「平成30年度重要判例解説」より(その1)

タイガー・ウッズ復活優勝の話を取り上げようかどうか迷った末に、
今日は、こちらのネタで行くことにする。

年に一度、このタイミングで公刊されるこの「ジュリスト臨時増刊」号。
ちょっと前までは、ある程度フォローしている分野では、自分の中の過去1年の記憶と照らし合わせて、これは載ってる、あれは載ってない、みたいな、ささやかな楽しみもあったのだが、ここ数年は碌々裁判例なんぞフォローしていなかったから純粋に新鮮な気持ちで読める。

個人的には、「判例百選」等に比べると、元々解説の情報量は多めだし、年を経るにつれてさらに字数が増えているような気がして、久しぶりに評釈的なものを読む身にはちょっと辛いところもあるのだけれど、やはり、各章の冒頭の解説(「○○判例の動き」)で一年のトレンドを追える、という点でも、個々の判決に対する解説の手堅さから言っても、これに代わるものはなかなか出てこないだろうな、というのが率直な感想。

・・・で、すべてに目を通し切れたわけではないのだが、自分の関心ジャンルの中で一番面白いな、と思ったのは、

「知的財産法5 報道映像の引用 /東京地裁平成30年2月21日判決」(解説:蘆立順美・東北大学教授)*1

だろうか*2

事件としては、原告であるテレビ放送局(琉球朝日放送株式会社)が撮影したニュース映像(沖縄国際大学に米軍ヘリコプターが墜落した事故について撮影したニュース映像)34秒分を、映画製作会社である被告(株式会社シグロ)が沖縄の歴史を描いた148分のドキュメンタリー映画の中に、原告の名称を表示することなく使用した事件で、原告の上映権、頒布権、氏名表示件及び公表権侵害に基づく上映行為差止め、損害賠償等の請求に対し、被告が引用(著作権法32条1項)の抗弁等を主張して争った、という概要のものである。

蘆立教授の解説では、「本件の特徴は、著作権者の表示がないことを指摘して、公正慣行要件を満たさないとの判断が示された点にある」(265頁)として、「公正慣行要件」をめぐる学説の状況(「絶対音感事件控訴審判決」に対する学説上の批判が中心)と、本判決及び控訴審判決の判断内容(とその論旨の違い)を紹介することに多くの紙幅が割かれており、それだけでも非常に興味深いものになっている。

第一審、控訴審を通じて、判決において、

「広く引用の事案一般に出所表示が要求されるわけではない」(265頁)

というスタンスが貫かれているのは間違いないだろうが、判決での理由付けが第一審、控訴審で微妙に異なっていて、どのような場合に「出所表示がなくても公正慣行要件を満たす」といえるか、を見抜くのはかなり難しいと思われるだけに、実務サイドとしては、やはり慎重に、「引用」を主張したい場面では「著作権者の表示」を徹底する、ということになるのだろう、と思ったところである。

また、本件では、結論として、第一審、控訴審ともに引用の抗弁の成立を否定し、原告(被控訴人)勝訴、となっているが、「4 残された問題」の中で蘆立教授が取り上げている「仮に字幕やエンドクレジットに著作権者名が記載されていた場合に、引用の抗弁が成立するか」という点についても、いろいろと想像力をかきたてられるところはある。

「報道映像については、事実の伝達のため、広く利用を認める必要性が肯定される一方で、著作権者に対する経済的影響も無視できないと考えられる。本件は、本件使用部分が合計34秒に過ぎないことに言及しているが、さらにどのような要素を考慮すべきであるのか、利用の必要性の高さや最小限の利用であること等を要求すべきかなど、なお検討すべき問題は残されている。」(265頁、強調筆者)

ちなみに、自分は、この解説を拝読して、事案そのものに関心を持ったので、最高裁Webサイトに公表されている判決*3にもあたってみたのだが、その中では、被告側が公開前に原告に対して映像使用許諾申請をしたにもかかわらず拒絶された、という経緯*4や、その後映像使用を発見した原告側からのクレームに対し、被告側が「本件映画における本件各映像の使用はフェアユースに当たり,映像を提供しない合理的な理由を原告が説明すべきである」と主張した、といった経緯も出てきて、実際にこの手の交渉を手助けしてきた者としては、いろいろ考えさせられるところも多かった。

今のところ、本件のステータスは「上告・上告受理申立中」となっており*5、このまま新しい判断が示されずに不受理で確定する可能性も高いのだろうが、もし最高裁で公正慣行要件について何らかの判断が示されるようなことがあれば、次の著作権判例百選では、「絶対音感事件」(東京高裁平成14年4月11日判決)に代わる、新たな「引用」のテーマの収録判例になるんじゃないかな、と思った次第である。

・・・ということで、まずは今年の重判より、「その1」ということで、記事をアップさせていただいた。
「その2」以降を書けるかどうかはわからないけど、他にネタがない日には・・・(笑)ということで、いくつかストックしておくことにしたい。

*1:ジュリスト臨時増刊1531号・264頁。

*2:タイトルには地裁判決のみが引かれているが、解説ではその後出された控訴審判決(知財高判平成30年8月23日)の内容にも言及されている。

*3:第一審判決http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/497/087497_hanrei.pdf控訴審判決http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/950/087950_hanrei.pdf

*4:原告による許諾拒絶の背景には、「原告が加盟するANN協定の第10条に「加盟社は,それぞれが取材したニュース素材を相互に交換するものとし,加盟社外には提供しない。」との規定があった、という事情もあったようであり、この点に関しては被告が反訴の中で「共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号イ)」に当たる、という主張まで行っている。

*5:http://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=4981参照。