世界最強馬の意地と、この先の未来と。

3年前のアーモンドアイを超える単勝1.3倍。

昨年のこのレースからの怒涛の連勝街道を見れば、今年の天皇賞(秋)の出走馬の中でイクイノックスが一番強い馬であることは容易に分かっていた。
だが、これほどまでとは・・・。

「世界最強馬」の引き立て役になることを嫌気したか頭数は過去10年でもっとも少ない11頭。本命馬と同世代のダービー馬・ドウデュースこそ出走していたものの、ここ2年ほど主役を演じていた3歳馬の姿はなく、他のGⅠタイトル保持馬もジャックドールとジャスティンパレスくらい。

久々の”天覧競馬”にしてはちょっと寂しい顔ぶれではあったが、それがレースの”濃さ”につながった。

いつも通り、ゲートを出るなり飛び出して、かまわず逃げるジャックドール。そこにピッタリ追走してぺースに緩みをもたらさなかったガイアフォース。
結果、最初の1000mのラップは、昨年のパンサラッサとも遜色ない57秒7。

その後を追走していたのがイクイノックスだったから、本来なら「波乱」を期待する雰囲気になっても不思議ではないのだが、それを全く感じさせないのがイクイノックスの「余裕」のなせる業。

失速するジャックドールを横目に直線さっさと先頭に立った後は、後続を寄せ付けることなく流して2.5馬身差でゴール。
そして、掲示板に表示されたタイムは、一瞬目を疑うような1分55秒台、驚異的な世界レコード・・・。

イクイノックスを意識してか比較的前に付けていたドウデュースが見せ場なく7着に敗退したのに対し*1、直線勝負に賭けたジャスティンパレスとプログノーシスがきっちり2着、3着に入ったところからして、今年の天皇賞(秋)がハイペース、追い込み馬優位の展開だったことは疑いないのだが、そんなことにはお構いなく・・・という感じの圧巻の競馬。

「世界最強」の称号も決して大げさではない、そんな強く、美しすぎる勝利だったように思う。


・・・で、ここまでの「1強」ぶりを見せつけられてしまうと、どうしてもその背景に思いを馳せざるを得ないわけで・・・。

一年前の夏に「国内最強」と目されていたのはタイトルホルダーだったし、3歳馬ではドウデュースの存在感がイクイノックスを圧倒していた。
彼らがそのまま秋の天皇賞から国内の王道路線を歩んでいたら、今年の天皇賞(秋)の顔ぶれも、人気分布も大きく異なっていたことだろう。

だが、昨年秋の「凱旋門賞」で生まれた空白が、古馬路線の勢力図を大きく変えてしまった*2

日本で応援するファンのことを思えば、国内のレースに集中する、という選択が批判されるいわれはないし、去年までの「猫も杓子も凱旋門賞」というムードを是とするつもりもない。

ただ、春にドバイで世界を唸らせた馬が、充実の4歳秋になっても国内で”防衛戦”を戦い続けている、ということに違和感がないと言えば嘘になる。そして何よりも、「挑んだ」馬が報われていない今の現状が、この先、日本競馬にとってプラスになるのかどうか、なかなか悩ましいところでもあったりする。


この日、余裕をもって叩き出した「1分55秒2」というタイムは、国内にとどまるイクイノックスが世界に示した意地。
続くジャパンカップでも、陣営は存在感を発揮する気概をもって一戦に臨むのは間違いない。

戦う相手に一線級の外国馬がいなければ、「世界最強」の称号はいつまでも空回りする、そんなモヤモヤは残るところではあるのだけれど、次のレースでも、せめてレースの中身で、映像で、世界を圧倒してほしい、と今は願うばかりである。

*1:この辺は、レース直前で武豊騎手が負傷し、戸崎圭太騎手に乗り替わったことが影響していないとはいえない。「対抗」馬として人気になっている以上イクイノックスについていく、というレース運びは常識的に考えれば教科書通りだとしても、あれだけのハイペースなら終いに賭ける手はあったかな、と思ってしまうのは結果論に過ぎるだろうか。

*2:このことは今年の初めにも書いた。何がこの差を付けたのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

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