ニュースと判決文を眺めただけでは分からない「リツイート最判」の本当の意義。

今年の春以降、全体的に裁判所の動きが悪くなっている中で、知財業界にインパクトを与えるような判決もあまり出てこない状況が続いていたのだが、ここにきて強烈なインパクトのある判決が出た。しかも最高裁から・・・。

ツイッターリツイート(転載)された画像の一部が自動的に切り取られる設定を巡る訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(戸倉三郎裁判長)は21日、「著作者の氏名を表示する権利を侵害した」との判断を示したツイッター社側の上告を棄却し、メールアドレス開示を命じた二審・知財高裁判決が確定した。」(日本経済新聞2020年7月22日付朝刊・第36面、強調筆者、以下同じ。)

一般メディアの報道ではどうしても伝わりにくいのだが、本件はあくまで発信者情報開示請求事件

そして、記事に出てくる権利侵害云々の話も、あくまでプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)4条1項の各要件該当性を判断する過程で示されたものに過ぎないから、今後、この判決の射程がどこまで及ぶかと言えば、まだ分からないところもある*1

第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

ただ、そもそも最高裁が判断を示すことさえ稀なこの分野で、著作者人格権侵害の成否に関する判断が示された、というのは大きな話だし、ましてやそれが多くのユーザーに使われているSNSプラットフォームの通常の利用場面での話ということになれば、やはりきちんと見ておかねば、ということにはなってくるだろう。

また、記事でも紹介されているとおり、本判決には職業裁判官出身の戸倉三郎判事(補足意見)と、外交官出身の林景一判事(反対意見)が極めて対照的な意見を書かれていることもあり、どうしてもそこで書かれている、リツイート者の負担云々、といった話に目を奪われてしまいがちになるのだが(そして、それ自体も、非常に大事なことではあるのだが)、本件を第一審から追っていくと、もっといろいろなものが見えてくるわけで、単に「氏名表示権侵害で発信者情報開示が認められてしまった」ということ以上の、この事件に込められた意味を、以下では読み解いていくこととしたい。

最高裁に来るまでに原告側が勝ちえたもの、失ったもの。

さて、どんな事件にも共通する話で、本件にも当然、第一審、控訴審はある。

そして、これらの判決を見ていると、今回の最高裁判決では、これまで「主戦場」と目されていたような論点への答えは必ずしも示されていないようにも思える。

まず、第一審判決(東京地判平成28年9月15日(H27(ワ)第17928号))*2から読み解いていくならば、本件の事案のベースになっているのは、

・本件で発信者情報開示の対象となったアカウントは5つ(いずれも氏名不詳者)。
・アカウント1を保有する氏名不詳者は、原告写真の画像ファイルを、原告に無断で自らのプロフィール画像としてアップロード*3
・アカウント2を保有する氏名不詳者は、原告に無断で原告写真の画像ファイルを含むツイートを行う。
・アカウント3~5を保有する氏名不詳者が、アカウント2のツイートをリツイートしたが、原告側は、「アカウント4、5保有者はアカウント2の保有者と自然人としては同一人物である」という主張を行っていた*4

という事実であり、(最後の点にどこまで信ぴょう性があったのかはともかく)アカウント1、2の氏名不詳者が行った行為(ツイート行為)が明白な著作権侵害に当たることは、本件写真が紛れもない著作物である以上争いようがない事案であった、ということが分かる。

また、それを前提に第一審で原告が主張したのは、以下のような点であり、実に多岐にわたっている。

・被告ツイッタージャパンが発信者情報を保有しているか(実質的削除権限の有無)*5
・アカウント1のツイート(プロフィール欄の画像)、アカウント2のタイムラインへの原告写真画像の表示が公衆送信権等を侵害するか?
・アカウント3~5のリツイート行為が原告の公衆送信権を侵害するか?
リツイート行為が原告の公衆伝達権を侵害するか?
リツイート行為が原告の複製権を侵害するか?
リツイート行為が原告の氏名表示権を侵害するか?
リツイート行為が原告の同一性保持権を侵害するか?
リツイート行為が、原告の名誉又は声望を害する方法による利用として著作権法113条6号に違反するか?
リツイート行為による権利侵害がプロ責法上の「侵害情報の流通によって自己の権利を侵害された」場合にあたるか?
リツイート者がプロ責法上の「発信者」に該当するか?
・「最新のログイン時IPアドレス」が(開示対象となる)「侵害情報に係るIPアドレス」に該当するか?

特に一番最後の「最新のログイン時IPアドレス」を開示させられるかどうか、という点に関しては、

「被告米国ツイッター社は,本件アカウント1~5に対応する各電子メールアドレス(別紙発信者情報目録(第1)及び同(第2)の各記載3),各アカウントへのログイン時のIPアドレス(同(第1)記載4)及びタイムスタンプ(同記載7のうち4項のもの。以下,アカウントへのログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプを併せて「ログイン時IPアドレス等」という。)を保有しているが,原告が請求するその余の発信者情報*6保有していない。(弁論の全趣旨)」(一審5頁)」

という前提に鑑みると、事件の性質上、極めて重要なポイントだったはずだ。

だが、第一審は、リツイート行為の著作権侵害著作者人格権侵害該当性を、

「本件写真の画像が本件アカウント3~5のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,流通情報3~5の各URLに流通情報2(2)のデータは一切送信されず,同URLからユーザーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,それ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1項)に当たることはないと解すべきである((東京地裁は、規範的な侵害主体論を展開する原告に対し、まねきTV最判を引用してそれを否定する、という珍しい判断も行っている(どちらかと言えば、侵害主体拡張の理屈に使われることが多い判決だけに・・・。この点については控訴審も同じ理屈で判断を下している)。ことツイッターの一般ユーザー側の視点で見れば、東京地裁の判決こそが常識的、かつ理想的なものだった、ということができるのかもしれない)。また,このようなリツイートの仕組み上,本件リツイート行為により本件写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず,画像ファイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし,本件リツイート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏名表示権侵害も成立しない。さらに,流通情報2(2)のURLからユーザーの端末に送信された本件写真の画像ファイルについて,本件リツイート者らがこれを更に公に伝達したことはうかがわれないから,公衆伝達権の侵害は認められないし,その他の公衆送信に該当することをいう原告の主張も根拠を欠くというほかない。そして,以上に説示したところによれば,本件リツイート者らが本件写真の画像ファイルを著作物として利用したとは認められないから,著作権法113条6項所定のみなし侵害についても成立の前提を欠くことになる。」
(以上、一審判決PDF・14~15頁)

とざっくり退けただけでなく、開示請求の対象についても、「本件において侵害情報が発信された上記各行為と無関係であることが明らか」として、「最新のログイン時IPアドレス」の開示請求を退けた

判決では、アカウント1のプロフィール画像が設定されたのは遅くとも平成27年1月21日、アカウント2のツイートがなされたのは平成26年12月14日、とされているから、第一審の判決の時点で既に2年近く昔の話、ということになり、「最新のIPアドレス」は侵害情報の発信行為とは無関係だろ、と言われてしまえばそれまでの話なのだが、かといって、メールアドレスだけで本人までたどり着けるかといえばそれもまた厳しいところで*7、第一審でアカウント1、アカウント2については一部開示請求が認められたにもかかわらず原告がさらに控訴して争った背景として、理解しておく必要があるように思う。

続いて控訴審判決(知財高判平成30年4月25日(平成28年(ネ)第10101号)*8

この段階になって判例時報にも収録され、多くの評釈者の関心を集めることになったのだが、ここでも争われたポイントは、第一審から大きく変わってはいない。
そして、原告(控訴人)側が力を入れていた主張の多くが退けられた、という点も同様である。

ただ、こと著作者人格権に関する争点についてだけは、知財高裁は、以下のとおり、異例ともいえる判断へと舵を切った。

ア 同一性保持権(著作権法20条1項) 侵害
「前記(1)のとおり,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えられているものではない。」
「しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プログラムやCSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。」
「この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさなどが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザーを改変の主体と評価することはできない著作権法47条の8は,電子計算機における著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が左右されることはない。)。また,被控訴人らは,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから,改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによって改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条4項の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。」
(以上控訴審判決PDF・36~38頁)

イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害
「本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人の氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プログラムやCSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができる。」(控訴審判決PDF・38頁)

「最新ログイン時IPアドレス」の発信者情報該当性をめぐって、憲法論にまで遡った激しい主張反論の応酬(判決文PDFベースで実に10ページ相当)がなされているのに比べると、これらの争点に対する控訴審での主張、反論は実にあっさりしたもののように見える。

それでも、同一性保持権侵害に関しては、被告側も以下のとおり相応の反論は行っていたのだが*9、それに続く氏名表示権に係る反論は実にあっさりとしたものである。

(ア) 同一性保持権(著作権法20条1項) 侵害について
「 a ブラウザ用レンダリングデータを侵害情報とする同一性保持権侵害についてクライアントコンピュータ上でのブラウザ用レンダリングデータの生成は,一般のインターネットユーザーがウェブサイトを閲覧する際に必然的に生じるものであり,しかも,ブラウザ用レンダリングデータがクライアントコンピュータ上で継続的に保存されることはないから,ブラウザ用レンダリングデータが生成されることのみをもって,本件写真に「変更,切除その他の改変」がされたということはできない。また,著作権法47条の8の「無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合」との文言は,一般のインターネットユーザーがウェブサイトを閲覧する際に,当該インターネットユーザーのクライアントコンピュータ上に著作物が複製されることについて,当該一般のインターネットユーザーが複製の主体(直接行為者)であることを前提としている。そして,この著作物の複製は,クライアントコンピュータ上でブラウザ用レンダリングデータが生成され,ごく一時的・瞬間的に蓄積されることを指している。したがって,一般のインターネットユーザーがツイート表示 URL のウェブページを閲覧する際に,当該一般のインターネットユーザーのクライアントコンピュータ上でブラウザ用レンダリングデータが生成される点を捉えるのであれば,その行為主体は,本件リツイート者らではなく,当該一般のインターネットユーザーであるというのが,著作権法上の帰結である。」
「さらに,仮に,一般のインターネットユーザー以外の者が行為主体であるとの前提に立った上で,ブラウザ用レンダリングデータが生成される際に本件写真がトリミング表示される点を捉えて本件写真に「変更,切除その他の改変」がされたということができるとしても,本件リツイート者らは,本件アカウント2の保有者によってトリミングされた本件写真を含むツイートをそのままリツイートしただけであって,本件リツイート行為の結果として本件アカウント3~5のタイムラインに表示される本件写真も,当該ツイートにおける本件写真と全く同じトリミングがされた形でそのまま表示されている。そうすると,「変更,切除その他の改変」を行ったのは本件アカウント2の保有者であり,本件リツイート者ら自らが「変更,切除その他の改変」を行ったということはできないから,本件リツイート者らによる同一性保持権侵害は認められない。」
「加えて,上記のようなトリミングは,ツイッターのシステム上,複数の写真を限られた画面内に無理なく自然に表示するために自動的かつ機械的に行われるものであって,「やむを得ない」(著作権法20条2項4号)改変と認められるから,本件リツイート行為について同一性保持権侵害は認められない。実質的な観点からみても,上記のようなトリミングは,リンク元のウェブページにリンク先のコンテンツを埋め込むという「埋め込み型リンク」を採用した場合に,当該コンテンツを無理なく自然に表示するために必然的に生じるものであり,リンク先からデータが自動的に送信されるというインラインリンクの特殊性とは全く関係がないことである控訴人の主張によると,「埋め込み型リンク」は全て違法という極めて非常識な結論を招くことにもなりかねない。この点からしても,本件リツイート者らが「変更,切除その他の改変」を行ったということはできず,仮に「改変」が認められるとしても,それは「やむを得ない」改変というべきである。」
控訴審判決PDF・17~19頁)

(イ) 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害について
「本件リツイート者らは,本件アカウント2によるツイートをリツイートしたにすぎず,本件写真の画像データを,公衆に「提供」も「提示」もしていないから,本件リツイート者らによる氏名表示権侵害は認められない。また,本件写真の画像データには,著作者名が表示されているから,本件アカウント2の保有者が本件写真をアップロードする行為について氏名表示権侵害は認められず,リツイートしただけの本件リツイート者らに氏名表示権侵害は認められない。」(控訴審判決PDF・19頁)

「メールアドレスの開示しか認めない」という結論は変わらないままリツイート者にまで対象を広げる、という結果となった控訴審判決。

皮肉めいた言い方をするなら、「発信者情報開示請求」の目的を達成したいという当事者の意図から離れて実効的な解決にはつながりにくい方向で盛り上がり、加えて、形的には”敗れた”被告・Twitter社側が必要以上の抵抗を試みた結果生まれたのが、今回の最高裁判決といえるのかもしれない。

最三小判令和2年7月21日(平成30年(受)第1412号)*10

ここで、ようやく今日の本題に入るわけだが、既にふれてきたように、最高裁判決で判断が示されたのは、控訴審まで争われていた論点のほんの一部に過ぎない。

著作権法19条1項は,文言上その適用を,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用により著作物の公衆への提供又は提示をする場合に限定していない。また,同法19条1項は,著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護するものであると解されるが,その趣旨は,上記権利の侵害となる著作物の利用を伴うか否かにかかわらず妥当する。そうすると,同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。」(判決PDF・3頁)

という、氏名表示権侵害の成立要件に関する判示は、これまで明確に述べられていなかった点を明らかにした、という点では意味があるだろうし*11

「被上告人は,本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより,本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである(なお,このような画像の表示の仕方は,ツイッターのシステムの仕様によるものであるが,他方で,本件各リツイート者は,それを認識しているか否かにかかわらず,そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており,上記の事態は,客観的には,その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また,本件各リツイート者は,本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて,他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。そして,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。」(判決PDF・4頁)

という行為主体の認定とその評価も、結論の当否はともかく、これでもなおいろいろと裏読みできる余地がある*12、という点では有益だと思う。

ただ、既に多くの方が指摘されているとおり、上告受理申立ての対象には間違いなくなっていたはずの「同一性保持権侵害の成否」に関する判断がここで示されていないというのは何とも・・・だし、その点に対する評価をしないまま、「氏名表示権侵害の成否」の論点だけで「リツイートをする者の負担」を補足意見で議論されても全くピンと来ないところはある。

そして、今回の判決を今後のネット民とSNSサービス事業者の「行動規範」としてどう生かすか、という観点で申し上げるなら、知財高裁レベルまでで決着がついている論点への判断と、最高裁が示した(ごくごく限られた)論点への判断を(そこに至るまでの考え方も含めて)見比べつつ、ここで気にせずにリスクをとるかどうかを判断するしかないよね、ということに尽きるような気がするのである*13

以上、最後にここまで奮闘された両当事者代理人に敬意を表しつつ、再度、本件の一連の論点のまとめを書き残して、本エントリーを終えることとしたい。

<各争点への判断>
(〇:原告側の主張を認めたもの、△:原告側の主張を一部認めたもの、×:原告側の主張を退けたもの>
1)被告ツイッタージャパンが発信者情報を保有しているか(実質的削除権限の有無) 第一審× 控訴審×
2)アカウント1のツイート(プロフィール欄の画像)、アカウント2のタイムラインへの原告写真画像の表示が公衆送信権等を侵害するか? 第一審× 控訴審
3)アカウント3~5のリツイート行為が原告の公衆送信権を侵害するか? 第一審× 控訴審×
4)リツイート行為が原告の公衆伝達権を侵害するか? 第一審×、控訴審×
5)リツイート行為が原告の複製権を侵害するか? 第一審×、控訴審×
6)リツイート行為が原告の氏名表示権を侵害するか? 第一審×、控訴審〇、上告審〇
7)リツイート行為が原告の同一性保持権を侵害するか? 第一審×、控訴審
8)リツイート行為が、原告の名誉又は声望を害する方法による利用として著作権法113条6号に違反するか? 第一審×、控訴審×
9)リツイート行為による権利侵害がプロ責法上の「侵害情報の流通によって自己の権利を侵害された」場合にあたるか? 第一審×、控訴審〇、上告審〇
10)リツイート者がプロ責法上の「発信者」に該当するか? 第一審×、控訴審〇、上告審〇
11)「最新のログイン時IPアドレス」が(開示対象となる)「侵害情報に係るIPアドレス」に該当するか? 第一審×、控訴審×

*1:これまで、著作権侵害が主要な争点となった発信者情報開示請求事件の下級審判決の中には、ちょっと首をかしげたくないようなものも散見されたのは確かで、昨年出された『著作権判例百選[第6版]』の中でも、発信者情報開示請求事件が素材として取り上げられているのは、本件の控訴審判決(後述)と、ライブドア裁判傍聴記事件(知財高判平成20年7月17日)の2件しかない。本件は原告・被告両当事者の代理人(特に原告側)がかなり力を込めて主張を展開されていたためだろうか、(結論の当否はともかく)ここまでの裁判所の判断も比較的しっかりしたものとなっており、さらに、今回、最高裁判決まで出た、ということになれば相応の先例性が認められる可能性はあるが、本当の意味でのリーディングケースになるかどうかは、裁判所が今回の判決を公式判例集民集)に掲載するかどうか、といったところも見ながら考えていく必要があるような気がする。

*2:民事第46部・長谷川浩二裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/185/086185_hanrei.pdf

*3:これはもう、どこからどう見てもけしからん行為である・・・。

*4:裁判所は証拠なし、として退けているが、なぜ本件でリツイートをした人まで(しかもわずか3人だけが)発信者情報開示請求の対象となったのか、ということを考える上では参考となりそうな情報である。

*5:これは別件訴訟等で、米国のツイッター本社ではなくツイッタージャパンが削除に応じてくれた、ということ等をもって主張されたものだったようだが、第一審、控訴審ともに原告の主張を退けている。

*6:原告が第一審段階で特定していた発信者情報目録では、1 氏名又は名称、2 住所、3 電子メールアドレス、4 使用アカウントにログインした際のIPアドレスのうち、本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいもの、5 使用アカウントにログインした際の携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号のうち、本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいもの、6 使用アカウントにログインした際のSIMカード識別番号のうち、本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいもの、7 上記第4項のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備、上記第5項の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は上記第6項のSIMカード識別番号に係る携帯電話端末等から、被告らの用いる特定電気通信設備に上記第4項ないし第6項の各ログイン情報が送信された年月日、が開示請求の対象とされていた。

*7:この点については、控訴審で原告側が、「ツイッター等においては,フリーメールのメールアドレスが利用されることが多く,電子メールアドレスを管理している事業者においてメール利用者の住所や氏名が保有されていないことがほとんどであることからすると,電子メールアドレスから発信者の特定に至ることは想定できない」(控訴審23頁)とまで主張しているところである。

*8:第2部・森義之裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/761/087761_hanrei.pdf

*9:そして「やむを得ない改変」に該当するとする主張の最後の方のくだりは、個人的には非常に共感できるところでもある。

*10:第三小法廷・戸倉三郎裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/597/089597_hanrei.pdf

*11:一部でこの結論を批判する見解もあるようだが、「著作物がないところ」で氏名表示権侵害を認めるというような場合であればともかく(中山信弘著作権法[第2版]』490頁参照)、著作物の法定利用行為に該当するかどうかで線引きするのは文理解釈としてもちょっと行き過ぎのような気はするので、上記解釈自体にそこまでの違和感はない。

*12:表示画像をクリックするように誘導すればよいのか・・・等。

*13:重要なのは、発信者情報開示請求事件で争われているのは、あくまで「サービス事業者に発信者情報を開示させるかどうか」であって、当事者であるサービス事業者自身の責任が正面から問われているわけではないし、ましてや、SNSのユーザーに至っては当事者ですらない、という事実も看過してはならないわけで、これが、まさに正面から著作権侵害著作者人格権侵害の責任を追及されるようなフェーズともなれば、また状況は変わってくるのではないかな、と思うところは当然ある(そもそも、損害賠償請求の成否に関しては、事案ごとに判断が分かれる可能性も高いのではないかと思料するところである)。

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