何か凄いものを見て心が震えた時はすぐに書き残さなければだめだ、ということは、身に染みて分かっていたつもりなのだけど、またしても後悔。
先週末、「あの瞬間」を見終わった後、一つの勝利のあまりのスケールの大きさにぼんやりとし、我に返ったのち、慌ただしさにかまけて「今夜書こう」、「ダメだ明日にしよう」と引きずっている間に、余韻を一瞬にして打ち砕くようなニュースが現れて、全てが白紙に戻ってしまった。
ジャパンカップ、イクイノックスの完璧すぎた勝利。
そしてその数日後に訪れたファンにとっては残念過ぎる「引退」。
自分も、昨日今日競馬を見始めた人間ではないから、「強い馬」の引き際がどういうものか、ということは理屈では分かっている。
有馬記念は昨年勝った。年明けのドバイも会心のレースで既に制している。あえてリスクを取ってその先の凱旋門賞に陣営が挑ませるとも思えないし、国内外で22億円超も稼いでしまった馬にとって、「賞金のために」どこかのレースを走らせる、などという選択肢はもはやない・・・となれば、このタイミングで引退発表、となるのは、これ以上ないくらい必然である。
これが個人馬主の馬だったら、それでも「ファン投票1位の有馬記念までは走らせて・・・」ということになったのかもしれないが、イクイノックスがノーザンファーム系のクラブ法人の馬である以上、何よりも優先されるのは経済合理性。
ジャパンカップを圧勝して、名実ともに「ナンバーワン」であることを世界に知らしめたその瞬間にスタッドインさせる、という判断を誰も責めることなどできないだろう*1。
とはいえ、何度でも語りたいのは、
ハイペースで3番手先行の後の上がり33秒5。
である。
昨年とはうって変わって「オールスター」といえるだけのメンバーが揃った上に、これ以上ない逃げを打ったパンサラッサに始まって、番手で「単騎」先行の形を作ったタイトルホルダー、好位追走からしっかり直線で伸びた今年の三冠牝馬(リバティアイランド)と去年の二冠牝馬(スターズオンアース)、さらには溜めた脚を爆発させたドウデュースにダノンベルーガ、はたまた昨年の覇者、ヴェラアズールまで、注目された馬はほぼ全て例外なく「自分の競馬」ができていた。
にもかかわらず、最後の直線、余裕の手ごたえで先頭に立って、最後まで自然体で走り切ったイクイノックスが、後続に付けた着差は4馬身差。
感嘆の言葉しか出てこない、そんなレースのたった4日後に「引退」という言葉は聞きたくなかった。
開催が変わり、前週までの静かな2場開催とはうって変わって、中山・阪神・中京、と慌ただしくレースが進んだこの週末。
メインの旧ジャパンカップダート*2は、今年のフェブラリーSまで(ほぼ)無敵を誇っていたレモンポップが、距離不安を跳ねのける形で見事な逃げ切り勝ちを飾り、その結果、自分のシンプルな馬券も的中したが、だからといってイクイノックスが開けた心の穴が埋まることはなかったし、仮にデビューから5連勝中だったセラフィックコールが無敗のままこのレースを制していたとしても、その感覚に大した変わりはなかっただろう(結果は10着。ダートの世界も決して甘くはない。戦力拮抗、という点ではむしろ芝以上に厳しい)。
開催週を重ね、次々と飛び込んでくる新しいレース、新しい馬の情報を大量に浴びていけば、一頭の馬がここで引退した、なんて記憶もいずれ薄れていくことは分かっている。
ただ、今この時点においては、走りを重ねれば重ねるほど「底」が見えなくなっていた稀代の名馬の「次」を想像する楽しみが失われた、という現実が全てだったりもするわけで、何とも言えない思いであと1ヶ月くらいは過ごすのだろうな、という思いで今はいる。
*1:三冠+有馬記念制覇で一度は「最強馬」の名をほしいままにしていたにもかかわらず、故障後の現役続行でボロボロになって引退したナリタブライアンの悲しい運命などを思い返すと、なおさらその思いを強くする。
*2:チャンピオンズカップの名称に変わって久しいが、自分はどうしても古いレース名で呼びたくなってしまう。