「新聞記事見出しフリーライド事件」判決の衝撃

自己のホームページ(以下「YOL」)上の記事見出しを不正に使用した、として
読売新聞社が有限会社デジタルアライアンス社を相手取って起こしていた
訴訟事件の判決が、10月6日に知財高裁(塚原朋一裁判長)で出された*1


結論としては、著作権侵害を否定した上で、不法行為の成立を認め、
被告側に損害賠償の支払いを命じたものであるが、
命じられた賠償額が、
23万7741円という請求額(2480万円)の100分の1に満たない額だったこともあり、
当初は、大した判決ではないと高をくくっていた。


だが、良く判決文を読んでみると、
戦慄が走るような衝撃的な判決であることが分かる。


どのあたりが衝撃的なのか。
原審(東京地判平成16年3月24日・飯村敏明裁判長)と比べて見よう*2


被告であるデジタルアライアンス社が行っていたサービスは、
「Yahoo!ニュース」のサイトに掲載されている
各新聞社のネット配信ニュースの見出しを、
各記事ページへのリンクと合わせて登録ユーザに配信する、というものであった。


これに対して、原告である読売新聞東京本社は次のような主張をしている。


①被告の行為は、自己のホームページ(YOL)上の見出しの複製権等の侵害にあたる。
②被告の行為は、YOL上の記事の複製権侵害にあたる。
③被告の行為は、不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)の不正競争行為にあたる。
④被告の行為は、不法行為にあたる。


このうち、②、③については控訴審で追加された主張であり、
②については複製権侵害を根拠付ける要件の主張の不存在*3
③については「商品の形態」の解釈論*4により、
いずれもあっさりと退けられているのだが、
問題は、①と④に対する知財高裁の判断にある。


①の主張については、
原審の段階から、読売新聞側もかなり力を入れていたようで、
例えば、「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」という見出しを持ち出して、

 同YOL見出しを作成した記者は,夫婦水入らずの仲睦まじい様子と,足湯をしている様子を同時に連想させるために,「アツアツ」という言葉を用いて,A夫妻のホッとした心情を,端的に,より写実的に,インパクトをもって読者に印象付けようとしている。また,全体的に韻を踏んでリズミカルな表現に仕上げ,印象度を高めている。そして,「アツアツ」という言葉が記事本文中では使われていないことにかんがみると,このような言葉を用いたこと自体がまさに同YOL見出しを作成した記者の個性の表れと評価できる。

と主張するあたりは、コミカルな感さえ受けるのだが、
結果としては、知財高裁でも各見出しの著作物性は否定され、
著作権侵害の主張は認められなかった。


しかし、問題はその判示した内容にある。


原審は、

①YOL見出しは,その性質上,簡潔な表現により,報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり,表現の選択の幅は広いとはいえないこと,②YOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され,多くは20字未満の字数で構成されており,この点からも選択の幅は広いとはいえないこと,③YOL見出しは,YOL記事中の言葉をそのまま用いたり,これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ,これらの事実に照らすならば,YOL見出しは,YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり,著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当するものと認められる。

ということから、YOL見出し一般について著作物性を否定したのであるが、
知財高裁では、

一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
 しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。

として、各見出しを個別具体的に検討した上で、著作物性を否定した。


これまで、新聞記事自体が著作物にあたる、という考え方は
一応受け入れられていたものの、その「見出し」については、
まさに地裁判決が述べたような理由により、実務上著作物性はないものとして
扱うのが一般的であった*5


しかし、知財高裁の判決によれば、
一件一件、見出しの著作物性を判断した上で使わないと、
著作権侵害の責任を負う、ということになりかねない*6


それでも、結論として著作権侵害は否定されているから、
この点に関してはあまり気にしなくて良いのかもしれないが、
問題はその次である。


④の主張について、原審は次のように判示している。

 YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。

著作権法等によって、原告に排他的な権利が認められない以上・・・」
というのは、競走馬の名称の使用をめぐって、
同じ飯村裁判長の法廷が出した判断と同じであり(ダビスタ事件)、
また後に最高裁が出した判断とも同じである(ギャロップレーサー事件)。


「何らかの排他権が法定されていない限り情報の使用は自由である」
というのは、知的財産法の世界における通説的見解であり、
正面から物のパブリシティ権が認められない最大の理由もここにある。
だから、地裁判決は、これまでの判例の傾向からすれば、
至極妥当なものであった。


だが、知財高裁は、次のように判示した。

 本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
 そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。

このような判断に至ったのは、
おそらく、原告・読売新聞社側が、
控訴審において、「見出し」の作成に当たっての労力や、
記事・見出し配信サービスがビジネスとして行われている実態を
丁寧に立証したゆえであろう。


弁護団を入れ替えてでも、本事案での「名」を取ることを狙った、
新聞社側の執念には感服せざるをえない*7


だが、事実認定の問題とはいえ、
「著しく不公正な手段」とまではいい難い被告の行為について*8
不法行為の成立を認めたことは、
今後の同種の事例に対して、大きなインパクトを与えることは間違いないように思う。


知財高裁は、不法行為に基づく損害賠償額の算定にあたって、
実に歯切れの悪い判示を行っている。

 しかしながら,上記損害額(編注:使用料相当損害額)は,控訴人が著作権侵害を理由とする損害賠償請求でも主張している損害額であり,被控訴人の侵害行為によって,控訴人が著作権等の対世的な特定の権利を有することを基礎にするものであり,仮にそうでないとしても,被控訴人のような立場にある者は控訴人の希望する特定の契約条件で契約締結すべきであることを主張することができることを前提にするものであり,上記損害額をもって直ちに控訴人に生じた損害であると速断することはできない。殊に,被控訴人の主張に照らしても,被控訴人がライントピックスサービスを一定期間行っていたからといって,その分,控訴人のYOL見出しにアクセスする数が現実に減少したなどの事情が証拠上認めることができないのであるから,この視点からは,控訴人には実損害が生じているわけではないともいえなくもない。しかしながら,そうであるからといって,他人の形成した情報について,契約締結をして約定の使用料を支払ってこれを営業に使用する者があるのを後目に,契約締結をしないでそれゆえ無償でこれを自己の営業に使用する者を,当該他人に実損害が生じていないものとして,何らの費用負担なくして容認することは,侵害行為を助長する結果になり,社会的な相当性を欠くといわざるを得ない。そうすると,結局のところ,被控訴人が行った侵害行為による控訴人の損害及び損害額については,控訴人と被控訴人が契約締結したならば合意したであろう適正な使用料に相当する金額を控訴人の逸失利益として認定するのが相当である。

その上で、民訴248条を持ち出して、1ヶ月につき1万円で損害額を算定する、
という実に強引な(笑)結論を出しているのである*9


だが、繰り返しになるが、
逡巡しつつも、ここで知財高裁が不法行為の成立と損害賠償を認めたことは、
「非権利」的ライセンスビジネスの実務に大きな影響を与えるように思われる。


労力をかけて作成した「見出し」を、
何の「あいさつ」もなしにネット上で利用する被告の行為は、
確かに褒められたものではない。


しかし、これまでの考え方では、
法定された排他権が存在しない限り、
「あいさつ」を法の力で強制することは認められない、はずだった*10


微々たる額とはいえ、
「法」によって「あいさつ」を強制することが認められることになれば、
これまで手をこまねいていた「フリーライダー(「あいさつ」しない輩)」に対して、
非権利的「権利」の保有者がより強硬な姿勢に出てくることも考えられる。


多くの会社にとっては、痛し痒し、といったところだろうか・・・。


なお、この問題の大きさを鑑みると、
是非とも最高裁で判決が出ることを期待したいところであるが、
不法行為の成否は、事実認定の問題に過ぎないともいえるため、
上告受理申立が通るかどうかは微妙なところだろう。


控訴審における被告(被控訴人)の主張には、
以下のようなものもあるので、いっそのこと、
「情報の流通の自由」あたりを前面に出して、
憲法論で攻める、という手もあるだろうか・・・?

 被控訴人は,ライントピックスサービス開始前から,一般市民の手による草の根情報共有ということをインターネットの世界の理想としてきたが,近時,急速にリンクとコメントを通じて相互コミュニケーションが可能なブログ(ウェブログ)や,見出し配信を行うRSSRDF Site Summary)といった技術,ソフトが広がり,RSSにより見出しを無料配信する既存報道機関も次々と現れている。
 控訴人は,インターネットを介してYOL見出しだけを一つの「商品」として活用する「新聞社としての将来を掛けた控訴人の新たな事業」などと述べるが,時代の流れは,むしろ被控訴人の主張のごとく,「見出し」をインターネットユーザ全体が共有する方向に向かっているのであって,控訴人の本件のような主張が無意味と化す日も近い。
また,控訴人は,ライントピックスサービスが違法でないとすれば,ニュース記事の配信を有料とせざるを得ないが,それでは国民の知る権利に答えられないなどと述べるが,国民の知る権利とニュース記事の有料配信とは全く矛盾しない。
 インターネットは,情報が網の目のように張り巡らされた世界であり,すべてのページはつながっている。ライントピックス上にYOLリンク見出しが流れている場合,これをクリックすれば控訴人を情報提供元とするYahoo!ニュースの記事本文につながり,それは結局控訴人のヨミウリ・オンラインにもつながっている。そして,ライントピックスのユーザの多くがいわゆる一般市民やエンドユーザであることからすれば,被控訴人もまた一般市民の知る権利の一翼を担っているとさえいえる。控訴人のように国民の知る権利を盾に取り,インターネットの有用性と特質を自らのエゴでねじ曲げるような事態が決して許されてはならない。
以上からすれば,被控訴人の行為が違法でなく,何ら不法行為に該当しないことは明らかである。

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/d36216086504bdc349256fce00275162/0c642a4a124dc13d492570970018104b?OpenDocument

*2:http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/FEE475DAE38CD32849256EC300292612/?OpenDocument

*3:超スピード審理の知財高裁において原告側の主張の準備が間に合わなかったのか、それとも他の主張で勝てるという心証をつかんだゆえなのか、判決文の記載からは釈然としない。

*4:「見出し」の保護に2条1項3号を使うという発想は凡人にはなかなか出てこないものであるが、さすがに無理があったか・・・?

*5:新聞社からのクレームを受けて社内での記事のクリッピングをやめた会社でも、見出しだけは参照用としてイントラネット等に掲載している、というケースはあると聞いている。

*6:「商標的使用」のような逃げ道がなく、権利行使を免れうる「引用」等の要件についても厳格に判断される著作権の世界においては、さりげない使用法が著作権侵害につながることもありうる。

*7:原審では、おそらく日頃からの付き合いがあると思われる事務所+竹田稔弁護士(元高裁総括)を代理人に立てているが、控訴審では、知財の名門・TMIの弁護団を投入している。大企業であっても、原審と控訴審代理人を代えるというのは通常稀なことだが、知財訴訟に関しては、それが日常的になりつつあることを感じさせられる(青色LED事件で控訴審から投入された「長島大野常松」軍団の活躍は記憶に新しい)。

*8:データベースの複製に関する東京地判平成13年5月25日参照。確かに被告の行為は「フリーライド」ではあるが、これまでのネット上の慣行に照らして、さほど悪質なものには思えない。

*9:著作権侵害の時のような損害額推定規定を使えないために、一種の開き直り的な判断をせざるを得なかったのだろう。苦労は偲ばれるのだが・・・。

*10:もちろん、クレームを避けるために「任意」で行う使用料支払契約までは否定されない。