勝っても負けても「牝馬」が主役だった有馬記念2019

月日が過ぎるのは早く、今年も競馬開催は遂に最終章。
そして、めでたく有馬記念の日を迎えた。

ここ数年と同様に、今年も有馬記念の日は年内最終開催日ではないのだが*1、気持ち的には、今日が今年の終わりで、次の土曜日から2020シーズンが始まる、という感覚の方がしっくりくる・・・というくらい、一年を象徴する馬が揃ったグランプリレースとなった。

馬柱に載った16頭、全て見回しても「なぜここにいる?」という馬は一頭もいない。

今年のG1馬、という条件でリストアップしても、大阪杯アルアイン(牡5)、皐月賞・サートゥルナーリア(牡3)、天皇賞・春・フィエールマン(牡4)、宝塚記念(&コックスプレートリスグラシュー(牝5)、菊花賞・ワールドプレミア(牡3)、天皇賞・秋(&ドバイターフ・アーモンドアイ(牝4)、ジャパンC・スワーヴリチャード(牡5)と、実に7頭が揃った。これに今年は無冠だがGⅠタイトルはちゃんと持っているレイデオロ、キセキ、シュヴァルグラン、アエロリット、といった面々が続く。

海外も含めたローテーションの多様化でタイトルホルダーが分散している、という事情はあるし、これらのメンバーを含む12頭が同じ牧場(ノーザンファーム)の生産馬で占められている、という業界的には決して好ましくない話題もあるのだが、それでもこれだけ豪華なメンバーのマッチアップとなれば、当然面白みも増す。

そして、それにもかかわらず、事前のオッズは、中山コース未経験、2500mの距離も???だったアーモンドアイが1.5倍の一本かぶりになっていたことが、馬券好きの挑戦心も刺激した。

本当なら、芝2000mの香港カップに出て圧勝劇を飾るはずだった馬が、たった一日の熱発で目標を変更。
フィエールマンの鞍上に決まっていたC・ルメール騎手を「強奪」し手まで体制を整え、国枝調教師をはじめとする陣営も決してネガティブな発言はしていなかったとはいえ、本当にグランプリホースの座を狙っていたのであれば、最初から有馬記念直行のローテーションを組んでいたはず。

いかに規格外の馬といっても、有馬記念は”寄り道ついで”でとれるようなレースではなく、独特のコース形態への適性によっても大きく結果は左右される*2

それゆえ今回は「消し」と割り切ったところから、自分の有馬記念での久々のクリーンヒット(?)は生まれた。


ゲートが空いた瞬間に飛び出したのは、このレースを引退レースと決めているアエロリット*3

そう来るだろうな、というのは当然予想していたのだが、鞍上の津村騎手が「2500m」という距離を全く意識しないかのようないつものペースで飛ばすは飛ばす・・・
最初の1000mが59秒を切る、という速いラップ。しかも、最初にポンと出てのんびり独走、という雰囲気ではなく、「道中のペースを澱めない」というこの牝馬の真骨頂の逃げっぷりで、前に行ったメンバーにとってはかなりきついレースとなった*4

凄く速いペースで逃げているのに、最後の直線に入るまで「このまま逃げ切るんじゃないか?」という粘り腰を見せるのがアエロリット姉さんの規格外なところで、それが「2500mのレース」ということが分かっていながら、勝つことを義務付けられたアーモンドアイや、乗り替わりで一発狙いの池添騎手&フィエールマンに、4コーナー手前でポジションを押し上げさせた一因でもあると思うのだが*5、それも結局は落とし穴。

アーモンドアイは、内寄りのコースで一瞬抜けようとする雰囲気を見せつつも力尽き、デビュー以来誰も見たことがなかった「馬群に沈む」シーンを初めて披露することになってしまったし、フィエールマンもいつものはじけるような末脚にはとんとお目にかかれず*6

代わって、別次元の脚を発揮したのが、2番人気だったリスグラシュー

そして、先に出ていたサートゥルナーリアがそれに続き、名手・武豊騎手が満を持して馬場の一番良いところを通って最後方から追い出したワールドプレミアがクビ差まで迫る3着*7

かくして、過去10年の複勝率90%だった1番人気馬は圏外に飛び*8、2~4番人気が人気通りに上位に並ぶ、という結果ながら、3連複は10000円超、3連単となると5万円超*9、という「競馬を知っている人々」にとっては実に美味しい結果となったのである。

3歳、牝馬クラシック時代のじれったい走りっぷり(本番だけでなくトライアルでも勝てない)や、適性はマイルか?と勘違いさせた4歳前半のことを考えると、それ以降のリスグラシューの「成長」ぶりはそれまでの一流馬の常識を覆すようなものだったと思うし、特に下馬評を覆す香港での2度の快走を経て、何かが吹っ切れたかのようにキセキ、スワーヴリチャードらをなで斬りにした宝塚記念(2着以下に3馬身差)あたりからの上昇度は、ハーツクライという種牡馬の特性を考慮しても、ちょっと信じがたいものがあった。

もしかしたら、馬自体の成長に加え、今年の夏のレーン騎手との出会いがこの馬に足りなかった最後のピースを埋めたのかもしれないが*10、それにしても、このグランプリレースで「5馬身」突き放すとはなんということか。

近いところではオルフェーブル(2013年、8馬身)、もっとさかのぼるとその10年前のシンボリクリスエスの9馬身差、というのもあるが*11、今回の着差はほぼそれらに次ぐもので、歴代4位の圧勝劇である。しかもくどいようだが、これだけ役者がそろっていた今回のメンバーを相手に、である。

このレースを最後まで引っ張ったのがアエロリットという稀代の快速牝馬でなかったら、「最強馬」の看板を背負っていたのがアーモンドアイでなかったら、そして、何よりも、引退するその時まで進化を遂げ続けたリスグラシューがこのレースに出ていなかったら、これだけ面白い決着にはならなかったはずで、その意味でまさに「牝馬」が全てを独占した有馬記念だった、というのが今年の総括になりそうなのだが、今自分が思っていることはただ一つ。

有馬記念で馬券を取ると気持ちいいなぁ・・・

それに尽きるのである。

*1:28日に最後の開催日&最後のGⅠ・ホープフルSが予定されている。

*2:ここしばらく菊花賞勝馬有馬記念で好成績を残し続けているのも、「そこそこスタミナを消耗したところでの瞬発力勝負」という共通点があるからだと自分は思っていて、そこから出てきたのが、ワールドプレミア本命、という今年の予想でもあった。

*3:クラブ所属のノーザンファーム生産馬は、大体6歳3月までには引退させる、というルールになっているようで、リスグラシューとともに早々と「引退」の方針が発表されていた。

*4:結果的に、スティッフィリオ13着、クロコスミアが最下位16着、アルアイン11着、エタリオウ10着、と前に行った組はほぼ例外なく壊滅した。

*5:単純にかかっていて制御が利かなかっただけ、という可能性もあるが・・・。

*6:それでも4着に粘る根性は見せているだけに、池添騎手がもうちょっと我慢していれば…と思わなくもなかった。

*7:この武豊騎手の騎乗も、正直評価は分かれるところかなぁ。とは思うのだが(少なくとも勝ちに行く騎乗ではなかったように思えたので)、「3着に入ってくれればいい」という馬券を組み合わせていた自分にとっては、ミッション完遂!と称賛したくなるような手堅い騎乗だったと思う。

*8:記録を辿ると、ゴールドシップが有終の美を飾れなかった2015年以来4年ぶりの出来事だった。

*9:もちろん、自分はこんな派手な馬券には縁がないのだが、それよりむしろ大事なのは、手堅い系の馬券でも「4ケタ」の配当が付いたことにある。

*10:本当にこの有馬記念に乗るためだけ(正確には中山競馬場初騎乗、ということに配慮してか、有馬と同条件のグッドラックハンデを加えた2鞍だけ、に騎乗する形となった)に1日限定の短期免許でレーン騎手を呼び寄せた矢作調教師の執念も讃えなければならないだろう。

*11:いずれも引退レースだった、というのが興味深いところである。その先の競走生活のことを考えずに、ただ強さを誇示することが許される、という舞台だからこそ、の結果ともいえる。

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