今年もめぐってきた年末の大一番、第68回有馬記念。
本来なら、新型コロナ禍も完全に明けた今年、3世代にわたるダービー馬をはじめとするGⅠ馬たちがずらりと顔を揃え、場内に詰めかけた大観衆の後押しも受けて、これぞシーズンの締めくくり、とも言うべき華やかな舞台となるはずだった。
だが、馬柱を見れば見るほど湧いてくる拭い去れない寂しさ。
単勝10倍を切る馬は実に7頭、上位馬の人気が拮抗すればするほど、イクイノックスの残像が頭をかすめた。
破竹のGⅠ6連勝、特に今年の秋、天皇賞(秋)とジャパンカップで完膚なきまで他馬を圧倒したままターフを去ったあの馬には、既に「2年連続年度代表馬」の地位が約束されている。
それはすなわち、出走馬が今日のレースでどれほどのパフォーマンスを発揮しても「真のNo.1」にはなれない、ということを意味するし、それゆえ、どうしても純粋に勝負の行方を見届けることよりは、美味しい馬券を取りに行く方に目が行ってしまう、という方も多かったのではなかろうか。
蓋を開けてみれば、6番人気に甘んじていたかつての古馬の総大将・タイトルホルダーがこれまでにないくらいの絶妙な逃げで馬群を引っ張り、あわやそのまま・・・というところで、昨年のダービー馬・ドウデュースが見事に差し切る、という近年稀にみる好勝負。
鞍上の武豊騎手が、今日の中山の乗り鞍をこのレースだけに絞った、というニュースを聞いた時点で、これはドウデュース一発あるかもな、と思ったのは事実で、去年の皐月賞のレースぶりから中山競馬場で強くは推しづらかったものの、自分もこの馬に一応印をつけていた。だが、実際に見せたパフォーマンスはそんな中途半端なスタンスをあざ笑うような次元を超越したレベルのもの。
早めに前を追いかけてまくり、最後の直線では既に3番手に付けていながら、溜めた脚でさらにそこからもう一伸びし、最速上がりで決める・・・。
仕掛けどころも含めて鞍上の名手・武豊騎手の持ち味が最大限発揮されたようなレースだったし、それに応えた馬も実に見事だった。
そして再び蘇ってきたジャパンカップの残像・・・。
全体を眺めれば、ソールオリエンスやスルーセブンシーズのように本領を発揮できなかった馬がいなかったわけではないが、ジャスティンパレスやシャフリヤール、タスティエーラといった上位馬の多くは自分のレースに徹し、その結果好勝負を演出した。
唯一ジャパンカップと異なるのは、「自分のレース」で競り合った当事者の中に頭一つ抜け出した存在がいなかった、という点に尽きるのだが、逆に傑出したがいないがゆえにこれだけしびれたレースになったともいえる。
年末でキャリアを終えるのはイクイノックスに限った話ではないから、今日このレースで相まみえた馬たちが再び他の舞台で再戦する保証も全くない。
でもだからこそ今日の一瞬での勝利には大きな意味があるし、そこできっちりと勝ちきったところに「ダービー馬(とそれを操る名手)の底力」を感じたのは、決して自分だけではなかったはずだ。
年明けから、この国の競馬の世界がどの馬を中心に回っていくことになるのか、今は全く予想もつかないのだけれど、今日のこの日に限っては、
「まずはドウデュースに祝福を!」
ということで間違いはない。
そしてこの余韻が、1か月前にぽっかり空いた穴を少しでも埋めてくれることを今は願うばかりである。