悪夢の後の大団円。

競馬の世界では、師走の恒例となって久しい冬の香港国際競走

古くはフジヤマケンザンの時代から、ステイゴールドの悲願のGⅠ制覇といった歴史を積み重ねて、ここ数年は日本馬が席巻している、と言っても過言ではないようなイベントになっていた。

今年遠征したメンバーを見ても、有馬記念で走る姿を見たかったような実力派揃い。

そのほとんどがノーザンファーム出身、かつノーザン系のクラブ法人の馬、ということで、国内のGⅠ路線を歩む馬たちとの”棲み分け”という大人の事情も多少は感じるのだが、それを差し引いても、すべてのレースで日本馬が勝ち負けに絡める可能性が高い、となれば、応援にも格別に力が入る。

実際、最初の香港ヴァーズで、2年前にタイトルを取ったグローリーヴェイズが「これでもか!」と言わんばかりの強烈な末脚で差し切ったシーンを見た時は、このまま全レースでど真ん中に日の丸が上がるなぁ・・・などという呑気な妄想に駆られたものだった。

だが、そんな楽観的な観測は、2戦目の香港スプリントで悪夢に変わる。

ロードカナロアの連覇以来なかなか日本馬には敷居が高いことになっていたこのレースも、昨年ダノンスマッシュが勝ったことで一気に手の届くレースになったし、今年に関しては、そのダノンスマッシュに加えて、3歳でスプリンターズSを制し今まさに上り調子のピクシーナイトと、どんなレースでも相手なりに走れるレシステンシアも加わって、かなり強力な三本柱が揃っていたから、普通に回ってくればどれか一頭は勝つ、うまくいけばワンツースリーも、というのが自分のレース前の予想だった。

それが4コーナー、レースが佳境に差し掛かったところで転倒した馬に巻き込まれる形で合計4頭が落馬する、という大事故に。

そしてその中の一頭にピクシーナイトもいた。

最初に転倒した馬が走っていたのは、運の悪いことに、全馬がまさにピッチを上げて進出してきていた真ん中から外寄りのコース。
外寄りの枠から発走して直線一気に・・・と狙っていたピクシーナイトやダノンスマッシュにとってはまさに最悪の巻き添えで、ピクシーナイトに関しては、鞍上の福永騎手が馬もろとも壮絶に地面にたたきつけられてあえなく競争中止

川田騎手が乗っていたダノンスマッシュは、転倒こそ免れたものの、この事故が完全なブレーキになって、ゴールまで馬を運ぶのがやっと、という状況になってしまった。

内側から進出していたレシステンシアだけは、後方の事故をしり目にいつものしぶとい脚で追い込んで2着に入ったものの、あの無残な光景を見た後では喜びも半減してしまう*1。。

さらに、時間をおいて開催された香港マイルでは、サリオスが意表を突く先行策でレースを作ったものの、そこから粘り込んで3着に入るのが精いっぱい。

地元の英雄、ゴールデンシックスティが16連勝を飾る中、ダノンキングリーやインディチャンプといった日本のGⅠホルダーたちは見せ場なく敗れ去ることになってしまった。

そして、そこまでの3レースで、日本調教馬グローリーヴェイズが1勝こそしたものの、その鞍上にいたのはモレイラ騎手。
2戦目、3戦目も、日本馬で最上位に来たのは、スミヨン騎手、レーン騎手が乗る馬で、川田騎手、福永騎手という日本のトップジョッキーがわざわざ騎乗しに行っていながら・・・という思いも当然あった*2

そのまま終わっていたら、いつになく後味の悪い香港国際競走になっていたことだろう。


それでも、最後の最後、日本馬が2連勝中だった香港カップの舞台に出てきた”真打ち”は、決して期待を裏切ることはなかった。

ドバイから飛んだ春の香港で念願の海外初タイトルを奪い取り、さらに日本調教馬史上初のブリーダーズカップのタイトルまで手に入れた無敵のオンリーユー、もとい、ラヴズオンリーユーがコースの内側からするすると脚を伸ばしてきた時、どれだけのファンが熱狂したか。

追い込んできたのがそれほどの馬とは思っていなかった人も多かったであろうGⅡ馬・ヒシイグアスだったのが意外といえば意外だったのだが、「あと一歩」のところからその差がそれ以上縮まることはなく、結果、堂々の海外GⅠ3連勝で有終の美。

壮絶な落馬事故であわや、の緊張を味わってから僅か2時間足らず。それでもそんなトラウマは微塵も感じさせることなく、豪快に追い込んでくるモレイラ騎手をそれに勝る必死のアクションで最後まで封じ込めた川田騎手の執念の騎乗も、騎手人生の中の大きな一ページとして歴史に刻まれるはずだ。


明と暗のコントラストはくっきりと分かれている。

バヌーシーの会員が最後の歓喜に沸く中、シルクレーシングの会員が今どんな思いでクラブからの次の報を待っているか、ということを考えると胸が痛む*3

グラスワンダーからスクリーンヒーロー、モーリスと受け継いだ血を引き継いで日本史上初の父系4代目GⅠホルダーとなっていたのがピクシーナイトという馬だけに、何としても血統をつないでほしい、という思いは当然あるのだが、その前に、まだ成長途上の3歳馬だからこそ、「次」の豪快な走りを、そして、来年の香港でのリベンジを見たい。そんな思いで今はいる。

*1:自分にとっては、今回の香港のGⅠで唯一馬券が取れたのがこのレースだったりもしたのだが、レース後は転倒した馬と騎手が気になって、とてもそれどころではなかった。

*2:しかも、福永騎手は、残念ながら先述した香港スプリントの事故で負傷し、香港マイル以降のレースは乗り替わりという散々な状況だった。

*3:現時点では剥離骨折、という情報まで。ピクシーナイトが骨折 4コーナーで1頭の落馬に巻き込まれ【香港スプリント】(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース 当初は歩様に異常を感じなかった、というレベルだけに、軽症で済むことを願いたいところだが・・・。

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