盛り上がりに水を差したくはないのだけど・・・

ラグビーのワールドカップが始まった。

4年前の英国W杯での大躍進、そして、その流れを受けての自国開催、ということもあり、世の中的にはまぁまぁ盛り上がってはいるのかな、という雰囲気はある。

ただ、開幕戦となったロシア戦、試合そのものにはボーナスポイント付きで勝った(30-10)ものの、そこまで揺さぶられるものはなかった。

自国での晴れ舞台&開幕戦の独特の雰囲気にのまれたか、ミスから先制を許す、という最悪の形での試合への入りを目撃することになってしまったことも理由の一つ。

これまでのW杯とは異なり、対戦相手の組み合わせにも、日程的にも非常に恵まれている、というのが今大会の日本代表なのだが、初戦の戦いぶりを見る限り、POOL A最上位のアイルランドにはもちろん、スコットランド相手にも勝てそうな雰囲気は感じられなかった*1

もちろん、冷静に考えれば、後半の最後の10分、20分を、これだけ安心して見ていられた試合、というのは、2011年以前のW杯はもちろんのこと、前回の大会でもほとんどなかったから、PNCで見せた圧倒的な強さとか、大会前の「好調」という報道に煽られて期待感が高まり過ぎているのでは、と言われればそれまで。

むしろとびぬけたスリルや興奮を観戦者に与えることなく、「白星」という結果を出せるようになったことに、「チームの進化」がある、というべきなのかもしれない。

だがもう一点自分が気になったことがあって、それは、日本代表としての「連続性」である。

いろんな縁があって、前回のW杯の翌年くらいから、年2試合くらいのペースで秩父宮に試合観戦に行くようになったこともあり、代表チームも、そこに選手を送り出す国内のトップリーグのチームの歴史もそれなりに追いかけてきたつもりなのだけど、スーパーラグビーの日程等との兼ね合いで”ベストメンバー”の日本代表をなかなか見られないうちに、蓋を開けてみたら、2015年からの流れで”代表の顔”だろう、と思っていた何人かの選手が、W杯本番のメンバーに入っていない、という事態になっていた。

この点に関して言えば、サッカーの世界でもW杯の間の4年間でメンバーが大幅に入れ替わることは当然にあるし、一次予選、二次予選くらいまでチームの主力を担っていた選手が、負傷や移籍等をきっかけに、ある時期から急に招集されなくなってW杯や五輪の舞台に立てない、ということだって時々ある話で、「最強のメンバーで本番に臨む」という精神からすれば、コンディション等々の状況に応じてその大会でベストのパフォーマンスを発揮できる選手を選ぶ、というのが正しい選択なのだろうとは思うのだけれど、誰もが「次のW杯では絶対主役になる」と思っていた立川理道選手が名を連ねていない代表って何なのだろう・・・という気はする*2

自分とて、ラグビーの世界特有の”ダイバーシティ”を否定するつもりは全くないし*3、生きのいい若手選手を積極起用する、というのも決しておかしなことではない。

ただ、南アフリカ戦のメンバーが、ロシア戦の先発に5人しか名を連ねておらず、しかも、代わりに先発に入っているのは、キャップ数がようやく2桁に達するか達しないかくらいの、ここ2,3年の間で、初めて代表に選ばれたような選手たちばかり、ということになると、やっぱり寂しい気持ちにはなる。

ラグビーの場合、サッカーのように国内リーグ戦での活躍が大々的に報じられる機会が少ないし、サンウルヴスにしてもチームの勝ち負けを超えて、選手一人ひとりにスポットライトが当たる機会はそうあるわけではない。そして、どんなに弱小チーム相手の親善試合でも世界中からメンバーを揃えられるサッカーとは異なり、「代表戦」の位置づけがまたちょっと微妙なものになっていたりもする*4

だから、トップリーグに始まってスーパーラグビーから代表戦まで、本当に熱心に張り付いてみてきたコアなファンなら納得できるのかもしれない今回のメンバー選考も、時々試合を見に行ってその時々のメンバーをチェックする程度のライトなファンには、今一つ意図が伝わってこないわけで・・・。


「俺、昔ラガーマンだったぜ」的なコアな関係者や、雨が降ろうが風が吹こうが付いてきてくれる「三度の飯よりラグビーが好き」というマニアックなファンがいれば大丈夫、とばかりに、平時は関係者への最低限のアピールだけでお茶を濁し、自国開催のW杯の時だけは、ルールも選手の顔も背景も知らない善良な市民を煽るだけ煽って盛り上げるけど後はそれまでどおりに淡々とやればいい、という発想ならこれでも良いのだろう。

でも、志の高い人たちが目指していたのは、本当はそういうものではなく、一貫したポリシーに基づくチーム強化、選手育成、そして、その舞台とするための適切なマッチメイクと、それに伴うファン層の拡大・・・といったものではなかったのだろうか? それがこの4年間、ちゃんと行えていたといえるのか?

トップリーグの試合でも代表戦でも、自分が足を運んだ試合はいつも空席が目立ったし、Wikipediaの内容が4年前からほとんど更新されていない選手が多い、ということからも、大会と大会の間の期間の様々なアピールや盛り上げ、そしてそれらをちゃんと4年間継続して「本番」につなげる、という発想が足りなかったんじゃないかな、と思えてならない。

一大特集を組んだNumber誌の企画(「ラグビーワールドカップ優勝国はどこだ!」)でも8名中7名が予測したとおり、おそらく今大会の日本代表はPOOL Aの上位2チームに食い込んで、初のベスト8、そしてさらにその上を狙う戦いをしていくことになるのだろう。

でも、そこまで行ってもその先は・・・?という疑問は当然出てくるわけだし*5、今日のロシア戦のようなパフォーマンスをそのまま続けてしまえば、歯車が逆回転して(後から振り返れば「順当」に)グループリーグ敗退、という結果になる可能性だって否定はできない。

予定調和的にこのまま勝ち進んでその弾みで「ブレイク」することを期待するのが良いのか、それとも、むしろ自国で大恥をかくことで、チーム強化策や本当の意味で応援してくれる人を増やすための対策を一から考え直すきっかけにした方が良いのか、今は何ともいえないのだけれど、個人的には、せめて大会の期間中だけでも、このラグビーという複雑な世界のカラクリをちょっとでも取り上げてくれるメディアがあればな、と思っている。

*1:松島幸太朗選手のキレキレの個人技は際立っていたけど、一流国のバックス陣が彼にあそこまで自由を与えてくれるとは到底思えないわけで・・・。

*2:メディアで騒がれている五郎丸選手に関して言えば、年齢に加えてケガもあり、前回のW杯が事実上代引退試合になってしまっていたところはあったからやむを得ないとは思うのだが、同じような理由で今回代表メンバーから消えてしまった”千両役者”山田章仁選手に関しては、福岡堅樹選手を負傷で欠いている今となってはメンバーに入れておいてほしかった、という思いがどうしても湧いてきてしまう。

*3:そもそも、リーチ・マイケル主将にしても、トンプソン・ルーク選手にしても、単に日本国籍を取得している、という以上に生粋の日本人気質を備えているように感じられることは多いし、他の選手の中にも、高校、大学から日本の環境でもまれて育ってきた選手は多いから、その意味では「人種の違い」だけに着目して「ダイバーシティ」と言ってしまうこと自体が失礼な気がする。

*4:この4年近くの間見ていて、スーパーラグビーと代表戦の間の優先順位の付け方には最後まで理解できないところはあった。W杯に先駆けて早々と撤退を決めたのも、単なる金銭面の問題だけではないいろんなしがらみがあったような気がしてならない。

*5:サッカーの女子代表などがまさにそんな感じで、彼女たちは2度も続けてW杯の決勝まで上り詰めながら、未だに国内では扱いの低さに苦しんでいる。

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