的中してしまった不安と、差し込んだ希望の光。〜世界フィギュア2015

これまで日本フィギュアの看板を背負い続けてきた選手たちが、相次ぎ、引退、休養を表明する中で迎えた2014-2015年シーズン。
始まってからも、次から次へと様々な波乱要素が飛び出してきて、わずか半年とは思えないくらい様々なことがあったなぁ・・・というのが率直な感想なのだが、シーズンの最後を飾る上海での世界フィギュアも、そんな一年を象徴するような結果となった。

嫌な予感が現実になってしまった日本男子勢。

思えば、今シーズンのグランプリシリーズが始まった頃は、前のシーズン終盤の勢いそのままに、開幕戦から、町田選手、無良選手が立て続けに優勝、というニュースに湧きたっていたし、中国杯で羽生選手が衝撃的な事故に巻き込まれた後も、NHK杯村上大介選手が優勝、さらに、唯一今季のGPで勝利と無縁だった羽生選手が復活してGPファイナルで優勝、と、年が変わるまでは「わが世の春」を謳歌していたのが、日本男子勢だった。

そして、その頃は、織田信成選手、高橋大輔選手、といった「1」枠時代から、日本の看板を背負っていた選手たちがリンクを去った、ということの意味に、自分も含め、多くのファンがまだ気づいていなかったのではないかと思う。

だが、年末に全日本フィギュアが行われた頃から、雲行きが怪しくなる。

羽生選手こそ貫禄を示したものの、GPシリーズで好調だった選手たちが揃って奮わず、4位以下に甘んじることになってしまった上に、大会後に羽生選手が病気で緊急入院、実績を買われて世界選手権代表に選ばれた町田選手に至っては、まさかの電撃引退・・・という衝撃の結末で年の暮を迎える。

結果として「日本代表」に選ばれた顔ぶれを見て、嫌な予感がしたのは、自分だけではなかったはず。
それでも、2位に躍進したのがジュニアの宇野昌磨選手だったことや、ベテランの域に達している小塚選手が一世一代の演技で上位に食い込んで代表切符を掴んだ、ということもあって、その当時は、今の日本男子の底力をもってすれば、というムードの方が強かったように思う。

しかし、その後、予感はことごとく的中した。

四大陸選手権では、宇野選手がショートプログラムで2位発進、と健闘したもののフリーで崩れて5位に後退し、結果的に、誰一人表彰台に上がることができなかったし(最高順位が村上選手の4位)、今回の世界フィギュアでも、国際舞台の経験が豊富なはずの小塚選手、無良選手がこぞってショートプログラムで出遅れてしまったがゆえに、上位2選手の順位合計が「14」となり、長年守ってきた代表「3」枠を失う、という事態になってしまった。

メディア的に注目されているのは、ショートプログラムで首位発進しながら、フリーで3位に甘んじて連覇を逃した羽生選手(2位)の方なのだが、羽生選手に関して言えば、今大会も第一人者としての誇りは十分に示していた、と言えるだろう。

冒頭の4回転サルコウが2回転になってしまい、技術点で10点近く失ってしまったことが、優勝したハビエル・フェルナンデス選手との比較で致命傷になってしまったとはいえ*1、精神的動揺を見せることなく中盤以降のトリプルアクセルからのコンビネーションを2度、きっちりと決めており、ほぼパーフェクトな演技を見せたデニス・テン選手(フリー首位)に逆転を許さなかった。

本人は、インタビューで言い訳を一切口にしなかったが、シーズン前半での激突事故、そして昨年末以降の入院・手術と、次々とアクシデントが相次いで、シーズン中まともに練習できた期間がほとんどなかったであろうことを考えると、最後の最後で、これだけの演技を見せられた、というのはむしろ奇跡に近い。

前年の五輪&世界フィギュアのタイトルホルダーとして、ファンにも関係者にも、“負けてなお強し”という印象を刻みつけた、という点で、2位でも十分称賛に値する結果だと自分は思う。

そうなると、やはり、目を向けざるを得ないのは、二番手、三番手の選手たちの方・・・。

小塚選手に関して言えば、フリーではそれなりの見せ場を作れていたと思うし、点数が伸び悩んだ原因として、「1番滑走」という不利な条件があったことも否定はできない。
ただ、彼の往年の力をもってすれば・・・というところはあったのも確かで、特に、本来見せ場のはずのスピンやステップシークエンスで、軒並みレベル2、3の採点になってしまったのは何とも残念だし、11位のファリス選手と僅か0.35点の差だった、ということを考えると、ジャンプはともかく、細かい演技のところで何とかできなかったのか、と思わずにはいられない*2

また、無良選手に関しては、全日本あたりからの調子の悪さをそのまま引きずってしまった感があり、見ていて気の毒になるところがあった反面、日の丸を背負うからには・・・という言葉が喉元まで出てきそうな、そんな雰囲気も感じられた*3

これまでにも何度か「3」枠を失う危機はあった*4とはいえ、2007年の東京での世界フィギュア高橋大輔織田信成の両選手が勝ち取って以来、8シーズン連続で守り続けてきた枠を失った、という事実は重い。

アクシデント続きでも揺るがなかった羽生選手の安定感と、(ジュニア世界一の称号を手にした)宇野選手という新しいスター候補生の存在、と、決して明るい材料がないわけではないだけに、今は、ここからのリスタートに期待するほかないのであるが・・・。

悪い循環に陥らないことを祈るのみである。

良い意味で予想を裏切った日本女子勢の輝き。

一方、女子に関しては、浅田真央選手、鈴木明子選手、安藤美姫選手、という世界の頂点に近いところで長年君臨していた選手たちがリンクにいない、という事実を感じさせないような素晴らしい戦いを見せた。

優勝こそ、今年のフィギュア界を席巻した新女王・トゥクタミシェワ選手に譲ったものの*5ショートプログラムで3位に付けた宮原知子選手が、フリーでもほぼノーミスの演技でしぶとく粘り、総合2位で表彰台に上る。

SPで2位に付けていたラジオノワ選手が、フリーで明らかに本調子ではない演技に終わってしまったこと*6や、フリーで本領を発揮した米国勢が、SPで揃って出遅れたことなど、周りの運にも恵まれた、というのは事実だが、健気に真面目にプログラムを最後まできっちりやり通す宮原選手の演技が、世界のシニアの舞台でも認められた、ということは、今後に向けた明るい材料となるだろう。

また、スケーターとしての雰囲気、という点で言えば、本郷理華選手の演技にも特筆すべきものがあった。

初の大舞台で硬さもあったのか、見せ場の3連続コンビネーションで回転不足を取られたり、ルッツで2度のエラーエッジを犯したり、というミスがあったために、観客が思うほどスコアは伸びなかったのだが、素人目に見れば、宮原選手以上に生き生きとした演技で、スピン、ステップもすべてレベル4。

6位、という順位(これ自体、初出場、ということを考えると素晴らしい結果なのだが)以上に、来季以降に向けた存在感を発揮できた良い大会になったのではないかと思う。

全日本の演技を見たときはどうなるかと思った村上佳菜子選手も、悪いなりに演技をまとめて7位で締め、結果として、危ぶまれていた「3」枠を難なく確保。

これでさらに、全日本3位、世界ジュニアでも表彰台に上がった樋口新葉選手や、四大陸選手権で力を示した永井優香選手、といったあたりも控えているのだから、男子に比べると羨ましいくらいの層の厚さを示した、と言えるだろう。

グランプリシリーズの序盤で、猛威を奮うロシア勢に歯が立たない状況が続き、あわや誰もGPファイナルに出られない、という事態に陥りそうな状況になっていたことを考えると、同じシーズンとは思えないくらいの躍進ぶり・・・。

今年の男子の状況を見れば分かる通り、ちょっとしたことで潮目は変わってしまうものだけに、このまま“新たな黄金時代到来”と手放しで喜ぶのは禁物だと思うが、一時代を築いたスケーターたちが去った直後の極めて大きな意味を持つこのシーズンに、これだけの結果を残せた、ということは、後々、非常に大きな意味を持つことになるように思えてならないのである。

平昌五輪に向けた、長い長い道のりの始まり。

ということで、今シーズンを振り返りつつ、今年の世界フィギュアを眺めてみたが、当然のことながら、今大会の結果が、次の節目となる2018年平昌五輪の結果に直結することにはならない。

むしろ、ここ2回の五輪を見る限り、五輪翌シーズンの世界フィギュア優勝者が、その次の五輪で表彰台の頂点に立った例は皆無である*7

それだけ、フィギュアスケート、というのは、選手の旬の短いスポーツであり、五輪直後のシーズンで頂点に立った後、モチベーションとコンディションを数シーズンにわたって維持し続けるのが難しいスポーツだ、ということなのだろう。

でも、だからこそ、五輪シーズンかどうかにかかわらず、毎シーズン、その時一番輝いている選手の演技を見つめ続けることに意味がある、ということにもなるわけで、この先、再びメディアが盛り上がるようになるまでの長い長い道のりを、自分もゆっくり追いかけ続けていきたい、と思った次第である。

*1:この日のフェルナンデス選手は、序盤の4回転コンビネーションを失敗した後、後半でボーナスポイント付きの4回転コンビネーションを決める(結果、4回転ジャンプを3度飛んだ)など、いつになく当たっていて、これはさすがに相手が悪かった、と思わずにはいられなかった。

*2:もちろん、小塚選手自身が、高橋大輔選手が本調子ではないシーズンで度々上位に食い込むなど、日本の看板を支えてきた選手であるのは間違いないので、一方的に責めるのは憚られるのだけれど・・・。

*3:同世代ながら引退、という選択肢をした町田選手の「代役」という立場での出場となってしまったが、余計に本人の演技を硬いものにしてしまったのかもしれないが、外野の人間からすると、せっかくもらったチャンスなのに・・・と思わずにはいられなかった。

*4:特に、トリノ五輪後、バンクーバー五輪までの4年間は、東京開催の2007年を除き、2008年、2009年とギリギリの戦いが続いていた。

*5:グランプリシリーズからずっと見ていたが、今シーズンのトゥクタミシェワ選手の演技は、「これでなぜ昨年の五輪に出られなかったの?」と言いたくなるくらい、ただただ素晴らしいの一言に尽きた。そして、今大会でさらに大技トリプルアクセルまでクリーンに決めたことで、結果的には2位に17点もの大差をつけ、他の選手には手の届かない次元にまで行ってしまった・・・。

*6:実況では高熱の影響、と言われていたが、GPシリーズであれだけきれいに跳んでいたジャンプがことごとく軸のぶれた危なっかしいジャンプになっているのを見て、どこかケガでもしているんじゃないか、と思わずにはいられなかった。

*7:2011年の大会で優勝したのは、男子がパトリック・チャン選手、女子が安藤美姫選手であり、2007年の大会で優勝したのは、男子がジュベール選手、女子がまたまた安藤美姫選手である。女子に関しては、その前の2003年がミシェル・クワン選手、1999年がマリア・ブッテルスカヤ選手、1995年が陳露選手、と五輪の表彰台の頂点と縁がなかった選手が続いており、変則的に五輪中間年での開催となった1993年(オクサナ・バイウル選手)まで遡らないといけなくなる。

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