければ、惨敗したアトランタ五輪の二の舞になっても不思議ではない展開だった。
*8:今大会でも「復帰」を遂げたフェルプス選手は、4年前とほとんど変わらない(というかそれ以上の)パフォーマンスを発揮していたし、50m自由形では36歳のアービン選手がシドニー五輪以来の金メダルを奪い返す、というギネスブック級の出来事もあった。日本の選手も、適宜休みを入れつつ、能力のある選手が息長く4年に一回の舞台に挑戦できるような仕組みをもう少し考えても良いような気がする(北島選手がそれをやろうとして失敗した、ということもあったが、今大会の結果(男子平泳ぎでメダルなし)を見て、再び北島選手が現役復帰の思いを抱くようなら、それはそれでありだろう、と思っている。
*9:自分も、思わずリアクションが見たくてチャンネルを変えそうになったが、その手に乗るものか、と思い直した。ちなみに翌日マラソン中継でコメントしていたSMAPメンバーの某氏は、この話題には特に言及していなかったように見えたが、全部見ていたわけではないのでよく分からん・・・。