「オリガミ」は消えても。

いろいろと動きの激しい業界の波を改めて感じさせるニュースが流れたのは、ちょうど2週間前のことだった。

「メルカリ(マザーズ、4385)は23日、子会社でスマートフォン決済「メルペイ」を手掛けるメルペイ(東京・港)が、スマホ決済のOrigami(オリガミ、東京・港)を完全子会社化すると発表した。株式取得は2月25日の予定だ。取得価額は非公表。オリガミのスマホ決済「オリガミペイ」については、顧客や加盟店への一定の周知期間を経て「メルペイ」に統合する。」(日本経済新聞電子版2020年1月23日15時35分配信、強調筆者、以下同じ)

当初は比較的中立だったメディアの論調は日を追うごとに厳しさを増し、Origamiに対しては、大手事業者が続々とQRコード決済に参入する中で、規模の小ささゆえに埋没した、という背景を散々報じたあげく、「1株1円」のディールだったとか、社員数7割削減、という話にまで行きつき、2018年に移転した六本木ヒルズ森タワーの賃料が高すぎたんじゃないか、という揶揄まで出てくる始末。

買収したメルカリにしても買収直後には「かえって経営リスクが増す」と株価急落を招いたし、NTTドコモとの提携公表で何とか一息ついたものの、一昨日公表した決算を見る限り、この先待ち受けている道は決して緩やかな道ではなさそうだ。

リークを交えつつ、先頭を切って厳しい論調の報道を続けているのは、もちろん日経紙なのだが、「NEXTユニコーン」と銘打って、メルカリやorigamiといった会社をもてはやしてきたのも、またこのメディアだったし、昨年末に公表された最新のランキングでも「推計企業価値417億円」という幻の数字とともにorigamiをランクインさせていた証跡は見事なまでに残っている*1

昨年秋に掲載された「オリガミ・ネットワーク」の記事をいま改めて読むと、

スマホ決済のOrigami(オリガミ、東京・港)は27日、企業が独自ブランドでスマホ決済などを活用できる新たなプラットフォームに吉野家すかいらーくホールディングス、第一生命保険など14社が参加すると発表した。各社は今後、どのようなサービスを活用するか検討する。」
日本経済新聞電子版2019年9月27日21時52分配信)

と、この決済戦国時代にしては、あまりに悠長なことが書かれていたりもするのだが、そのギャップが今回の悲劇を招いた、とまで言ってしまうと言い過ぎだろうか・・・。


ここ数年、「○○テック」という言葉があちこちの分野で踊り、少なからぬ人材もその方面に流れていっている。

だが、ちょっとずつ潮目は変わっているようで、特に昨年の秋以降、VC界隈から聞こえてくる話は決して芳しいものではない。

ある人の言葉を借りれば、そもそも「○○テック」と括られるようになってしまった時点で、その分野は過当競争状態に陥っていて、一歩抜け出している一部の先行者を除けば利益を出せるようになるまでのハードルが格段に上がる、ということのようだし、ましてやプラットフォーム型のビジネスで成功しようと思ったら、相当ないばらの道を覚悟しなければならない、というのもよく言われていることではある。

Googleを筆頭に、AmazonFacebookと、各国を横断して標的にされるほど強大な基盤を築き上げた会社の成功譚が海の向こうから頻繁に聞こえてくることもあり、時々、「今の世の中はプラットフォームビジネスこそ正義。業務受託なんかやってちゃだめ。」みたいな極論すら見かけることがあるが、一部のごく例外的な成功例だけ見て真似しようとしても、起業なんて到底成功するものではない、と自分は思っている*2

そして、この半年くらいの間に、曲がりなりにも経営を安定軌道に乗せることに成功した何人かの経営者の方々と接する中で気づいたのは、外向けに掲げている「理想」とは裏腹に、現実のビジネスでは実に地味で、だが手堅い商売を継続することで利益を積み上げることに徹している、ということである*3

壮大な夢を掲げるのは大いに結構だが、こと現実のビジネスの場面では徹底したリアリストにならないことには、会社を持続させることはできないし、組織を築くこともできない。

もちろん「失敗」とされてしまった会社の経営者たちがそういう感覚を持ち合わせていなかった、などと失礼なことを言うつもりは毛頭ないし、どれだけ手堅く利益を積み上げようとしても、一瞬で市場環境が変わってゼロリセットで頭を切り替えないといけなくなる、というのが、動きの早い業界の宿命だったりもするから、責めることなど到底できるはずもないのだが、一円でも多く利益を絞り出し、一円でもコストを削り取る、というところでの執念の差の積み重ねが、最後に明暗を分けるのも確かだろう。

当たり前のことではあるのだけど、経営の中枢から距離のあるところで仕事をしていたり、「経営」といっても永久機関の歯車の一つに過ぎないような名門大企業の中で漫然と仕事をしていると、どうしても忘れがちになってしまう視点だけに、どういう立場で関わるにしても、気を付けておきたいところである。


最後に、新しい分野で、新しいビジネスを立ち上げて、この世の中で新しい地平を切り開く、というのは、それだけで価値があることだと自分は思っている。

生半可「仕組み」だけで稼ぎを挙げられてしまうがゆえに、内向き思考で漫然と日々を過ごす人々の集まりになってしまったような会社と比較すれば、なおさらそう思う*4

だからこそ、様々な「悲劇」を繰り返さないためにどうするか。新しい会社、若い会社に関わる全ての者が意識しなければいかんな、と、自分への戒めも込めて思った次第である。

*1:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/next-unicorn/#/dataset/2019/list

*2:IT技術をベースとしたプラットフォームを維持しようと思ったら、膨大な開発コストの負担に耐え続けなければいけないし、BtoCビジネスであれば、広告宣伝費や販促用のインセンティブの負担も重くのしかかってくる。規模を拡大しなければ利ザヤが取れないビジネスなのに、競争者が増えれば増えるほど「規模を拡大するためのコスト」も無間地獄のように増えていってしまうのがこのビジネスの避けられない現実だけに、よほど尖ったサービスで、かつ、先行者利益がとれるくらいずば抜けた何か、がない限り、こういうスタイルのビジネスの座組を作ることは薦められないよなぁ・・・というのが、率直な実感である。

*3:この辺は、バルセロナ的なパスサッカーの美しさをあちこちで説き続ける監督が、いざ自分のチームの試合となれば「堅守速攻」で勝ち点を拾っていくことで、名監督としての地位を築き上げていく過程とも共通している。

*4:そんな会社も、多くは、この数年の「仕組み」のバックグラウンドの変化によって安定した地位を失ってきているし、この先、そういった傾向はより強まっていくように思えてならない。

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