そして、歴史的名馬がまた一頭、世を去った。

昔、「インパクトの大きい訃報は続けざまに来る」という話を聞いたことがあるが、まさにそれを地で行くような悲しいお知らせ。
今度は、2004年のダービー馬、キングカメハメハがこの世を去った

ディープインパクトの死に続き、競馬界にまたも悲しい出来事が起こった。キングカメハメハが9日、繋養先の北海道安平町の社台スタリオンステーションで死んだ。18歳だった。2003年に京都でデビュー、翌2004年にはNHKマイルC、ダービーで勝利し、変則2冠を達成。秋に復帰初戦の神戸新聞杯を快勝後、屈腱炎を発症したため引退した。」(キングカメハメハ死す 松田国調教師「夢の塊だった」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュースより)

今年の春に”急変”したディープインパクトとは異なり、こちらは前々から体調を崩していて、とうとう今年は種付けもできないまま「引退」に追い込まれていたから、同じような馬齢でもちょっと「訃報」の意味は変わってくるのだが、それでも「功労馬」になって数か月でこの世を去る、というのは何とも気の毒というか、儚いというか。

2歳~3歳の初めまではクラシック王道路線を歩みつつも、皐月賞ではなくNHKマイルCに進み、10年近く破られていなかったタイキフォーチュンのレースレコードを更新する5馬身差圧勝。
その後、松田国英調教師が「ダービー挑戦」という、当時としては前代未聞なローテを発表して、当時の職場の人間と、Numberの特集記事を片手に「4ハロンも一気に距離延長して大丈夫か?」と熱く議論し、「長距離適性はない!」と強く主張した自分が大恥をかいた、ということも、昨日のことのように思い出すから、ディープの時と同様、「まだ若いのに・・・」というのが率直な感想である*1

キングカメハメハ自身がクラシックシーズンが終わる前に引退してしまったこともあるし、次の年に「無敗の三冠馬」が世に出てきてしまったことで、「競走馬」としての印象はどうしてもかすんでしまったところはあるが、同世代の他の馬とのレベルの比較で言うと、ハーツクライダイワメジャーといった好敵手がいたこの世代の方が、「ダービー馬」になったことの価値は高いともいえるわけで、松田(国)調教師や安藤勝己元騎手が「規格外」的なコメントを連発しているのも分かるような気がする*2

ちなみに、ディープインパクトが亡くなった翌週くらいから「パンチの利いた後継種牡馬不在」という話が出始めている。

確かに競走馬の「血統」というのは難しくて、結果が出なければすぐに淘汰されてしまうし、結果が出たら出たで気が付くと種牡馬繁殖牝馬のコミュニティの中でその血が濃くなりすぎて手詰まり気味になっているうちに、外来血統によって一瞬で淘汰されてしまう、ということもある*3

ディープインパクトは、かれこれ20年以上も日本の競馬界を牛耳ってきたHail to Reason ‐Halo-サンデーサイレンスのサイヤーラインの正統な後継者ではあるが、その産駒となると、サンデーサイレンスから数えて「3代目」。しかも母方にはこれまたメジャーなNorthern Dancerの血脈(しかも決してマイナーではないLyphard系)が入っているから、自身のような5世代遡ってもアウトブリード、という産駒を送り出すのは難しい。ノーザンファームは、地球の裏側や欧州の渋い血統の繁殖牝馬を連れてきて、何とか再び「血の爆発」を狙っているようだけど、それも必ずしも当たっているとはいえない、というのが実情のような気がする。

そうなると、Kingmamboの持ち込み馬で、産駒がまだ「2代目」のキングカメハメハ*4の子供たち(ルーラーシップロードカナロアドゥラメンテ)の方が、サンデーサイレンス繁殖牝馬との組み合わせで良い結果を出せる確率が上がってきて(今のところ最高傑作はアーモンドアイだが、柳の下のどじょうを狙う人たちは当然増えているだろうから続々と同パターンの配合で爆発的に活躍する馬が出てきても不思議ではない)、気づけばMr.Prospector系が日本の主流血統になる、ということも十分考えられるところ*5

その一方で、今の世界の潮流を見ると、いずれはBold Ruler 系の強力な種牡馬が米国から入ってきたり、はたまた歴史は繰り返して、Galileo-Frankelのラインから再びNorthern Dancer直系の血統が蘇る、というドラマが演じられる可能性もないとは言えない。

競馬が「遺伝力」を競う世界でもある以上、死んでもなお評価は固まらず、産駒に残した血を通じて世界中のライバルと競争し続けないといけない、というのはなかなか気の毒なところなのだけど、先々、血脈がどういう行方を辿るかにかかわらず、十年後、二十年後、世界のどこかで活躍する馬の血統表の中に、キングカメハメハディープインパクトの名前が残っていることを自分は切に願っている。

そして、仮に「血」が残らなかったとしても、2004年のダービーや、2005年から2006年にかけて自分が見守り続けたレースと、そこで主役を演じた馬たちの記憶が消えるわけではないので、自分が生きている限りは、それを語り継いでいかないといけないな、と、思いを新たにしたところである。

追記

自分もサイヤーラインをまじまじと眺めたのは久しぶり(ディープの後継がどうこう、という話題が出てきたせいで、急に気になってしまった)で、寝ても覚めても攻略本片手にダビスタをやっていた時代から、系統名が1世代、2世代繰り下がっていることに隔世の感を抱いていたりもするのだけれど、興味がある方はさしあたり、以下の書籍でもご参照いただければ、と。

パーフェクト種牡馬辞典2019-2020 (競馬主義別冊)

パーフェクト種牡馬辞典2019-2020 (競馬主義別冊)

あと、相次いでなくなった両馬の偉大さを改めて知る、という観点から、今年の本日時点での種牡馬リーディングを残しておくことにする。
サンデーサイレンス系の血統が飽和状態であることを改めて実感するデータでもあるのだが・・・)

1 ディープインパクトサンデーサイレンス系)1,144戦150勝(内重賞15勝)賞金449,567.2万円 
2 ハーツクライサンデーサイレンス系)982戦87勝(内重賞3勝)賞金194,836.5万円
3 ステイゴールドサンデーサイレンス系)456戦48勝(内重賞9勝)賞金184,391.0万円
4 ロードカナロアキングマンボ系、キングカメハメハ直仔)837戦93勝(内重賞5勝)賞金180,881.9万円
5 ルーラーシップキングマンボ系、キングカメハメハ直仔)735戦75勝(内重賞6勝)賞金151,423.3万円
6 ダイワメジャーサンデーサイレンス系)683戦54勝(内重賞1勝)賞金138,960.2万円
7 キングカメハメハキングマンボ系)573戦56勝(内重賞5勝)賞金138,309.4万円
8 ハービンジャー(ディンヒル系)741戦55勝(内重賞3勝)賞金114,751.6万円
9 ゴールドアリュールサンデーサイレンス系)623戦54勝 賞金 91,185.6万円
10 マンハッタンカフェサンデーサイレンス系)395戦30勝(内重賞5勝)賞金88,554.0万円

*1:もっとも、冷静に考えると、「15年前のダービー馬」なんて、今JRAのCMに乗せられて競馬場に来ている世代にしてみれば、自分が20歳の頃のアンバーシャダイとかサクラユタカオーみたいな馬なわけで、その頃仮に彼らの「訃報」が報じられていたとしても、「若いのに気の毒」とは絶対思わなかっただろうから、純粋に自分が歳を取って、時間の感覚がおかしくなっているだけ、という見方もできるところではある(アンバーシャダイサクラユタカオー種牡馬としてそこまで酷使されなかったおかげ(?)か30歳くらいまで長生きしたので、それとの比較では「若くして」という感覚もあながち間違いではないのだが・・・)。

*2:なお、キングカメハメハの競走馬時代の馬主はディープインパクトと同じ金子真人氏だが、ディープの訃報に際しては「涙が止まりません」というコメントをいち早く発した金子氏が、今回はどのメディアを見回してもまだコメントを出していないように見えるのは、単にご本人が休暇等で捕まらないだけなのか、それともディープに最上級の惜別の辞を寄せてからわずか10日たらずで再びコメントを発することを躊躇したのか。改めて説明するまでもなく、金子氏にとっての「初めてのダービー馬」はこの馬なので、実のところディープ以上の思い入れを持っていても不思議ではないと思うのだが・・・。

*3:かつて日本国内で猛威を振るったNorthern Dancer系(特にノーザンテースト系)の血筋も、父系の血脈として見かけることは残念ながらほとんどなくなってしまった。

*4:キングカメハメハ自身にはNorthern Dancerの4×4のクロスが入っているが、それぞれNureyev、トライマイベストという日本ではマイナーな血筋なので、孫世代になると血は極めて薄くなる。

*5:個人的にはエンドスウィープの血を引き、Northern Dancer色の薄いアドマイヤムーンの産駒あたりがもっと走ってくれれば、よりミスプロ系の血が広がるのにな、と期待しているところあり。

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