7つの海を越えて行け!

昨年秋以降、国内で古馬GⅠを連勝し、明け4歳の今年もドバイで圧勝。

今年の第64回宝塚記念は、そんなイクイノックスのために用意された舞台となるはずだった。

単勝1.3倍の断トツ人気。スタート直後の激しい先行争いには見向きもせず、後方からじわっと進み、ペースがガクッと落ちた1000m過ぎからまくるようにポジションを押し上げる、いかにもルメール騎手ならでは、という展開。

最後の直線でこの馬の後ろにいたらもはや勝ち目などない、ということはどの馬の騎手も分かっているから、本来なら切れる脚をじっくり溜めておきたいジェラルディーナもジャスティンパレスも、3コーナーから4コーナーにかけて突かれるように前に進出していったが、イクイノックスが進んだのはあくまで我が道。

阻む者のいない外側に進路を取って最後の直線に入った瞬間、鞍上はほとんどノーアクションながら、先行していた馬たちの動きがストップモーションに切り替わり、ほぼ同じ位置から鮫島克駿騎手が必死に追うジャスティンパレスですら子供扱いされるが如くちぎられていく。

誰しもが決着ついた、と思った瞬間。だがそこからがドラマだった。

内側でごちゃつく他馬の影から突如姿を現したキャロットファームの勝負服の馬が一頭だけ次元の違う脚で迫る。

GⅠタイトルを持つ同じ勝負服の他馬と名を呼び間違えられたのも何のその、それまで牝馬限定GⅢのタイトル一つしかもっていなかった馬が最後はあわやのクビ差まで迫り、その名を知らしめた。

5歳牝馬スルーセブンシーズ。その名の由来は「七つの海を越えて」

それまでの戦績に加え、父馬は自身の競走成績も、そして種牡馬としても”いぶし銀”的な地味さのあるドリームジャーニー*1だから、10番人気という評価も当然理解できるところではあったのだが、そこで父の主戦騎手だった池添謙一騎手が最高の見せ場を作ったのだから、競馬というのはどこまでも分からないし面白い。

そして自分がゴールの瞬間思い出したのは、この馬が今年現時点で3頭しかいない凱旋門賞登録済みの日本馬の1頭である、ということ*2

今年の4月、クラブのウェブサイトでこの馬を「凱旋門賞に登録」した、という報に接した時、本気か?と思った。

だが、冷静に考えれば、この馬の父は日本馬数少ない好走歴を持つオルフェーヴルの全兄であり、ステイゴールドの血を引いている。

そこにこの日の走りが血統背景プラスαの実績を加え、様々な不安要素をかき消した。

こうなれば陣営は迷わず秋のフランス参戦を決断できるだろうし、血統が血統だけに、今度こそ池添騎手で・・・という話になっても全く不思議ではない。

最後は勝利を確信した騎乗をしていたイクイノックスに「クビ差」まで迫ったというだけで、”イクイノックス級”と評するのはさすがに無理があるし、ここ2年の状況を見ても宝塚記念で好走したくらいで本番に結び付く走りができる保証は全くないのだけれど、この意外性をもってすれば、日本馬が阻まれてきた壁に大きな「穴」をあけることを夢見ても怒られないような気はしている。

宝塚から世界へ。ここから始まる長い夏を超えた先に”ロンシャンの奇跡”があることを信じて、静かに待つこととしたい。

*1:とはいえ、2009年に夏冬のグランプリレースを完全制覇しているのだから、並の馬ではないのだが・・・。

*2:news.netkeiba.com参照。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html