年の暮れも押し迫った時期になって、「コメダ珈琲店の店舗外観が不正競争防止法で保護される」という強烈なインパクトのあるニュースが飛び込んできた。
27日に株式会社コメダホールディングスがプレスリリースを公表し(http://www.komeda.co.jp/pdf/info20161227.pdf)、それと前後して各紙が相次ぎ報道する、という流れ。
店舗外観の類似を理由とした紛争としては、「まいどおおきに食堂」に関する事件が有名だが(大阪地判平成19年7月3日、大阪高判平成19年12月4日)*1、あの事件は“トレードドレス”の法律を援用した原告側の奮闘むなしく請求棄却で終わっており、その後の西松屋の商品陳列デザインをめぐる不競法事件(大阪地判平成22年12月16日、請求棄却)*2と合わせ、日本の不競法に基づいて(商標・著作権以外を根拠とする)類似店舗外観等の差止めを認めてもらうのは難しいのでは?というムードが、長らく支配的になっていたような気がする。
だが、そんな中、仮処分命令とはいえ、「店舗外装、店内構造及び内装にかかる部分について、不競法2条1項1号並びに同法3条1項に基づき、コメダの申立を認める」(前記プレスリリースより)決定が出された、ということに極めて大きなインパクトがあるのは間違いない*3。
コメダ側のプレスリリースによると、「以前(株)ミノスケ(注:本件決定の相手方)からコメダ珈琲店のフランチャイズに加盟申請があった際、諸般の事情からこれをお断りしました。その後、(株)ミノスケはマサキ珈琲中島本店(注:外観使用差し止め店舗)を開業しました」等、いろいろと複雑な事情もあるようで、そういった背景事情がどこまで決定に影響しているのかは、決定文に接しない限り分からないところだし、今回の決定を下したのが、ここ数年、知財法務業界にいろいろと話題を振りまいている民事第29部(嶋末和秀裁判長)である、ということも*4、今回の決定をもって「店舗外観の保護」に関する一般論を展開することを躊躇させる。
ただ、記事の中で引用されている、
「コメダ珈琲店の外観は、他の同種店舗とは異なる顕著な特徴を持ち、消費者にもコメダ珈琲店の特徴が広く認識されている」
(出窓レンガ壁部の装飾や店内のボックス席の配置などについて)「余りに多くの視覚的特徴が同一または類似しており、全体として類似を否定できない」
「提携関係など緊密な営業上の関係が存すると混同させる恐れが認められる。店舗外観の使用はコメダの営業上の利益を侵害する恐れがある」
(日本経済新聞2016年12月27日配信Web記事、強調筆者)*5
といったポイント自体は、不正競争防止法をめぐる判断においてはスタンダードなものだと言えるし、10年前の「まいどおおきに食堂」判決の時代から、共通する要素の類似性等の事実如何によっては、店舗外観類似訴訟においてもこういう結論になる可能性が示唆されていた、ということを忘れてはならないだろう。
既に差止めを受けた店舗は営業を停止してしまっている、ということで、今後、相手方が異議審にまで持ち込むのか、また、平行して行われている本案訴訟の方で判決にまで至る可能性があるのか、といった点も気になるところだが、一度火が付くと、一気に燃え上がりそうな可能性を秘めたテーマでもあるだけに、できれば、裁判所によって、なるべくストンと腑に落ちるような判断が示されることを期待したいところである*6。
*1:当時のエントリーはhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070806/1186332281参照。
*2:当時のエントリーはhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110104/1294159962参照。
*3:しかも、認められた差止めの範囲も、「店舗用建物」それ自体の使用から、印刷物、ウェブサイトでの利用までかなり広範にわたっている。
*4:なお、今回の差止め対象店舗の所在地は和歌山市で、申立人(原告)のコメダも名古屋の会社、ということを考えると、あえて東京地裁を紛争の場に設定する必要はなかったはずなのだが、そこで東京に訴えを提起し、しかもあの第29部に配点された、というところに、申立人側の好判断と運の良さ(?)を強く感じるところである。
*5:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD27H07_X21C16A2000000/
*6:一方で、下級審レベルで変に尖がった規範が打ち立てられるようなことになると、かえって実務が混乱することもあるので、悩ましいところではあるのだが・・・。