壮絶な親子喧嘩に決着は付いたのか。

同族企業の“親子の愛憎劇”が、定時株主総会における委任状争奪戦、と結びついて、利害関係のない野次馬にとっては、格好の“見世物”になってしまった感がある、「大塚家具」事件。

不幸にも、同社が「12月期」決算の会社で、記者の取材にも余裕がある(?)時期に総会が巡ってきてしまった、ということもあってか、父・大塚勝久会長側から株主提案が出されることが明らかになってからは、ほぼ連日のように、「誰がどっちに付く」的なネタが連日、日経紙の紙面を飾るような状況にもなってしまった。

とはいえ、蓋を開けてみれば、結果は至極順当。

「親子間で経営権を巡る対立が続いていた大塚家具は、27日開いた定時株主総会で大塚久美子会長らを取締役に選任する会社提案を可決した。父親で創業者の筆頭株主、大塚勝久会長らを取締役に選任する株主提案は否決した。」
「16万5340の議決権行使数に対し、会社提案への賛成票が61%と過半を占めた。」
日本経済新聞2015年3月27日付夕刊・第1面)

元々、会社と株主が対決するような構図の争いになった場合、現経営陣があまりに酷いことをやっている、というようなケースでない限り、通常の機関投資家は会社側に付く。
ましてや、本件は、報じられている情報による限り、「現代的な経営を志向する現経営陣」と、「過去の成功体験に固執する創業者」という対決構図になっており、騒動勃発後の会社側からの情報開示も適切、かつ効果的になされていたように見えた*1、ということもあったから、創業一族以外の株主があえて会社提案に反対し、会長側に付くということは考えにくい状況だったと言えるだろう*2

その意味で、「親子喧嘩」の決着は、今年1月の取締役会で、現会長が社長から解任され、大塚久美子氏が社長に復帰した時点で事実上付いていた。

そして、会社側が、総会終了直後にHPに掲載した、大塚勝久会長退任(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-3-27-2.pdf)というリリースが、この勝負に名実ともに決着が付いた、ということをより強く印象づける結果になっている。


もちろん、これまでの会長側の動きを見ていると、然るべき専門家から法的助言を受けながら様々な対抗手段を講じてきていることは明らかで、この種の話においては、舞台を法廷に変えて争いを継続しようと思えばできる材料も事欠かない*3から、「泥沼」の争いに持ち込もうと思えばできる、というのは事実。

ステークホルダーにしてみれば、「会社の置かれている状況を考慮して、矛を収めてくれ・・・」という思いで一杯だろうが*4、人の“情”が絡んだ話になると、どうしても理性的な解決に至るまでに、時間がかかってしまうのは世の常。

会社側が自画自賛するとおり*5、取締役10名中6名が社外取締役監査役も3名全員が社外監査役、と、ガバナンス体制としては「国内最高レベル」の体制が整っただけに、あとは「業績」という目に見える形を残すことが、“雪解け”に向かうための一番の早道だと思うのだが・・・。


なお、様々なソースからの情報が飛び交っていて、見えづらくなっている現社長の人物像だが、自分は、ネット上で見つけた一橋大の広報誌(HQ)に掲載されていた彼女のインタビュー記事(http://www.hit-u.ac.jp/hq/vol013/pdf/13-all.pdf、43〜48頁)を読んで共感するところが多かったし、経営者、というより、同じように企業社会の中で働いてきた「人」としての魅力を強く感じた。

ちょうど10年務めた大塚家具を離れて、自分の会社を興した頃のインタビュー記事のようだから、なおさら人間味がストレートに出ているのかもしれないが、法律を学ぶために筑波大の法科大学院に入った動機なども、理解できるところは非常に多かった。

プレイヤーとしての優秀さや魅力と、経営者としてのそれ、には、異なるところが多いし、仮に経営者として優れた人物だったとしても、それが常に良い「結果」に結び付くわけではない。

それゆえ、この先の彼女の未来が輝きに満ちているのかどうか、今の時点で断言することはできないのだが、人間関係が密な環境で10年どっぷりと仕事に漬かった後に、一呼吸置いて外の世界を見てから戻ってきた、というキャリアは、こういう会社であればあるほど貴重だと思えるだけに、1年後の今頃には、良いニュースが聞けることを、ただ、願うのみである。

*1:例えば、株主提案に対する取締役会意見を示した、http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-2-17.pdfや、コーポレートガバナンスコードへの考え方を表明した、http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-3-12.pdfなど。

*2:総会直前に、大口取引先のフランスベッドが会長側を支持する、と表明した旨の報道に接した時は、「え?」と思ったが、それが主流の動きではなかった、ということは、総会での議決権行使結果の数字が、明快に証明している(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-3-27-1.pdf参照)。

*3:例えば、既に話題になっている一族の資産管理会社(約10%の株式を保有)の支配権の問題はあるし、今回の総会の委任状勧誘に伴う手続きや、総会当日の議事運営等を問題にすることもありうるだろう。

*4:景気回復基調にあるとはいえ、小売事業者が置かれている競争環境は、決して内紛にあけくれられるほど悠長なものではない。特に、まだ時代に合わせたビジネスモデルが確立していないように見えるこの会社の場合、早急に“成功モデル”に辿り着かない限り、かつての同族大手小売事業者と同じ道を辿ることになってしまうだろう。

*5:http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-3-12.pdf参照。

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