至極真っ当な結論と、敗れた者の潔さ。

ここ1、2カ月、機関法務系界隈を賑わせてきた関西スーパーマーケット株式交換差し止め仮処分申立て事件が、神戸地裁、大阪高裁と続いたシーソーゲームの末に、ようやく最高裁での決着をみた。

関西スーパーマーケットエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)傘下の食品スーパー2社との経営統合を巡り、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は14日、統合手続き差し止めを求めたオーケー(横浜市)の許可抗告を棄却する決定をした。」(日本経済新聞電子版2021年12月14日15時11分配信、強調筆者)

明日15日に予定されていた株式交換の効力発生日直前の決着。

かくして、一度は延期された関西スーパーのH2Oリテーリンググループ入りが果たされることになる*1

この件に関する自分の意見は、大阪高裁決定直後に書いたエントリーのとおりで、報道されている事実関係等を踏まえるなら、事実審ではない最高裁は淡々と抗告棄却すべき事案だと思っていたし、実際、最高裁の決定理由も「議決権行使者の意思が議案に賛成であることが明確だったなど、二審(大阪高裁)が認定した事実関係の下では、二審の判断は結論において是認できる」(前掲・日本経済新聞電子版)というものだったようだから、予想が覆されなくてよかった、という思いで今はいる。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

本件では、神戸地裁の判断を支持し、大阪高裁の判断に否定的な識者も多い。そして、そういった方々が指摘する、「争点となっていた株主(会場内で告知されていたルールによれば「棄権」とされるべき行動をとったが、会社側が「賛成」とカウントした株主)についてだけ賛成の議決権行使あり、とし、他の株主に同様の機会を与えないのは不公平ではないか」という趣旨のご意見は、一般論としては十分傾聴に値するものだと思う。

ただ、本件に関しては、仮に、「本当は『反対』の意思を持っていたのに会場で誤って白票を投じたために『棄権』扱いされた株主」がいたとしても、株式交換議案可決」という結論が変わるわけではない

また、「賛成」「反対」が、会場内での投票用紙への記載、という積極的な行動によって初めて行われるものである以上、「棄権したかったのに間違えて賛成に入れてしまった」というような主張が成り立たない、ということも、社会通念上明らかだと思われる*2

要するに、本件では、会場にいた他の株主がどうだったか、ということは、臨時株主総会決議の結果には全く影響を与えないのであって、争点となっていた株主の票の取扱いについてのみ判断を下せばそれだけで結論を出すには十分だった。

そして、その点について大阪高裁が事実関係の丹念な検討の下で当該株主の「賛成」への議決権行使を認める結論を出した以上、法律審である最高裁の舞台でそれをひっくり返そうと思ったら相当振りかぶった原理原則論を掲げなければならなかったはずで、それをすることが今後の株主総会運営に甚大なインパクトを与える懸念もあることを考えると、いともあっさりと許可抗告を退けた第2小法廷は実に良い仕事をされたものだと思う。

これまで激しい仕掛けを行ってきたオーケー側も、こういう結果となる可能性は十分予測していたようで、抗告棄却の判断が示されて間もないうちに、SNS等でも絶賛されるような見事なまでの潔さと裁判所へのリスペクトにあふれたリリースを出している*3

有力な法律事務所が代理人として付いていた、という事情もあるのだろうが、これだけ野心的なアクションを起こしてくる会社が次の機会を狙わないとは当然考えにくく、そういった場面にも備えた「イメージ戦略」なのかなぁ?と思ってしまうのはひねくれ過ぎだろうか。


また、関西スーパー側に目を移せば、会社側の提案が晴れて通ったからといって、そこから再編後の未来まで保障されているわけではない、というのは言うまでもないこと。

こうなった以上は、数年後に多くの株主が「あの時反対しておけばよかった」というような展開にならないように、この先数年、うまくことが運ぶことを願うばかりである。

*1:関西スーパーの適時開示はこちら。関西スーパーマーケット[9919]:株式交換差止めの仮処分に係る許可抗告の棄却決定に関するお知らせ 2021年12月14日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞 淡々と記されたリリースの行間からも安堵感が漂ってくるようである。

*2:これが会社と敵対株主の双方から提案が出されていたような総会で、賛成と反対をこまめに使い分けないといけないような場合なら、「勘違いして自分の意思と異なる方に投票してしまった」というような主張も認められる可能性が皆無とは言えないが、今回の臨時株主総会はそういった類のものではなく、会社の方針に賛成ならひたすら賛成票を入れていけばよいものだった。

*3:https://ok-corporation.jp/media/001/202112/%E9%96%A2%E8%A5%BF%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E6%A7%98%E3%81%AE%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BA%A4%E6%8F%9B%E3%81%AE%E5%B7%AE%E6%AD%A2%E3%82%81%E4%BB%AE%E5%87%A6%E5%88%86%E3%81%AB%E4%BF%82%E3%82%8B%E6%9C%80%E9%AB%98%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80%E3%81%AE%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf参照のこと。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html